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異世界を渡りし者  作者: 山田 隆行
風の精霊編
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第89話 元凶のもとへ潜入

お待たせしました。


どういう展開に持っていこうか散々悩み続け、漸く形にすることが出来ました。

結果から言えば、ジェニスが目を覚ましたのは日が完全に落ち、空が夕焼けから暗闇になる直前だった。


「はっ!? 此処は何処なんでしょうか。知らない天井です」


某転生者のような台詞とともにベッドから勢い良く起き上がりキョロキョロと辺りを見回している。


「ようやく起きたのか」

「あ、ミコト様、おはようございます」

「おはようって・・・。今は夜だぞ?」

「申し訳ありません。それで此処は何処なのですか?」

「此処は目的地であるメグレスの宿の一室だ。竜巻から逃げるためとはいえ全力で走ってしまったからなジェニスが速度に耐え切れずに気絶してしまったんだ、それで担いで宿屋に運んだというわけだ」


俺が此処に居る理由からジェニスの意識が途切れてしまった内訳を話していくと、まるで信号が赤から青に変わるように顔色が変わっていった。

全てを話し終えると先程までベッドの上で話しを聞いていたジェニスはベッドから飛び降りると床で土下座のような格好で泣きながら平謝りをしだした。


「重ね重ね御迷惑をお掛け致しまして、誠に申し訳ありませんでした!」

「いや俺と違ってジェニスは普通の人間だからな、しょうがないさ。だから顔を上げてくれないか?」

「は、はい・・・」


ジェニスは俺に許しを請うと、涙を袖で拭いながら静かに立ち上がり、俺に一礼して椅子へと移動した。


「これから如何なさるのですか?」

「あの侵入者の2人から聞いた話では魔吸石に関係してるのは、ドゥールという魔道具作成の権威だという事だったから此処は一つ、芝居を打とうかと思ってね」

「芝居・・・ですか?」

「ああ、俺がこの世界に渡る前に購入した魔道具をドゥールに売りに行くか。 もしくは魔吸石の事を拾ったとか言って潜入するかだけど・・・魔吸石を渡すような馬鹿な真似はしないけどな」


そう言って俺はジェニスが眠っている間に異空間倉庫から取り出した体力回復の永続効果のある腕輪と壊れかけの魔道具をテーブルの上へと置いた。


「前者なら交渉が必要なだけで危険なことは何も無いが、もし万が一に後者になってしまった場合はジェニスに何らかの身の危険がある」

「ミコト様、私なら構いませんので、お気になさらないで下さい」

「駄目だよジェニス。 自分の命を軽視しては、俺は敵味方誰にも特に仲間には傷ついて欲しくはないんだ」

「仲間ですか、ありがとうございます」


ジェニスは俺に仲間と言われた事により、先程の悲しみの涙とは違う嬉しさの涙で頬を湿らせていた。


「それでだ。後者だった場合は危険だからな、この腕輪を随時装備しておいてくれ」


そう言ってテーブルの上に置いてある、腕輪をジェニスに差し出した。


「この腕輪は? 何か魔力を感じますが・・・」

「これは体力回復の永続効果のある魔道具だ。 装備者の怪我の治りを早めてくれる効果がある」

「ありがとうございます」

「此れはあくまで保険だという事を憶えておいてくれ。 俺のことは心配しなくても良いから、絶対に自分から危険な真似はしないように!分かったね?」

「分かりました」


ジェニスとの今後の確認をしていると、部屋の扉をノックする音が聞えてきた。


「お客さん、夕食の準備ができましたよ」

「分かりました!直ぐに行きます」


俺が其れだけを言うとパタパタという足音とともに気配が遠ざかっていった。


「まずは腹ごしらえだな。 ジェニスも今まで寝てたんだから腹が減っているだろ?行くぞ!」

「は、はい!」


その後、俺もジェニスも初めて口にする見た事の無い料理に違和感を憶えながら恐る恐る口にしていた。

結果から言えば良くも悪くも無い普通の肉料理であったが、何の肉であったかは教えてもらえはしなかった。

そして夜が明け、実行に移す時が訪れようとしていた。


「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」


宿代として銅貨50枚を支払って宿屋を後にしたが、最後まで高いのか安いのか分からなかった。


「それでは如何しましょうか?」

「まずはドゥールの屋敷が何処にあるかからだな」


おれはとりあえず、近くで食べ物屋を開いている男に道を聞く事にした。


「すいません、ちょっとお尋ねしたい事があるのですが?」

「ん?何か聞きたい事があるなら商品を買ってくれないか?」


屋台の店主は何かを買ってくれなければ質問には応じないという、頑固な性格だったため一番安い果物のジュースを2人分購入する事にした。


「はぁ、分かりました。それじゃあ、この飲み物を2つで」

「まいどあり、銅貨10枚だ。 それで聞きたい事ってなんだ?」

「えっと、この街に魔道具製作の権威のドゥールって人が住んでると聞いたんだけど、場所が分からなくてね」

「ああ、それなら此処の正面にある、赤い煙突が立っている建物がそうだよ」

「まさか目と鼻の先にあったとは・・・」

「兄ちゃん達、この街の住人じゃないね。 ボラれないように気をつけなよ?」

「分かりました。 ありがとうございます」


屋台の店主に教えられたとおりに屋敷へと足を運ぶと入口の扉には大きく文字が書かれていた。


“用の無い者、ひやかし、お断り! ただし、珍しい魔道具を持つ者は大歓迎!!”と・・・。


俺は用意しておいた魔道具にそっと手を触れ、扉をノックする。

数秒後、扉が開かれ中から立派な口髭が特徴の中年男性が姿を現した。


「何か御用ですかな? 扉に書いてあります通り、冷やかしはお断りですぞ?」

「冷やかしでは御座いません。 珍しい魔道具を持っていますのでドゥール様にお目通り願えませんか?」


俺が珍しい魔道具と口にすると明らかに目の前の中年男性の目の色が変化した。


「魔道具ですかな? ふむ、ご迷惑でなければ見せてもらってもよろしいですかな?」

「あ、はい。これです」


俺はポケットに無造作に入れていた腕輪型の魔道具を目の前の男性にそっと手渡した。


「ふむ、確かに見た事の無い魔道具ですな。 分かりました、御主人様に御会いなさって下さい。 申し遅れました、私は此方の屋敷で執事をやらせて頂いておりますセイバスと申します。以後お見知りおきを・・・」


そう言って中年男性セイバスは深く頭を下げた後、俺とジェニスを館の中へと促した。


「それでは此処でお待ちいただけますかな? 直ちに御主人様を御呼び致しますので」


俺とジェニスが通された部屋はというと何に使うのかサッパリな道具で飾られていた。

魔力を感じる事から一つ一つが魔道具である事は確かだったが・・・。


「はい、分かりました」

「それでは」


男はそう言い残すと、音も無く扉を閉め部屋から去っていった。


(マスター、何やらセイバスと名乗られた方から不穏な気配がいたします。 私の気のせいかもしれませんが、油断はなさらないでください)

(あの執事が魔物の化けている姿だと?)

(可能性としては否定できませんが)


ルゥからの気になる言葉を聞いていると、ジェニスが興奮した口調で話しかけて来た。


「ミコト様、第1段階は成功ですね」

「何処に目や耳があるか分からないんだ、そんな事を口にしては駄目だ」

「申し訳ありません」


だがジェニスの言う事も最もだ。此れから無事に事が進めばいいが・・・。

この後、心配していた事が現実に起ころうとしているが、この時はまだ分からなかった。


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