閑話⑤ ジェニスの視点
予定には無かった話なんですが、少し思うところがあり急遽作成いたしました。
私は誇り高きエルフの戦士。
我が名は今は亡き、父と母が偉大なる曾祖母であるジェルニアから名前の一部を貰って名付けてくれたジェニスという。
今より数年前、父と母は結界を潜り抜けてきた魔物の襲撃から、父である長老様や、娘である私と妹のニーナを逃がすため囮となり命を落とした。
この神聖なる大樹の元にエルフの村が築かれてから早、数千年・・・。
其の当時はまだ人間達と我等が共存していたと数十年前に亡くなった祖母から聞いていたが、ある一時を境にして関係は崩れエルフは森に、人間は森の外に村を造り住み始めたという。
エルフとは長い時を生き、人間とは比べ物にならない寿命を持つ。
中にはエルフが村を出て人間と恋に落ちるという変わり者のエルフも存在し、人間との間に子を授かり、その子が俗に言うハーフエルフとして人間から迫害を受けているという話だ。
エルフの村は人間以外、来る者拒まずとされている。 其れはハーフエルフとて例外ではない。
ただし村の生まれで無い者は森の結界を通り抜ける事が出来ないため、此方から出向かない限り集落の人口が増える事はない・・・・・・はずなのだが、或る日森を抜けて一人の人間が現れた。
その日は集落で獲物の狩りを担当する者達が森に入って、集落にいる者は戦えない女子供と長老様のような御歳を召されている方々だった。
集落の入口の守りを担当するのは、其の都度長老が決めてくださる。
私は一月前にも見張りをしていたというのに何故今日も見張り役なんだ・・・。
一部魔物などの例外もあるが、この地に結界が張られてから何人たりとも潜り抜けることが出来なかった森を魔物に襲われる事もなく五体満足で集落に辿りつくとは・・・・・・。
最初は魔物が人間に擬態している物と思い、神樹の聖水と呼ばれる魔物が嫌がる匂いを放つ液体を身体に浴びて人間もどき(?)に近づいたのだが何の反応も見せないという事は紛れも無く人間なのだろう。
ただ魔物であろうが人間であろうが結界を抜けてきたのには変わりは無く、気が付くと人間の首に剣を当て言葉を浴びせていた。
「貴様、何者だ! 人間がどうやって結界を抜けてきた!?」
私は殺気の篭った目で剣を握り締めながら人間に問いかけるが、目の前の人間は殺される事を苦とも思わないのか平然とした表情で此方を見ていた。
「答えろ!貴様は何の用があって集落を訪れた? 返答次第では生きてこの森を出られはせぬぞ」
下手な動きをすれば『今度こそ其の首刎ねてやろう』という考えで剣を持つ腕に力を込めていると、不意に後方より長老様が近づいてくる気配を感じた。
(馬鹿な!? 何故このような危険な場所に長老様が来る!?)
次の瞬間、長老様から発せられる言葉に耳を疑った。
「ジェニス。 待ちなさい!」
何故止める? 昔とは違い、人間が集落に入ることは禁じられている筈だ。
「長老様!?此処は危険です。 お下がりください」
剣を握っていない方の腕で長老様を人間から庇うようにして長老様を人間に近づけないようにするが。
「ジェニス、ワシの言った事が聞こえなかったのか?」
「・・・・・・分かりました」
長老様からの少し怒気が篭ったような声で言い包められ納得はしていないが剣を収める事にした。
「ジェニスも言っておったが結界を抜けてくる人間が居ようとは、オヌシは一体・・・!?」
ん?如何したんだ長老様は? 何故そんなに目を見開いて居られるのだ?
「いえ、貴方様は一体何者なんですか?」
長老様!? 何故人間などを『様』付けで呼ばれるのですか!?
「長老様! そのような怪しげな男に何を・・・」
「黙りなさい! 本来なら私達風情が声を掛けられないほど、高貴な御方の可能性があるのですよ!?」
人間も長老様の言葉に呆気に取られているようで半ば放心した表情を浮かべていた。
「何を言ってるんです? 俺は貴方達が言うただの何の変哲も無い人間ですよ?」
そうそう。 人間の味方をするわけではないが如何して敬語を使う?
「謙遜なさらなくとも宜しいです。 貴方様が人間というなら、その御身体から溢れ出る人間とは思えないほどの途轍もない魔力と貴方様に付き従うように傍に浮かんでいる、2体の精霊様とその剣に宿っている精霊様のご説明をお願いいたします」
そして長老様は意味不明な言葉を発しながら人間の顔から何も無い右上の虚空へと視点をあわせてガタガタと震えている。
その後、長老様と人間と別の何か?との会話の結果、信じられないことだが目の前の人間は神様だという事が分かった。
という事は私は神様に対して剣を振るったのか!? なんと恐れ多い事を・・・。
長老様の話によると人間・・・いや神様の周りには合計3体もの精霊様が浮かんでいるとの事だった。
聞けば大樹に住まう風の精霊様の様子が可笑しいとの事でこの地に来たのだそうだ。
確かにこのところの大樹の様子は何か変だ。
日に日に衰弱しているかのように葉は枯れ落ち、今にも倒れるんじゃないかと思うような素振りさえ見せている。
会話後、長老様は私と神様を連れ大樹の根元へと誘われた。
よく聞き取れなかったが神様が何らかの言葉を発したあと、両手を大樹の幹にそっと添えて何かしているようだった。
何をしたのか全然分からなかったが、手を添えた瞬間から茶色に染まっていた葉っぱは時間を巻き戻すかのように生き生きとした濃緑へと変わり、心なしか元気になったように感じられる。
そして神様を長老様の客人として集落に暫く住んでもらう事となり呼び方も『神様』から『ミコト殿』に変更され、其の正体は長老様と私と神様との秘密という事にされた。
最初の印象は何処へやら・・・
和んでいると丁度狩りを終えた皆が集落に戻ってきて先程の私のように『何故人間がこの地に!?』やら『汚らわしい者、出て行け!』やらと耳が痛い言葉をミコト殿に投げかけていたが、長老様から『大切な御客人であるミコト殿に失礼があってはならん!』という言葉で混乱は収まる事となった。
そして集落に住まう子供達が狩りに行っていた大人たちを出迎えるようにして家から出てきたが人間を見るなり、子供同士で集まって何か喋っているようだった。
長老様がミコト殿と会話したあと、集落に住んでもらうべく空き家の掃除を数人の女性エルフに命じられた。
子供達も井戸端会議のようなことをしていたが長老様の言葉から何かを思いたったようで一目散に何処かへと走って行った。
あの方向は私の家だな。 ニーナと遊ぶ約束でもしているのかな?
その後、何故子供達の行動に目を光らせなかったのかと後悔したが時既に遅く、またしてもミコト殿に関係する誤解を招くのだった。
『神様・・・一度ならず二度、三度と申し訳ありませんでした!!』
私は心の中で只管謝罪し許しを請うのだった。
神様の・・・・・・ミコト殿の笑顔に感じたことのない、何がなんだか分からない胸が熱くなるような気持ちを抱きながら・・・。
ジェニスの視点で大まかに描きました。
次の話が完成するまでもう暫くかかりそうなので前々回更新時から少しずつ描いていた物語を載せることにしました。