第94話 アルフェクダ王の目論見
有無を言わさず襲い掛かってきた襲撃者を簡単に返り討ちにしたミコトは次の街へと足を進める。
ミコトが襲われる数十分前、アルフェクダ城の玉座の間にて。
「兄上、どうやらメルディンが古文書を解読し勇者を召喚したとの知らせが参りました」
「それは誠か!? よしメルディンを呼べ!」
「はっ!」
部屋の隅に控えていた騎士が男の指示によって部屋から出て行き数分が経過した頃。
「失礼致します。 メルディン姫をお連れ致しました」
「よし入室を許可する」
「では姫、此方へどうぞ」
地下室で女性の後ろで控えていた、2人の男と同じ鎧を着込んだ男が姫に入室を促す。
「失礼致しますお兄様、いえデュラミア国王陛下」
「うむ。 聞けば勇者を召喚したそうだが、その者は今何処に居る?」
「はい、既に城内には居りません。1000GLの支度金を手渡し、魔王退治に向かわせました」
「魔王だと!? 一体何の事だ?」
「これは異な事を。アルテミア兄様が幼少時の私にお話してくれたではありませんか?」
「アルテミア、誠か?」
「はい兄上。 御伽噺として言い聞かせたつもりでしたが、まさか本気にするとは思いも寄りませんでした」
「『本気にする』とはどういうことですか?」
「どうもこうも、お前に聞かせた話は私の作り話だと言う事だ。 確かに魔族は北の最果ての地に居るが、奴等は他のエルフや妖精族と同じく争いごとを好まぬ種族。 人間に害を為す魔王など居るわけが無い」
「で、では私のしたことは?」
メルディンは両手で顔を覆い、膝を落として涙を流していた。
「まぁそう悲観する事も無い。 邪魔な種族を片付けることが出来て一石二鳥という訳だしな。 しかも我々の手を汚さずに事が片付くのだから此れほどめでたい事はない」
「邪魔な種族?」
「そうとも!この地に住まうものは我等人間だけで十分だ。バケモノどもは此処で退場してもらい、我が全大陸を統一し覇者となるのだ。アーハッハッハッハ!!」
「してメルディン、勇者を召喚せし巻物は如何した? 其れがあれば、我が騎士を損失する事はなく高い能力を持つ軍隊を作る事が出来る」
「残念ながら召喚と同時に燃え尽きてしまい、手元にはございません」
「そうか・・・なら仕方が無いな、下がってよいぞ」
「ですが、お兄様!」
「俺は下がれと言ったのだぞ?」
「分かりました。 失礼致します」
メルディンは騎士に連れられ部屋を後にした。
「さて兄上、どう思われますか?」
「理由は分からぬがメルディンが嘘をついていることは確かだな。 よしアルテミア、闇ギルドに手配を頼む」
「分かりました。 勇者の生死に関しましては、いかが致しましょうか?」
「奴には魔族を倒してもらわなくてはならないからな。 殺す事だけは禁ずる、それ以外なら何をしても構わぬと伝えろ!」
「了解しました。 それでは失礼します兄上」
アルテミアは部屋の外に気配を消して控えている、黒尽くめの鎧を着込んだ男に闇ギルドへの依頼書を手渡し、その場を後にした。
姿が見えない事を最大限に利用して、玉座の間での会話を聞こうとしていたフレイだったが何故か見えない壁に行く手を塞がれる様に室内へ入れなかった。
(どうして? 人間とは違って身体を持たない、精霊の私が何故入れないの?)
フレイは幾ら頑張っても、見えない壁に阻まれて入る事のできない玉座の間への侵入を諦め、情報収集のため城内を飛び回っていた。
(そういえばシルフは今頃、何処に居るのかな?)
ところ変わって此方はミコトの傍に居るミラ。
(主様、只今シルフより念話が届きました。)
(シルフから?どんな内容だった?)
(念話によりますと、姫は『取り返しの付かない事をしてしまった』と自己嫌悪しているようです)
(自己嫌悪? 如何してそんな事に)
(姫の独り言を聞いていたシルフによると魔王は最初から存在していなかったとの事です。 地の果てにいるのは人々に害を為さない魔族だと)
(それで俺を召喚して魔族を滅ぼしてしまうという罪悪感に押しつぶされているという訳か)
(主様、如何なさいますか?)
(遅かれ早かれ、あの国の襲撃が魔族に及ぶ事は確かだろうからな。 忠告だけでもしてやらないとな)
(分かりました)
こうしてミラと話をしている間も、次から次へと襲い掛かってくる襲撃者の打ち倒しながら魔族に命の危機を知らせるため、何時着くか分からない距離を只管に歩み続けた。
アルフェクダを出発後して4日が経過した頃、アルフェクダとは比べ物にならないほど賑やかな街にたどり着くことが出来た。
「ここは元気のある街だな」
「おや?君は冒険者かい? 此処はザンカールの街だよ。」
街の様子を眺めていると門番だと思われる、1人の男性に声を掛けられた。
「この辺りでは見ない顔だね。 何処から来たんだい?」
「此処から遠く離れた地から、アルフェクダを経由して来ました」
俺がアルフェクダという言葉を口にした直後、男性の顔色が変化した。
「あの街を通ってきたのか。 何もされなかったかい?」
「数回、襲われましたが何とか撃退する事に成功して此処まで来る事が出来ました」
「そうか・・・あの街も前の王が生きていた頃は住みやすい地だったんだけどね。 今の王になってからは地獄と言っても過言ではないほどに荒れ果てているからね」
「地獄ですか?」
「おっと、俺がこんな事を言った事は秘密にしておいてくれよ?」
門番の話を聞くだけならば、かなりの酷さのようだ。
レグリスの国もこのような状態だったのだろうか・・・。




