第8話 討伐依頼② 出会い
少し鬼畜な性格の同業者が登場します。
そういうものに対して嫌悪感を覚える方は見ないほうがいいかも・・・。
町を出て暫く普通の速度で歩いていた俺は一定距離を歩いて町の方を振り返り、自分の事を目視できない距離まで離れた事を確認すると目にも止まらぬ速さで走り始めた。
別に急ぐ必要は無いのだが、ずーっと町の中にいてストレスが溜まっていたのだ。
出発してから5分後、無事にディル村へと到着した。
ディル村であった場所は燃えた家が崩されて平地と化し、いたるところに墓が立てられていた。
俺は村の入口(墓地)に向かって軽く手を合わせて、その場を後にした。
「さて肝心のワイルドウルフは何処に・・・。」
しばらく草原を見回していると、遠くに犬のような生き物が見えた。
「お?あれがワイルドウルフかな?」
目標に逃げられないように忍び足で木々に隠れながら近寄っていくと・・・。
姿形はギルドで見たとおり狼の頭に角がはえたような形状だが、想像してた物とはかなり違っていた。
「狼には違いないが、これはまた・・・。」
それは普通の大きさではなく、2~3mくらいの生き物が森の中の草むらに横たわっていた。
「変だと思ったんだよな、たかが狼ごときでB級の討伐依頼だなんて。」
大剣を手に何時飛び掛るか考えていたが、俺の匂いがするのか其処に横たわっていた5頭全てが顔を此方へと向けていた。
「気づかれていたか、魔物と言っても狼や犬の嗅覚は人間の1万倍と言われているからな、気づかないほうがおかしいか・・・。」
そう思った瞬間、照らし合わせたかのように5頭のワイルドウルフは一斉に俺の方へと涎を垂らしながら飛び掛ってきた。
木々の合間では大剣は使えないと判断した俺は背中へと大剣を戻し、腰の剣を引き抜いて構えた。
剣を引き抜くときに余所見をしてしまったせいで5頭のうちの1頭が目前まで迫っている事に気づかなかった俺は咄嗟に剣を盾にして危険を回避しようと考えたが、剣の角度のせいか体当たりしてきたワイルドウルフはそのまま剣によって2等分されてしまった。
「結果オーライだけど・・・コイツはアホか?」
そのままの勢いで魔物の血を全身で浴びながら、次に襲い掛かってきた狼の頭に剣を突き刺して2頭目を撃破した。
「のこり3頭!!」
続けさまに2頭が俺に倒されたからか、この魔物は頭がいいのか木を背にして立っている俺を3方向から同時に飛び掛ってきた。
一瞬、応戦しようかとも考えたがジャンプして木の枝へと飛び移った。
「「ギャオン!?」」
下を見てみると3頭のうちの2頭が咄嗟の事で避けきれずに頭から木にぶつかって倒れてしまった。
此れをチャンスと思い、枝から飛び降りた俺は回避した魔物の背中に剣の刃を下にして、飛び降りて3頭目を撃破した。
残るは未だに目を回して倒れている2頭のみ・・・。
あっけない幕切れだったが2頭の首を一撃で刈り取って討伐を完遂した。
その後、俺はワイルドウルフの角を次々に切り取り、道具袋へと入れていった。
討伐依頼は完了したが、そのまま町へ戻るわけには行かなかった。
その理由とはディル村からマルベリアの町までは馬車で走っても最低で4時間はかかるのに、俺がマルベリアを出発してから僅か6時間しか経過していなかったからだ。
「仕方ない、見晴らしのいいところで少し休憩するか。」
身体にこびり付いたワイルドウルフの血を軽く拭き取った俺はその場を後にして、ディル村のそばにある平原に腰を落とした。
「此処なら見晴らしもいいし、不測の事態があっても大丈夫だろう。」
今回のワイルドウルフ戦は普通の冒険者の戦闘を経験してみようと、あえて傷を負わずに戦ったためかなり苦戦してしまった。
傷のことが心配しなくてもいい、今の俺なら簡単に討伐していただろう。
そんな事を含めて色々な事を考えていると空が夕焼けに染まり始めてきた。
「そろそろ町に戻るとするか・・・。ん!?」
立ち上がったところで、血の匂いに誘われたのか一頭の猪のような魔物が土煙を上げて突進してきた。
「面倒くせえな。」
俺は腰の剣を引き抜き、身体に水平に構えた。
この事で魔物は逸早く気づいて前足でブレーキを掛けたが、間に合わず串刺しになって息絶えた。
「なんなんだ、一体。」
剣を振って血を飛ばしたあと剣を鞘に戻して暫く歩くと前方より2人の冒険者が声を掛けてきた。
「ハァハァ・・・あ、あんた冒険者だな?このあたりでポークベアを見なかったか?」
「ポークベアとは何だ?」
返事をしたと同時に男達の後ろを見ると、大量の道具袋を担いだ少女が息を切らせながら歩いていた。
「俺等がギルドで依頼を受けて、討伐しようとした時に逃げられてしまって。あ、体型は猪みたいな奴だ。」
「それなら少し前に俺が殺した奴かもしれんな。」
「倒したんか!?」
「少し戻れば死体があるはずだが。」
「すまん、案内頼めるか?」
「構わないが、今すぐか?」
「ああ直ぐだ。」
2人は直ぐに歩き出したが、荷物を運んでいた少女は荷物に埋もれながら地面に手を突いて息を切らせていた。
「セリア!何をしてるんだ、さっさと来いよ!!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!この荷物重くて・・・ハァハァ」
「ホント、魔術師は体力がねえな。」
「ほら、さっさとしねえと日が暮れちまうだろうが!」
「リンド、イラウもう少しだけ休ませてよ・・・。」
「しょうがねえな、セリアは後から追いついて来いよ!スイマセン案内お願いします。」
「ちょっと待て!仲間を置き去りにするつもりか!?」
こんな場所で息が絶え絶えの魔術師なんて魔物の餌食間違い無しだろうに。こいつら本当に仲間か?
「いつものことですから。」
俺的には置いていく事に抵抗があったため、セリアという魔術師の少女の背中と膝の裏に手を遣って自分の胸元へと持ち上げた。一般的にお姫様抱っこと言う抱き方である。
「え!?えっと・・・な、なんでこんな!?」
「あまり暴れるなよ。落ちるぞ?」
「・・・はい。////」
そのままで来た道を戻った俺は先程倒した魔物の元へと舞い戻った。
「確かにポークベアだな。イラウ、牙を。」
到着するや否や2人が猪の口の横にある牙を切り始めた。
「此れで俺達の討伐依頼は完遂だ!マルベリアに戻るぞ!!」
2人はセリアの存在も忘れ、意気揚々と町への道を歩いていったが俺は小声で抱きかかえているセリアに話をしていた。
「なぁ、あいつ等のやり方って認められるのか?」
「魔物の一部を持って帰れば、たとえ討伐して無くても判定で依頼を完遂したとギルドに容認されてしまうんです。」
「何か変な話だな。それにあいつ等はお前のことなんて、これっぽっちも考えてないみたいだぞ?」
「私もそろそろ見限ろうかと思っています。」
こうして恥ずかしがるセリアをお姫様抱っこしながらマルベリアへの道を歩いて帰った。
セリアについての内情は後日、閑話として1話書くつもりです。