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魔獣退治の翌日。

山積みの報告書を前に、私は机に突っ伏しそうになっていた。


「……え、これ、ぜんぶ私が書くんですか?」


震える手に羽ペンを握ったまま、顔を上げる。

横で祖父――ディートフリートは、すでに疲れた顔をしていた。


「本来は領主一族が戦い、文官が記録を残すものだ」


「……文官?」


ぽかんと問い返す私に、祖父は額を押さえた。


「やはり……レオポルトのやつめ。また説明を怠ったな。領主一族には必ず専属の文官が付く。戦も、政務も、その手を借りて回していくものだ」


「そ、そうなんですか……!?」


(いや、初耳なんですけど!? 私、7歳でいきなり全部やらされる流れだったんですけど!?)


「安心しろ。昨年学院を卒業した信頼できる若者を割り振ってある」


祖父がそう言うと、扉がノックされた。


入ってきたのは、丸眼鏡の青年。

背は高いのに、どこか小動物みたいに所在なさげで、きょろきょろと部屋を見回していた。


「……り、リヒャルト・ヴェーグナーです。本日より、エレオノーラ様の側近文官を拝命いたしました……」


「わあ、声ちっさ」


思わず口から出た。

青年はびくりと肩を揺らして、赤くなる。


「す、すみませんっ」


(いや謝らなくていいから! ていうか、私よりずっと年上だよね!? なのに気弱オーラすごい!)


机に座らせると、さっそく羊皮紙の束を前に悪戦苦闘していた。

インクをこぼす、羽ペンを逆に持つ、書き間違えを消すのに五分……。


(あ、これだめなタイプかも……)


そう思いかけたとき。

数字の欄に入った彼の文字は、驚くほど整然としていた。

戦闘の被害数、使用した魔道具の数、魔力の消費量。全部きっちり揃っている。


「……あれ。意外と、ちゃんとしてる?」


「しょ、書類仕事は得意なんです! 父からみっちり叩き込まれましたので……!」


おずおずと言う彼の声に、私は思わず頬を緩めた。


(……気弱そうに見えたけど、数字は堅実。これは……使える!)


祖父はそんな私の顔を見て、にやりと笑った。


「どうだ、エレオノーラ。文官も悪くなかろう?」


「……はい。ちょっと見直しました!」


こうして私の最初の側近文官――リヒャルトが加わった。

頼りなさそうに見えるけれど、きっと一緒にやっていける……たぶん。


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