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3

「……できました!」


机に広げられた羊皮紙の束を見て、私は満足げに息を吐いた。

お祖父様に戦闘報告の仕組みを教わり、リヒャルトに数字の並べ方を助けてもらいながら――ついに完成したのだ。


「書類の定型……ですか」


眼鏡を押し上げたリヒャルトが、感嘆したように声を漏らす。


「これなら誰が書いても見やすいです。いやぁ……助かります!」

「若い発想は素晴らしいな!」


祖父ディートフリートが豪快に笑った。


「これからも改良を重ねれば、領の記録はぐっと楽になるぞ」


(……前世社畜スキル、役に立った!)


私は胸の奥でガッツポーズ。


そのときだった。


――ドォォンッ!!


鈍い轟音が、城全体を震わせた。


「な、なに!?」

「お嬢様、危険です!こちらへ!」


グレーテが慌てて駆け寄る。

私たちは顔を見合わせ、音の方へ走った。


目に飛び込んできたのは、崩れ落ちた回廊。

使われていなかった西棟の一部が、瓦礫となって無惨に崩れている。


「……魔力不足だ」


祖父が低く呟いた。


「この区画に魔力供給が途絶え、支えを失ったのだろう」


(やっぱり……このままじゃ城ごと崩れる!)


私は振り返り、きっぱりと言った。


「居住区をまとめましょう! 今の城を全部維持するのは無理です。必要な場所を残して、コンパクトに再編すべきです!」


祖父の目が光った。だがすぐに眉をひそめる。


「……待て。行動に移す前に、必ず領主の許可を取れ。領主の裁可なくしては混乱を招くだけだ」

「……わかりました」


正直もどかしい。でも、確かに筋は通さなきゃ。


私たちは領主執務室へ駆け込んだ。


「父上! 西棟が崩れました!」

「おやまあ……」


執務机に座っていた父――レオポルトは、驚いたように目を丸くした。


「ですから!」


私は前に進み出る。


「城全体を維持するのはもう限界です。魔力不足で次に崩れる前に、居住区をまとめて再編しなければなりません。領主一族が率先して動けば、領民も安心して従ってくれます!」


言葉を一気に吐き出す。胸の鼓動が速い。

父はしばし目を瞬き……やがてにこりと笑った。


「なるほど……? まぁ、好きにしなさい」

「えっ……」


あっさり。

あまりにもあっさり。


「おい、レオポルト!」


祖父が机を叩いた。


「もっと領主らしく、吟味して答えぬか!」

「いやぁ、エレオノーラが言うなら間違いないだろうと思ってな」


父は悪びれもせず肩を竦める。


「……」


私と祖父は顔を見合わせ、同時にため息をついた。


(いや、それでいいの……?)


こうして、アイリシア領の「コンパクトシティ計画」は、妙にあっけなく動き出したのだった。

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