第90話 魔道兵器
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ありがとうございました!
此れからも『異世界を渡りし者』を宜しくお願いいたします。
俺とジェニスが屋敷の応接室へと通されて数分後、2人分の足音が近づいてきた。
「やっと来たみたいだな」
「緊張しますね」
そんな会話をしていると徐に音も無く扉が開いた。
「お待たせいたしました。 此方が我が御主人様であらせられるドゥール様で御座います」
セイバスに連れられて部屋に入ってきた男をみると成金貴族でありがちな、ブヨブヨな御腹を揺らせながら脂ぎった顔の太目の男だった。
「セイバスゥーー、この者達が客人か?」
「お初にお目にかかります、私はミコトと申します。こっちはジェニスです」
太っちょ男性を見て直ぐに自己紹介をし、隣で笑いを堪えているジェニスの足を抓んで頭を下げさせた。
小声で文句を言っているが聞かなかった事にしておこう。
「あーよいよい。堅苦しい事は抜きにして魔道具を見せてもらってもいいかのぅ?」
ドゥールはドスンっと椅子に腰掛け、今か今かと子供のように待ちわびているようだった。
「あ、はい、此方がそうです」
「ほう?セイバスの言っておった通り、見た事が無い代物じゃのう」
「恐れ入ります」
ドゥールは目の前に置かれた魔道具を引っ繰り返して見てみたり、ルーペのような物を取り出して舐めるように必死な形相で見ていた。
「此れを何処で手に入れたのじゃ? 見た事の無い文字が彫ってあるようじゃが?」
「此処よりはるか遠方にある商業都市で売られていた魔道具です。効果は装備者の体力回復です」
まぁ遠方といえば遠方だな。 たとえ何日掛かろうと何年掛かろうと辿りつくことは出来ないが・・・。
「体力回復の効果か、すまんが此れを売ってはくれまいか?銀貨50枚でどうじゃ?」
俺も見せるだけで売る事までは想定してなかったので腕を組んで考えていると、その行為を勘違いしたのか次の瞬間には交渉をしだした。
「そなたが貴重な魔道具を手放したくない気持ちは良く分かるが、此方としても是が非でも手に入れたいのじゃ!頼む、金貨1枚で売ってはくれぬか?」
うまく行けば魔吸石を材料にして作られる魔道武器が見られるかもと思い、交渉する事にした。
「其処まで言うなら分かりました。ただ条件があるのですが宜しいですか? それによっては銀貨50枚で売ってもいいですから」
「本当か!? 何でも言ってみるが良い、余程のことでない限り条件を飲むぞ?」
「それでは・・・風の噂で聞いたのですが、此方では魔力を糧として動く魔道兵器があるとお聞きしました。私も魔道具にはとても興味があるのでお見せしては貰えませんか?」
「ほう?耳が早いのぅ、そんなもので良ければ直ぐにも見せてやろうぞ」
「良いんですか?」
「構わん構わん、セイバス!この者達を案内しろ。それと銀貨50枚も手渡してやれ」
「了解いたしました」
そうしてセイバスの案内のもと、倉庫へとやってきた俺たちはバズーカ砲のような魔道具を見せてもらった。
「此れがドゥール様が長年研究し作り上げた魔道兵器で御座います」
「これはまた・・・独特な形をしていますね。何処から魔力を注ぐのですか?」
「いえ、魔力を注ぎ込むのではなく、現在は此処にはありませんが魔吸石という魔道具から魔力を取り出して其れをセットして打ち出します」
「魔吸石ですか?それも聞いたことはありませんが、どのような物なのです?」
「知らなくて当然です。 魔吸石は一般には販売してはおりませんので・・・仕様も残念ながら極秘扱いとなっております。」
「込み入った事をお聞きして申し訳ありませんでした」
「いえ、此方こそお役に立てなく申し訳ありません」
そうか魔吸石はあいつ等から奪ったアレが全部なんだな? アレさえなければ魔道兵器は只のガラクタという訳か。
「それでは私の用は済みましたので、此れにて失礼させていただきます」
「何のお構いも出来ず」
「いえ、そんなことは・・・。」
その後、何のトラブルも無く館の外へ出て宿屋へと歩いていった。
振り返ると此方に向けて只管にお辞儀をしているセイバスの姿があった。
「ミコト様、うまく行きましたね。どうなる事かと冷や冷やしました」
「まだ分からないぞ? もしかしたら襲撃があるかもな」
「怖い事、言わないで下さいよ・・・」
ジェニスと歩きながら喋っていると、不意にミラからの念話が届いた。
(主様、聞えますか?)
(ミラか、如何した? 何かあったのか?)
(いえ、フレイからの知らせで風の精霊が意識を取り戻したと報告がありました)
(そうか良かった。なるべく早く戻るから待っていてくれと伝えてくれ)
(分かりました。)
「ミコト様?何かあったのですか?」
「ああ、ミラからの知らせで風の精霊の意識が戻ったんだそうだ」
「本当ですか!?なら直ぐに出発しましょう!」
今にも走って行きそうなジェニスの手を掴み、落ち着かせる。
「まぁ待て、今から出発したら向こうに着くのは真夜中だ。 此処は宿屋で一泊して、明朝に出発する方がいいだろう。真っ暗闇の中で魔物に襲われたくはないだろ?」
ジェニスは俺の『魔物に襲われる』という言葉で実際に想像したのか軽い身震いをしていた。
「・・・分かりました。そうします」
そうして少し早いが数時間前に出発した宿屋へと戻ることになった。
その頃、ドゥールの屋敷では・・・・・・
「セイバス、この魔道具を研究班に渡し、解析をしてくれ!」
「了解いたしました。 それで、あの者達の処分はいかが致しましょうか?」
「ほっとけ。見た感じでは魔力は極僅かしか感じられなかった。 放っておいても害は無いだろう」
「分かりました」
「ところで魔吸石を預けた2人はまだ戻って来ぬのか? 幾らなんでも遅すぎるだろう」
「未だ戻ってきた形跡は御座いません。 捜索隊を出しましょうか?」
「そうしてくれ!場合によっては魔吸石だけでも回収して来いよ?アレには予備は無いのだからな」
「はい。それでは失礼致します」
そう言ってセイバスは扉を開いて立ち去っていく・・・。
「ふはははははははは!!これであの魔道具が複製できれば大儲けができる!あの者達に感謝だな」
ミコトが一番の儲けの元となる、魔吸石が無くなる原因を作った本人だとは知らないドゥールは、その後延々と高笑いをし続けていた。
そしてセイバスはというと・・・
「ドゥールは『ほっとけ』と言っていたが、何かが気になるな。 我が手の者に始末させるか」
セイバスが誰もいない部屋の中で手を叩くと空間に魔方陣のような物が浮かび上がり、次の瞬間には翼が生えた獣が床に鎮座していた。
「来たか・・・標的は黒髪の男だ、処理方法は任せるが確実に息の根を止める事。 以上だ、では行け!」
翼のある獣は一言の言葉も発せずに頭を下げると黒い靄を身体から噴出し、数秒後には身体を掻き消していた。
「ふふふっ此れで我が計画は最終段階へと進む・・・待っておれ!愚かなる人間どもよ」
ミコトが懸念していた、そしてジェニスが恐れていた襲撃が今まさに実行されようとしていた。