第91話 黒き襲撃者
お待たせしました!
少しばかり展開に悩んでしまいました。
ドゥールの屋敷にて魔道兵器の実情を知ったミコトとジェニスはというと。
屋敷から宿屋の自室に戻った直後、ジェニスが使用していた姿見の魔道具の効力が切れ、元のエルフの姿へと戻っていた。
そのため魔道具が再使用可能となる翌朝まで人前に出る事が出来ず、病人扱いされる事となった。
「お連れさんの具合は大丈夫かい?」
「ええ、この街までの慣れない長距離移動をした所為で疲れが出てしまったんだと思います」
「それなら体力がつく料理を作らないとね」
「お手数をお掛けします」
「構わないよ。 大事なお客様だからね」
それから数分後、宿の主人特製の薬膳粥を持って自室に戻ると申し訳なさそうな表情のジェニスが椅子に腰掛け佇んでいた。
「ミコト様、申し訳ありませんでした」
「謝ることは無いさ、誰の所為でもないし。 魔道具の効力が切れただけに過ぎないのだから」
「はい」
「あと宿の主人にはジェニスは長距離移動での疲労と言う事にしてあるから、それと此れは主人特製の薬膳粥だよ」
「何から何まで・・・。 私が付いて来なければ、このような事にはならなかったのに」
「俺を手助けするように長老から言われたんだろ? 気にしなくてもいいさ」
「違うんです!」
「え!? 何が違うんだ?」
「この事は長老様は知りません。 私が独断で付いてきただけです」
「やっぱりそうだったか・・・」
「えっ!? 何時から気づいてらしたのですか?」
「最初からだよ。 長老に言われて手伝いに来たのなら、俺を尾行する必要は無いだろうしね」
「重ね重ね、申し訳ありませんでした」
「だから構わないって、ところで魔道具は翌朝には使用できるようになるんだよね」
「はい、それは間違いないかと」
「明朝一番に宿を出て森に向かうから、それまで身体を休めておいてくれ。 もしかしたら竜巻以上の災難が降りかかる恐れがあるから」
「? 分かりました」
ジェニスは其れだけを言うと何時の間にやら食べ終わっていた、薬膳粥の入っていた空の器をテーブルに置きベッドに横になってしまっていた。
数分後には本当に疲れていたのか静かな寝息を立ててジェニスは熟睡していた。
(ところでルゥ、あの話は本当か?)
(屋敷を出た時に感じた不穏な気配の事を言っているのでしたら、間違いありません。)
魔道具の効力を失って耳がエルフ特有の長い耳に戻りかけていたジェニスを逃げるようにして宿へと飛び込む直前に、ルゥから強大な何者かの気配がドゥールの屋敷内からすると報告を受けていたのだ。
(街から外に出た瞬間、俺たちを襲おうとしていた魔物が居たという訳か)
(そう考えるのが妥当だと思いますが、確証はありません)
出来ればジェニスを巻き込みたくは無いので出会わない事を祈りつつ、その日は眠りについた。
翌朝、魔道具で姿を変化させたジェニスとともに宿を出発して森へと向かう事にした。
「昨日も言ったが、竜巻以上に魔物が現れる可能性が大だ。 注意して進むぞ!」
「分かりました」
ジェニスに注意を促しながら砂漠を歩き続ける事、数時間・・・。
ようやく森の入口が見え始めた頃、何者かの殺意ある気配が背後から俺たちに襲いかかろうとしていた。
「ジェニス、森へ走れ!急げ!!」
「しかしミコト様は」
「俺のことは構うな!振り向かずに森に逃げ込め」
「は、はい」
ジェニスが森へ逃げ込むのを確認した後、気配のする方へと剣を向けて立ちはだかった。
剣を抜いた理由としてはルゥの言うとおり、何者かの気配を感じたことと相手が俺しか見ていなかった事だ。
それが証拠に森へと逃げ込んだジェニスに対して気配は動いては居なかった。
「何者だ!姿を見せろ」
「黒キ髪ヲ持ツ者・・・殺ス!」
ソレは空中から黒い靄を見に纏いながら姿を現した。
その形といえば黒豹に鷹のような翼が生えた獣だった。
「アノ御方ノ命令ニヨリ、貴様ヲ処分スル!」
「『あの御方』? 何のことだ!」
「問答無用!」
黒き獣は上空から飛来しながら俺目掛けて突進し、鋭利な爪で引き裂くように攻撃したり、口からブレスを吐いたりして俺を苦しめる。
「サンダーボール!」
魔法を放って、空中を移動しながら襲い掛かってくる魔物を攻撃するが、速度が早すぎて捉えきれず不発に終わった。
「駄目だな・・・捉えきれん」
「フフフッ、人間如キノ魔法デ我ヲ倒セルト思ッタカ!」
魔法を放った直後の無防備になったところへ口から火炎ブレスを吐いて俺を苦しめる。
(マスター! 大丈夫ですか?)
(俺は不死身だから特に問題はないが、このままでは埒があかないな。 こうなったら捨て身の行動に移すしかないのかもな)
(私的には、あまり賛成しかねますが・・・)
(だが、この場合は仕方ないだろう)
ルゥを無理矢理納得させた俺は攻撃で致命傷を受けたように見せかけるため、滑空しながら襲い掛かってくる鉤爪での攻撃をワザと受け、別段傷は負ってはいないが手を攻撃を受けた場所に携え、地面に跪いた。
「ククク、ツイニ力尽キタ様ダナ。 人間ニシテハ頑張ッタヨウダガ、此レデ止メダ!」
黒き獣は口から此れまで以上の大きさの火炎球を打ち出しながら、其れと同時に鉤爪のような鋭利な爪で同時攻撃を繰り出してきた。
俺はこのままでは埒が明かないと感じ、自分から打ち出された火炎球に飛び込むようにして剣を構えて飛び掛った。
「ナニ!?」
黒き魔物も逸早く俺の捨て身の行動に気づいたようだが間に合わず、自分自身の速度が仇となってかわすことが出来ずに剣で串刺しとなった。
「タカガ人間如キニ我ガ敗レルトハ・・・イヤ、人間デハナイナ。 ヌシヲ人間ト侮ッテイタ、我ノ愚カサガ招イタ事カ・・・」
黒き獣はそれだけを言い残し、始めから存在していなかったかのように獣の身体は塵となって空中に消え失せた。
(いったい何者だったのでしょうか? 倒してしまった今となっては、分かりませんが)
(まぁいいさ、風の精霊が待つ森へ急ぐとするか)
(そうですね)
剣に付着した魔物の血液を振り払って森へと足を進めると、森の中から心配そうに此方を見ていたジェニスとともにエルフの集落に向けて歩き始めた。
一方その頃、とある場所では。
「ふむ、魔物の数倍は実力があると言われる妖獣を難なく退けるとは期待が持てそうだな」
「◆◆◆◆様、下界ばかり見てないで仕事をしてくださいよ。 山のようになってますよ?」
「お前が次から次へと持ってくるからだろうが!」
「あの御方の事が気になるのは分かりますが、今は此方の仕事を優先的に行なってください!」
「お前も融通が利かぬ奴だな」
「◆◆◆◆様!」
「分かった分かった。 ミコトよ、此処に無事辿り着くのを楽しみに待っているぞ」
「書類の追加、お持ちしました~~~」
「いい加減にしろーーーー!!」