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「――エレオノーラ、こちらへ」
父、レオポルドに呼ばれて歩み寄ると、長椅子に家族が並んでいた。
「はじめまして、エレオノーラちゃん」
正妻のマルガレータはふわりと笑った。
緩やかに流れる声に、思わず肩の力が抜ける。
けれど同時に――(この人に領主夫人としての采配は、ちょっと……)と胸の内で小さく嘆息する。
「どうぞよろしくお願いします」
新妻のカロリーナはきちんと姿勢を正し、深々と礼をしてみせた。
まだ少し緊張が混じっているけれど、その誠実さは伝わってきて、私は思わず頷いてしまう。
「エレオノーラ。無理して緊張しなくていいのよ」
イザベラ姉さまが優しく微笑みかけてくる。
その眼差しはどこまでも穏やかで、隣に座る乳母グレーテが安堵の息を漏らした。
姉さまはしっかり者に見えて、実はとても家庭的だ。
夜になれば、必ずユルゲンに子守歌を歌ってあげる。
「……ぎゃあああ」
肝心のユルゲンは父の腕の中で泣き喚いている。
赤子らしい声が広間に響いて、場の緊張を少し和らげた。
(……やっぱり、この人たち“良い家族”なんだよな)
優しくて、真っ直ぐで――だからこそ、危うい。
領地は崖っぷちなのに、誰もそれを口にしない。
私は胸の奥でそっと呟く。
(だから、私がやらなくちゃ。誰かが舵を取らないと、この家も領地も沈むんだ)
小さく微笑んだ私を、家族はただ「可愛い子ね」と見ていた。




