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異世界を渡りし者  作者: 山田 隆行
風の精霊編
97/230

第92話 消えた魔道技師

この話で風の精霊の世界は終了です。


次は、どの精霊の物語を作ろうかな~~~

エルフの森の直前にある砂漠で謎の魔物を倒した俺はジェニスとともに村へと歩いていた。

途中、2人の侵入者を解放(置き去り)にした場所が気になり、立ち寄って見たのだが其処には血の痕はおろか、争った形跡がない事から無事に逃げ出せたとの考えに至った。

森に入ってから凡そ1時間後、エルフの集落へと到着すると、まるでこの時間に戻ってくる事が分かっていたかのように長老が集落の入口に佇んでいた。


「お疲れ様でした、ミコト様」

「どうして俺たちが戻ってくる事が分かったんだ?」

「風の精霊様復活により、森に住まう精霊たちが貴方様のご帰還を知らせてくださいました」

「そうか、それなら納得がいくな・・・」


俺と長老が会話をしていると、長老に無断で集落から外界へと出たジェニスが俺の後に隠れるようにして服の裾を握り締め、長老と目をあわさないようにしていた。


「さて・・・。 ジェニス、此方に来なさい」


長老に名指しで呼ばれたジェニスは、俺が振り向いて確認する必要も無いほどブルブルと震えていた。


「ジェニス、頭の良いお前なら私が何を言いたいのか分かっているね?」

「長老様、申し訳ありませんでしたーーーー!!」


ジェニスは所謂、土下座のような体勢で地面に跪き長老に許しを請うていた。


「ミコト様の手伝いをしたいというお前の気持ちも分かるが、かえって足手纏いになるとは思わなかったのかね?」

「まぁまぁ長老、俺は気にしていないから其れぐらいで勘弁してあげてくれないか? ジェニスもこうして反省しているようだし・・・」

「貴方様がそう言われるのであれば、致し方ありませんな」


ジェニスは俺と長老との会話中も額を地面に擦り付けて謝罪していた。


「此度の長老である、私の許可無く外界へと出た件に関してはミコト様の手伝いと言う事で不問とする」


長老から『不問』という言葉を聞いてジェニスがようやく顔を上げた。


「ただし! 外出の件は不問とするが、姿見の魔道具を持ち出したとして罰を与える」

「何をさせる気ですか?」

「それほど難しい事ではありませんよ。 ジェニスには狩用の弓を50と矢を500作成する事を命ず。 ただし期限は無期限とし、弓矢の出来が良質であればあるほど恩赦を与えるものとする」

「了解いたしました。 エルフの民、ジェニスの名において一生懸命、道具作成に取り組む所存です」


ジェニスは此れだけをいうと俺と長老に深々と頭を下げ自分の家へと歩いていった。


「長老・・・」

「貴方様の言いたい事は分かりますが、罰は罰です。 仮に何の罪も問わなければ他のエルフの民に示しがつきません。 それが我が身内も者なら尚更の事でございます」

「そうか」

「それにジェニスはああ見えて道具作りの達人です。 現存する弓矢や鍬、棍棒などといった、簡単な道具に至る、全てがジェニスの手によるものです」

「それじゃあ、それほど難しい事でもないんだな」

「はい。 やはり、身内なので甘さが出てしまいましたな。 そんな事よりミコト様、風の精霊様の下へとお願い致します」


俺は長老に連れられ長老の家の後方に聳え立つ、風の精霊が宿りし巨木、世界樹へと足を運んだ。

其処には数日前まで枯れ木同然であった巨木が、瑞々しい青緑の葉で元気に立っていた。


「これは・・・。 此処まで見違えるほどに復活したのか」

(あ、主様お帰りなさい。 怪しい人達は誰も来なかったよ)

(ご苦労様、フレイ)

(えへへへへへへ・・・・)


実体の無いフレイの頭であろう場所をそっと撫でるように指を這わすとフレイは何度も何度も空中で宙返りをしながら上へ上へと昇って行った。

フレイの昇って行った場所を見ているとフレイのような赤い光ではなく、未だ弱々しい明滅の光を放ちながら緑色の光が真っ白の光とともに俺の前へと降りてきた。


(主様、御手数をお掛けいたしまして申し訳ありませんでした。 風の精霊でございます)

(気にしないでいいさ。 悪いのは2人の侵入者さ、精霊が落ち込む事はないさ)

(ありがとうございます)

(早速で悪いんだが、風の宝玉を貰えるか? 体調が回復していないなら無理はしなくても良いんだぞ?)

