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城の一室で、私はグレーテに渡された帳簿や書類をぱらぱらとめくっていた。

止まった噴水や崩れかけの建物、城下の疲れた顔をした人々――全部、この書類に理由がある気がして。


「……ん?」


一枚の系譜に目を留める。

そこには「前代領主夫人:王女エリサベート」と書かれていた。その横には短く「政変の折、斬首」と。


「お嬢様……こちらに記されているのが、お母様でございます」


「……母?……え、私の母って王女だったの?」


「はい。七年前の政変で、多くの王族が粛清されました。その中に、エリサベート様も……」


グレーテの声は沈んでいたけど、私は意外なほど冷静だった。


「……へえ。そんなことがあったんだ」


意外とあっさり言えた。

だって記憶を探しても、母の姿なんて思い出せない。生まれてすぐに世話をしてくれたのは乳母のグレーテだし。


「お母様を恋しく思われませんか?」と心配そうに聞かれて、私は首を横に振った。


「いないものは仕方ないでしょ。……それに、今は領地を生き延びさせるので精一杯だから」


どこか自分でも驚くほど淡白な言葉が出た。

でも、前世で社畜をやっていた記憶がある身としては、失った親に縋るより、目の前の仕事を片付けるほうがずっと現実的だった。


城下に下りてみると、やっぱり耳に入るのは母のこと。


「あの王女が災厄を呼んだんだ」

「アイリシアが没落したのは、王家と関わったせいさ」


私は立ち止まらず、歩き続けた。

胸の奥は少しだけざわついたけど、すぐに押し込める。


「……ふうん。そういうことにされてるわけね」


声に出すと、不思議と気が楽になった。

私にできるのは、母を慕うことでも、領民の陰口に反論することでもない。崩れた領地を立て直すことだけ。


羽ペンを取り、書類の束にまた向かう。

今はただ――生き延びるために。

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