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「レオポルトは領主候補として育てられてないからな……どうにも不安よ」
祖父ディートフリートが、腕を組みながらぽつりとこぼした。
「では、お祖父様が領主をなさればよいのでは?」
思わず問い返すと、祖父はゆっくり首を振った。
「儂は武官だ。騎士団長を務めたが、領主一族としての教育は受けておらん」
(……え? じゃあ、誰も領主教育受けてないってこと!? この領地ほんとに大丈夫なの!?)
喉まで出かかった悲鳴を、私はどうにか飲み込んだ。
翌日。
私は地図を広げ、城下町の区画を指でなぞっていた。
「……ここからここまでの区画は、魔力供給を切ります。人の住んでいない建物や空き家は放棄。領民を居住区に集めて、効率的に魔力を回しましょう」
「そ、そんな……前例が……!」
リヒャルトが青ざめて声を上げた。
「領都の形を変えるなんて、大事件ですよ!」
「でも、生き残るためには広さより密度!」
私はきっぱり言い切る。
「このままでは、次に崩れるのを待つだけです!」
リヒャルトはしどろもどろになりながらも、必死に羊皮紙に書き込んでいく。
祖父は背後で腕を組み、うむ、と頷いた。
「一理ある」
その言葉のおかげで、下位貴族たちが次々と動き始める。
命令をサクサク聞いてくれるので、私は正直、びっくりした。
「……どうして、私の言葉をこんなに素直に聞いてくれるんだろう?」
不思議に思っていると、そっとグレーテが囁いた。
「お嬢様……皆様は、魔力の大きい方を前にすると、それだけで“威圧”を感じるのです。恐れ多い、と」
「えっ……」
そこで、ようやく気づいてしまった。
(もしかして……領主一族の中で、私の魔力量が一番大きい……?)
ぞくり、と背筋が冷える。
そのとき、父レオポルトが半笑いでやって来た。
「ああ、なんだか楽しそうだねぇ。……じゃあ、やってみる?」
「……領主様!?」
リヒャルトが悲鳴を上げる。
(この父とこの祖父で、この領地ほんとにやっていけるのか……!)
私は頭を抱えながらも、羽ペンを取り直した。