(其れぐらいなら問題ありません。 お渡しいたしますので精霊の腕輪を前に出してください)


俺は風の精霊の事を気にしながら左手首に嵌っている腕輪を前に差し出すと、淡い緑色の光とともに火の宝玉の隣に緑色の宝玉がピタリと収まっていた。


(これで3個目か、先はまだ長いな)


口に出さずに此れからの事を考えているとミラが話しかけて来た。


(主様、今すぐに旅立たれますか?)

(いや、風の精霊の具合が未だ本調子じゃないみたいだからな。 もう暫く村に滞在する事にするよ。 それに、まだ風の精霊に名前をつけてあげてないから)

(お優しいですね、主様)

(当たり前だろ? 大事な俺の仲間なんだから)

(私達精霊が神である貴方様の仲間ですか!? ありがとうございます。嬉しいです)


この遣り取りのあと1ヶ月ほど村に滞在し、風の精霊もフレイとともに飛びまわれるほどに霊気が回復した。 

ちなみに1週間ほど前に風の精霊にシルフという名を与えると、一際明るい緑色の光を放ちながら喜んでいた。


更にドゥールの魔道具に関することや森に入る直前で襲われた魔物については何一つとして情報は入ってこなかった。


一応、長老や狩りを得意とするエルフの若者にも聞いてみたのだが、身体が跡形もなく消滅する魔物など聞いたこともないという話だった。


風精霊に名前を付けて直ぐにドゥールの事が気になり、1人でメグレスの街に行ったのだが、屋敷のあった場所は更地と化していた。

街の人たちに聞いた話に寄れば、たった一晩のうちに瓦礫の山と化していたという。

しかも不思議な事に屋敷の主人であるドゥールを始めとして執事であるセイバス、複数の使用人の遺体はおろか、血痕さえ見つかっていないと言う事だった。

街の出入り口である衛兵に聞いてみても1日中、交代で見張りをしていたがドゥール達が街から外に出た気配はないとのことだ。

俺はどんな未知の力が働いてこうなったのか見当もつかず、集落へ戻ろうとしたが、魔道具を売却したお金が残っているのを思い出し次の世界に備え、食料品(主に肉類)を購入しエルフの森へと戻った。


そして数週間の日時が経過し、次の異世界への旅立ちの朝を迎えた。


「長老、お世話になりました」

「いえ此方こそ、貴方様がいなければ風の精霊様ごとエルフの集落は滅んでいた事でしょう。 大変感謝しております」

「俺がこの世界から旅立てば、貴方達から俺の記憶は消えると思いますが、どうか御元気で」

「は?記憶が消える?何の事を仰っているのですか?」

(主様、エルフの民は精霊の加護を受けし存在。 今までの世界のように私達の記憶がなくなるというようなことはありません)

「なるほど、そういうことでしたか。 謎が解けました」

「そうか長老も精霊の声が聞えるんだったな」

(それに時空神クロノス様にお会いになられれば、何時でも行った事のある世界に戻る事が出来ます。  主様が例えばマルベリアの地に再び降りられれば、エミリアさんやシルヴィアさん達の記憶も復活します)

(だけど俺が旅立ってから何年も経過している世界だろ? 他の皆が歳をとっているのに俺だけ若いままだと可笑しくないか?)

(時空神様はその名の通り時間を司る神様です。 そうなれば、旅立った直後の時間に戻る事も可能です)

「あの~お話中のところ申し訳ありませんが、何のことを話されているので?」


長老は頭にいくつもの?マークを浮かばせながら俺を見ていた。


「ああ、すまない此方の話しだ。 それでは長くなったが、此れで失礼するよ」

「ミコト様もお元気で。 またお会いできる日を楽しみにお待ち申し上げております」


その会話の直後、ミラやフレイ、シルフといった精霊達に囲まれながら、俺の姿は掻き消えるようにこの世界から消えた。



(3/4)少しだけ訂正しました。


『魔道具をドゥールに売却した時のお金はどうなった?』との感想を頂き、書き忘れていたことに気が付いたため、少しばかり文章を書き加えました。

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