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「魔獣が出たぞーっ!」
領都から少し離れた村から、慌ただしい伝令が駆け込んできた。
聞けば季節性の魔獣の小群れが出没し、畑を荒らし始めているという。
城に集められた下位貴族たちは顔を見合わせるばかりだった。
本来なら上位貴族が前に立ち、剣に魔力をまとわせて大技で一掃するところだが……。
「領主家の人数が少なすぎて……」
「我々では、せいぜい灯りを点ける程度の魔力しか……」
弱々しい声ばかりが並ぶ。
怯えた領民はただ縮こまるしかなく、誰も「出撃しよう」とは言わなかった。
私はぐっと唇を噛んだ。
(……ああ、そうか。誰かが“やってくれる”なんて思っちゃいけないんだ)
本当は、領主一族が剣を取って、領民を守らなきゃならない。
でも父様は城から離れられず、正妻の母様はおっとり過ぎて事態を飲み込んでいない。
側妻はまだ新婚で右も左もわからない。姉は十二歳で学校に行ってる。赤ん坊の弟は泣くだけ。
つまり――。
(動けるの、私しかいないじゃん……!)
どくん、と心臓が跳ねた。
怖い。でも、やらなきゃ本当にこの領地は滅ぶ。
「……決めた」
小さく、でもはっきり口に出す。
「生き延びるために、この領地を立て直す。絶対に」
その言葉は、誰に聞かせるでもない誓いだった。
ただの七歳の子どもが、過労死社畜の前世持ちに戻った瞬間だった。
(二度と同じ失敗はしない。今度こそ、生き延びるんだ――!)
決意とともに胸の奥がじんわり熱くなる。
そうして私は、領地再建という名の戦場に足を踏み入れた。




