第80話 神聖なる森の民
前回の流れと今回の話を如何つなげるか大いに悩み、何とか完成させることが出来ました
ミラの界渡りによって第3の世界に辿りついた俺は目の前に広がる大樹海にかけられていた魔力の結界をルゥの助力の元、突破すると樹海の中心ともいえる巨木の麓の村へと行き着くことが出来た。
だが、森を抜けられたと安心したのも束の間、村の住人と思われる1人の女性から剣を突きつけられた。
「貴様、何者だ!!人間がどうやって結界を抜けてきた!?」
有無を言わさずに女性から剣を突きつけられ押し問答を繰り返していると、村の奥から『長老様』と呼ばれる御爺さんが姿を現した。
色々と会話していった中で分かった事は剣を突きつけてきた女性が『ジェニス』という名前だという事と目の前に居る御爺さんが人間ではないという事だった・・・。
「貴方様が人間というのなら、その御身体から溢れ出る人間とは思えないほどの途轍もない魔力と貴方様に付き従うように傍に浮かんでいる、2体の精霊様のご説明をお願いいたします」
俺以外には見る事の出来ない精霊を目視で確認できた事や魔力検知の素振りも見せないで俺の魔力を言い当てた事など・・・。 少なくとも普通の人間では無理だ。
(主様、目の前にいるお年寄りですが人間ではありませんね)
(人間ではない!? どういうことだ?)
(彼らは人間とは比べ物にならないほどの寿命を持つエルフです)
ミラと話していると、まるで精霊との会話が聞えていたかのごとく長老が話しに参加してきた。
「其方の精霊様が仰られるとおり、我等は古より、この地に住みしエルフの民です」
「!! 精霊の声が聞えるのか?」
「長老様は一体誰と会話なさっているのだ? まさかボケたのか?」
ジェニスと呼ばれる女性が頭に幾つもの『?』を浮かばせながら俺と長老との遣り取りを見つめている。
「この地に生まれ出でて800余年も生きていますと、木の精霊や花の精霊の声が聞えるのですわ」
(それでは私の声も聞えるのですか?)
ルゥがここぞとばかりに長老に話しかけ始めた。
「勿論聞えておりますぞ。 貴女様は剣の精霊様ですね」
話が通じた事が嬉しかったのか、ルゥは剣を震わせながら喜びの声を上げていた。
「失礼とは存じますが、再度ご確認いたします。
精霊様に『主様』と呼ばれる貴方様は一体、何方様ですか?」
俺が諦めて話そうとしたとき、ミラが俺に成り代わり話しだした。
(主様、ここは私にお任せ下さい。 私は精霊王が1人、光の精霊です。 エルフ族の長老よ、私の声が聞えますね?)
「おお、聞えますぞ。精霊王様」
(此方に居られる、この方は我ら精霊が主と認めた御方であり、次期神様であらせられます)
あ~あ、言っちゃったよ。 こりゃ大騒ぎになるぞ・・・。
「神様ですと!?」
長老が発した『神』という言葉を聞き居心地が悪そうに佇んでいたジェニスは此方を向いて目を見開き固まっていた。
仮にも神と呼ばれる俺に対して剣を突きつけてしまったのだ、その心中は計り知れないだろう。
(此度の我等はこの地を司る風の精霊に逢いにきました。 長老よ風の精霊の波動が弱まってますが、いかが為さいましたか?)
「懼れながら精霊王様に申し上げます。 我等も原因は分からないのですが、日増しに風の精霊様の息吹が感じられにくくなっております。 このままでは以って数日ではないかと」
(そうですか・・・。 主様、御手数ですが御力をお貸し願えませんでしょうか?)
「如何するんだ? 俺でよければ幾らでも力を貸すぞ」
(ありがとうございます。それでは世界樹の幹に手を差し伸べ、魔力を注いで貰えませんか?)
「世界樹?」
(村の中心に聳え立つ巨木が精霊の住まいし、世界樹です)
ミラに言われるまま見上げると頂上が見えないほどの高さの枯れかけた樹木が聳え立っていた。
「それでは神様、此方へ・・・」
長老に言われるまま、歩いていくと其処には樹齢何万年とも思えるほどの木の壁があった。
(主様、その木に手を着いて御自身の魔力を木に注ぎ込んでください)
ミラの遠慮がちに言う声に従って手を木に触れ魔力を放出させる。
すると、巨木の中頃から茶色く枯れかけていた幹は若木のような濃緑に変化し徐々に姿を変えていった。
(主様、そのくらいで十分です。あとは時間が解決するでしょう)
木から手を離し深呼吸していると長老が俺に対して跪いていた。
「神様、精霊様、感謝いたします」
「その事でお願いがあります。 ミラが言うには俺は風の精霊が回復するまで、この地に居なければなりません。 御手数ですが村に住まわせてもらっても宜しいでしょうか?」
「お手数など、とんでもありません! 心行くまで御寛ぎ下さい」
「それともう一つ。 俺のことは神様ではなく、客人という扱いで置いておいて貰えませんか?」
「分かりました。 では長老である私と孫娘であるジェニスの3人だけの秘密という事に致します。 ジェニスもそれで良いな?」
長老は未だに口を半開きにして目を見開いた状態のまま固まっているジェニスに話しかけると・・・。
「は、はい。 分かりました長老様。 神様、先程は失礼致しました」
「気にしてないから大丈夫だよ」
「それでは何とお呼びすれば良いのでしょうか?」
「ミコトでいいよ」
「では、ミコト様と」
「堅苦しいなぁ~呼び捨てでいいのに・・・」
「そんな訳には参りません! 神様を呼び捨てにするなど以ての外です」
「分かった。 じゃあ、せめて“様”はやめて“殿”にしてくれないか?」
「それではミコト殿とお呼びすることに致します」
「うん。これからも宜しく」
この会話から約1時間後に森へと狩りに出かけていた他のエルフから侵入者呼ばわりされ、長老とジェニスが冷や汗を掻きながら、俺が客人である事を説明したのは言うまでも無い事だろう・・・。
こうして俺のエルフの集落での奇妙な生活は始まりを告げた。