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異世界を渡りし者  作者: 山田 隆行
風の精霊編
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第88話 予期せぬ同行者

現在俺は森を抜けるまで30分と掛からない場所に居た。

侵入者2人については軽く目を覚まさせた後、村と森の入口との中間点に縄を解いて放置してきた。

2人の俺とあれだけの打ち合いをした実力があれば魔物に殺られる事はないだろうと判断したからだ。


(マスター、気がついていますか?)

(気づかないでか。あれだけ下手な尾行を?)

(そうですよね)


村を出てからず~っと、俺の後方を歩いてくる誰か(誰かは分かっているが・・・)が俺に悟られないように木の陰に隠れるなどして後をついてくる。

何の予備動作も見せずに瞬間的に後を振り向くと、咄嗟に木の陰へと身を翻したのか長い髪が風で揺れていた。


(全く、バレバレだというのに・・・そうだ!)

(マスター、何かを思いついたようですね。 悪戯を思いついた子供のような顔をしていますよ?)


俺は溜息を一つすると、何事も無かったかのように森の出口へと足早に足を進める。

後方の尾行者の気配を探ると必死に見失わないようにしているようだった。


森の出口まで残り5m、3、2、1・・・!

森を抜けた瞬間に思いっきり、上空へとジャンプする。

追いかけてきたものは突然姿が見えなくなった俺を慌てたような表情でしきりに探している。


「ど、何処に!?」


前後左右キョロキョロと目を走らせている者は流石に上には視線は行かないようだった。

俺は『誰か』の後方に降り立ち、肩を手で掴んで声を掛ける。


「おい!」

「ひゃあぁぁぁぁ!!?」


俺の姿を探すのに夢中になっていたのか、突然背中から声を掛けられて吃驚し、座り込んでしまっていた。


「おいおい、何でこんな所に居るんだ? なぁ、ジェニス」


思っていた通り、尾けて来ていたのは森で待っているはずのジェニスで俺を振り向き様に泣きそうな顔をしていた。


「森で待っているはずのジェニスが如何して此処にいるんだ?」

「もしかして気づかれてました?」

「当然だ。あんなバレバレの尾行をしておいて。 気配が丸分かりだったぞ?」

「アウゥゥゥゥ・・・・・」


ジェニスは座り込んでいた体勢をもどして立ち上がると俺に話しかけて来た。


「長老様よりミコト様の手助けをしろと言われました」

「手助けね~ で、本心は?」

「ミコト様に付いて行って外界を見てみたいなぁ・・・っと」

「やっぱり。 まぁ来てしまったなら別に構わないが、エルフ独特の髪の色と長い耳は如何する気だ?」


人は自分達とは違う生き物に対して恐れを抱き、場合によっては殺意を抱いて襲い掛かってくる。


「そんな時のために長老様からエルフに伝わる魔道具をお借りしてきました」

「魔道具?」

「はい。見ててくださいね」


ジェニスはおもむろにポケットから取り出した玉虫色のブローチのような物に、同じく取り出したナイフで自分の指を傷つけて血を出すと1滴だけブローチに滴らせていた。

次の瞬間、ブローチとともにジェニスの身体は赤い光に包まれ、光が収まると同時に髪の色は赤に変化し耳の形も普通の人間と変わらないようになっていた。


「どうですか?これならエルフだってばれないでしょ?」

「その魔道具は?」

「此れは姿身の装飾具といわれる魔道具で対象の血液を垂らす事で、思い通り姿に数日間だけ、姿を変えることが出来ます」

「なるほど、これなら問題なく街に入る事ができるな」


こうして俺はジェニスとともに森から半日歩けば着くというメグレスの街に行く事になった。

歩き始めてから5時間が経過した頃、幽かながらに蜃気楼のように街が見えてきた。


「あ、あれがメグレスという街ですね。早く行きましょうよ」

「行くのは良いんだが、この音はなんだ?」


数分前から何かがゴォゴォという音を立てながら次第に近づいてくるような感じがしていた。


「そうですねぇ? 何の音なんでしょう?」


2人して音の正体を確かめようと辺りを見回していると、はるか後方より巨大竜巻が差し迫っていた。


「な、なんですかアレーーーーー!?」

「このままじゃ巻き込まれる! 走るぞ」


俺は咄嗟にジェニスの手を取ると全力で街へと走った。


「み、ミコト様ーーーー速過ぎますーーー!!」

「黙っていろ。舌をかむぞ」


こうして俺はジェニスの悲鳴をBGMに街へと文字通りに飛び込んだ。


「此処までくれば安全かな?」


手を握り締めているジェニスに話しかけるも、返事は戻ってこなかった。


「ジェニス?如何した?」


ジェニスをみると、何時の間にか白目を剥いて気を失っていた。


(マスター、仕方ありませんよ)

(どうしてだ?)

(マスターならいざ知らず、生身の人間であるジェニスがあの速度に耐えられると思いますか?)

(た、たしかに・・・)


街まで残り6時間は掛かる距離を巨大竜巻から逃げるためとはいえ、1時間も掛からずに踏破したのだから、速度はかなりのものになっていただろう。


その後、まだ日は高かったがジェニスを背中に担ぎ、宿屋へと歩いていった。

部屋にジェニスを寝かせたあと、この世界の通貨を持っていない事に気がついた俺は亜空間倉庫から適当に数個の道具を取り出し、街の道具屋で換金した。


この世界の物価は良く分からないが、マルベリアで銀貨1枚で購入した道具が此処で銅貨80枚で売却できた事から、それほど物価が変わらない事を感じた。

こうして無事に宿代を手に入れた俺はジェニスの意識が戻る事を待ちながら、その日は宿で一泊となった。



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