第82話 精霊たちのお礼
待たせてしまった割りに出来はあまり良くありませんが・・・。
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ありがとうございます。 これからもよろしくお願いします
エルフの子供達との『侵入者騒動』があった翌日、折角家の周りに畑があるのだからという簡単な考えで、前の世界で購入した幾つかの種を植える事にした。
種から木になるのか苺のような感じになるかは分からなかったが。
「あとは畑に撒く水なんだけど、水場までは少し遠いな」
俺の住む家から水場のある長老の家付近までは約200m、決して遠いわけではないが邪魔臭い。
そこで考えたのが通常の水ではなく、水属性の魔法を使って畑に水を撒くという方法だった。
「これなら態々水を汲みに行く必要はないし、水撒きも一瞬で終わるな」
このエルフの村に滞在する期間は最低でも半年間。
其れまでに幾つかの果物を収穫できれば良いなと考えていたのだが、あんな事になろうとは思いも寄らなかった。
その日の夜、不意に何故かミラから話し掛けられた。
(主様、中級精霊である地の精霊と花や木の下級の精霊達がお礼を言いたいと訪ねて来ておりますが、いかが致しましょうか?)
(下級精霊? お礼を言われるような事は何にもしていないんだけどな)
その後も頭を捻らせながら考えていたのだが、何の覚えも見当たらなかった。
(とりあえず会ってみるよ、通してくれる?)
(分かりました。暫くお待ち下さい)
そう答えるとミラであると思われる光の玉が、ふよふよと外に移動していく。
数秒後、光の玉に連れられるように微弱な波動の土気色の光の玉が俺の前へとやって来た。
(お待たせいたしました。 代表である地の精霊を連れてまいりました)
ミラが言い切ってから、ほんの少しの間が空いて声が聞えてきた。
(お初にお目にかかります、地の精霊にございます。 本来なら貴方様には私など、お目にかかれないのですが無理を承知でお礼を言いたく、私が代表して光の精霊王様にお目通りを願いました)
(お礼って言われても、何かをした覚えはないんだけど?)
(いえ貴方様は今にも枯れそうな大地に多大な魔力を注いでくれました)
(大地に魔力を注いだ!? そんな覚えは・・・・・・)
そう考えていると何か心当たりがあるようでルゥが不意に話しかけて来た。
(マスター私思うのですが、昼間の畑仕事をしていた時に水場まで水を汲みに行くのが面倒だという事で魔法を使って畑に水を撒きましたよね?その事が魔力を注いだという結果になったんじゃないですか?)
(たったあれだけの行為でか!?)
(いえ、其方に居られる剣の精霊殿の仰られるとおりです。 本来、私達精霊はこの地の守護精霊で在らせられる風の精霊様より極微量の魔力を分けてもらって存在できています)
地の精霊と名乗る光の玉は必死な表情(?)で俺に話しかけてくる。
(原因は不明ですが、風の精霊様の衰弱化により私達も命を落としかけておりました。
『もう駄目だ』と思い始めていたときに風の精霊様を助けていただき、更に私達、中級、下級の精霊にも力を分け与えてくださいました。 貴方様はその気が無かったにしろ、私達にとっては命の恩人です。 ありがとうございました、このお礼は必ず・・・)
地の精霊は此れだけを言い切ると、まるでお辞儀をするかのように上下に何度も移動し家の外へと飛んで行ってしまった。
家の周りに集まっていた他の精霊達と思われる緑や赤い色をした光の玉も四方八方へと散っていく。
(まさか何気なく行なった行為が人、いや精霊助けになろうとは思いも寄らなかったな)
(主様は膨大な魔力をお持ちですからね。 魔力で水を撒くといった行為が大地に魔力を与えるという行為に繋がったのですね)
(それにしても、あの精霊は『お礼は必ず』と言っていたが、何をするつもりなんだろうな?)
(森の地を司る中級精霊を始めとする花や木々の精霊達ですから、ある程度の予想は出来ていますが)
(何のことだ?)
(今はまだ楽しみにとって置きましょう。この分なら翌朝には判明すると思いますよ)
(一体何のことなんだか)
只管に考えながらその日は眠りにつくと翌日、人が騒いでいる声で目が醒めた。
「一体、何の騒ぎだ?」
「お邪魔致しますぞ」
朝食として残り少ない果物を齧っていると、長老が訪ねてきた。
「朝食中でしたか、此れは失礼致しました」
「それは良いのですが、外は一体何の騒ぎなんですか?」
「その事なのですが、昨日までは何にも無かったミコト殿の荒れた畑に一夜のうちに見たことの無い実の生る果樹が生えていると大騒ぎになっておりまして」
「果樹って・・・ただ昨日、種を蒔いただけですよ?」
(予想した通りですね)
「如何したルゥ?」
長老も精霊の声が聞えるためか俺と一緒に聞き耳を立てている。
(昨夜、下級の精霊達が魔力を頂いたお礼として訪ねてきましたよね)
「それが何か?」
(地の精霊が帰り際に話した『お礼を必ず』といった行為が果樹の急成長なんでしょう)
「なるほど、そのような訳があったのですな。 お騒がせ致しました、村の民には私から説明を致しますので御心配なさらないで下さい」
長老は、まくし立てる様に話すと早足で家の外へと歩いていった。
家の窓からそっと外に視線を遣ると長老が手振り素振りで集まっていた住人に説明をしていた。
住民達も長老の説明で納得が行ったのか各自、各々の方向へと散っていく。
汗だくになりながら説明をしていた長老も此方に会釈して家のほうへと戻っていった。
ようやく人が居なくなったので状況を確認しようと外に出て畑に近づくと、其処には一昨日まで種だったにも拘らず、高さが3mくらいの木が何本も立っていて熟した果実が実っていた。
「あ、お兄ちゃん。おはよう~~」
視線と声を掛けられた方向を見ると、其処にはジェニスとニーナの姉妹が。
「ねえ、お兄ちゃん。この果物って前に貰ったアレだよね」
「ニーナ!言葉遣いが無礼だぞ!?」
「え~~~!?」
「あのな、この御方は・・・」
ジェニスが全てを言い切る前に言葉をさえぎる。
「お兄ちゃんでいいよ」
ニーナが見覚えがあるといった果実を見てみると、確かにニーナにあげた物だった。
俺はニーナに待っているように言い、木に近寄り果実を2つ捥ぎ取った。
「はい、どうぞ」
摘んだばかりの果実を1個ずつ姉妹に手渡すと・・・。
「お兄ちゃん、ありがとう。いただきま~す」
「ありがとうございます」
妹のニーナはにこやかな笑みを浮かべ、齧りつきながら家のあるほうへ戻っていき、ジェニスもまた何度も何度もお辞儀を繰り返しながら果実を手に持って戻っていった。
改めて果樹を見てみると、朝食として食べていた果物が全ての木に生っていた。
「突拍子の無い出来事だったけど、此れで食べ物には困らないな」
何気なく畑に水魔法で水を撒いたことがキッカケでかなりの得をしたと感じられた。
余談ではあるが、この果物は収穫しても翌日にはまた実が生っているという不思議な木として住民に知れ渡る事となっていた。 その後、果実は一般にも配られる事になったのは言うまでも無い。