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地図を広げ、領都の区画を指差しながら私は説明した。
「ここを切ります。空き家や崩れかけの建物を放棄して、居住区をこの範囲にまとめて……」
父レオポルトは、ふむふむと聞きながら頷いている。
「なるほどねぇ……でも、こことここは残そうか。あと、こっちの道は動かしちゃダメだよ」
そう言って、丸をつけたり矢印を書き足していく。
(……あれ、父上、意外とちゃんと見てる?)
次の瞬間、父が後ろに控えていた文官に指示を出した。
「該当区画の避難命令と、有力者みんな集めて」
城の会議室に急遽集められた領民の有力者たちに、説明会が開かれた。
父は相変わらずの調子で、にっこり笑いながら言った。
「皆さん。領都を小さくしましょう」
え?と戸惑いの声もあったけれど、祖父の威圧と父の鷹揚な笑み、そして新しい図面を前に、最終的には皆が頷いた。
こうして――城と領都の縮小が始まる。
これで少しは過労死が遠くなったと思い、私は胸を張って宣言する。
「これが、領地再建の第一歩です!」
声に出すと、心の奥までじんわり温かくなる。
「領地再建、始動!」
ぱん、と手を打った。
その音はやけに軽快に響いて、まるでこの先を明るく照らしてくれるようだった。
それをニコニコ見ていた父が手を差し出した。
「よし、やってみよう。……エレオノーラ、手を」
祖父ディートフリートも反対側から手を重ねてきた。
「領主一族の務めだ。お前もやってみろ」
三人で手を繋ぐと、ずるりと掌から力が吸い取られていく感覚に、私は目を見開いた。
「な、なにこれ……!」
父が小さく、聞き取れない呪文を唱える。
すると、机の上に置かれた地図が――ふわりと揺らぎ、はためき始めた。紙なのに、まるで強風を受けた旗のように。
「――っ!?」
轟音が響き、城全体が揺れる。窓の外を見ると、遠くの区画が地響きと共にずれていき、まるで大きなパズルのように街の形が縮んでいった。
父は満足げに手を離すと、にこにこ笑った。
「できたよ。これでコンパクトになったね」
「……え、今のって」
「城や街は魔力で形作られてるからね。領主一族の魔力を合わせれば、一気に動かせるんだ。……しかし、エレオノーラは魔力が多いねぇ。おかげで早く済んだよ」
(……のんきすぎるだろ、この人……!)
私はまだ心臓がどきどきしているのに、父はにこにこと呑気に言うばかりだった。




