第75話 武道大会決勝 【前編】
そして瞬く間に夜が明け、とうとう決勝戦当日になった。
「それでは只今より、第38回イスラントール武道大会決勝戦を行ないます!!」
司会の言葉により、此れまでにない観客席から零れ落ちそうな大歓声が沸きあがった。
「決勝戦を前に此処まで勝ち上がってきた選手を紹介いたします。 1人は皆様、ご存知の通り前回の優勝者でもある近衛騎士名誉顧問であらせられるレイモンド選手!」
レイモンドは名前を呼ばれると、控え室から舞台への道を穏やかな顔で観客席に手を振りながら、ゆっくりと歩んでいった。
「続きまして、もう一人の決勝戦進出者は無名にも拘らず、騎士隊長タルカス選手や魔導騎士フィンケル選手を難なく打ち破ってきた若き剣士、ミコト選手ーーー!!」
俺も先程のレイモンドと同じ様に手を振りながら舞台へと向かって歩いていったが、レイモンドほどの歓声は受けられなかった。
「それでは選手が出揃ったところで泣いても笑っても最後の試合となる決勝戦、開始してください!」
司会はそう言うや否や、駆け足で舞台から降りていく。
直ぐに飛び掛ってくると思い最初は防御に徹しようと思っていたのだが、レイモンドは剣こそ抜いているが掛かってくる気配はまるでしなかった。
防御の構えを解かずにレイモンドを見ていると、不意に何の前触れもなく話しかけて来た。
「オヌシが決勝の相手とは些か運命のような物を感じるの~~」
「何を言っているのですか?」
「いやな、たまたま開会式に寝坊して列に並んでいた時、我の真後ろにいるオヌシから只ならぬ気配がしておったのじゃよ。 我は今年の武道大会こそは強者と戦いたいと願っておったからのう、願いが通じたという訳じゃ」
「いえいえ、まだ分かりませんよ?戦い終わってみて、落胆するかも知れないですよ?」
「なぁに、謙遜する事はない。我が手塩に育てた一番弟子である、タルカスを呆気なく倒したオヌシなら我も久しぶりに本気で戦えるというものじゃ!」
本気でって黒騎士の時の剣捌きも手加減していたというのか?
レイモンドが言い切ったと同時に、屋根の無い屋外の解放された舞台に居るのにも拘らず、黒騎士戦でも感じたことの無い強烈な圧迫感を感じた。
「そういえばオヌシはフィンケル戦で魔法を使っていたようじゃが、我が年寄りだと思って遠慮しなくても良いぞ? 持てる力全てを使って、全力で掛かってくるがいい!」
誰が今の現状を見て、相手が唯の年寄りだと感じることが出来るというんだ!?
言うなれば巨大な山が俺の眼前に聳え立っているかのようだった。
遠慮なく魔法を使ってもいいとは言うが、唱えようとした瞬間に出来た隙に俺の敗北が決まるだろう。
「如何した? 来ぬのなら此方から行くぞ!」
黒騎士戦の時とは違う、幅広の剣を関節を取られないように内手に構え、俺へと掛かってきた。
『ギィン!ギン!キィン!』
俺も咄嗟に腰の鞘から剣を引き抜き、レイモンドの剣を受け止める。
「クッ!?重・・・?」
爺さんとは思えないほどの、重い剣が受け止めた剣に圧し掛かった。
レイモンドの実力を知るために敢えて最初から魔法剣は使わずに剣だけでの勝負を試みたのだが・・・。
「ほう、我の初撃を簡単に受け止めるとは・・・予想通りのようだな」
レイモンドは軽い笑みを浮かべると、次々と剣戟を打ち出してきた。
『ギィン!キンッ!ガギィン!』
「防戦一方か?我を年寄りじゃと思って、手加減する必要など無いのじゃぞ?」
手加減どころか攻撃する暇が無いほどのラッシュが次から次へと連続して襲ってくる。
俺は一時、言い訳が出来る高さまでジャンプし、そのまま身体を捻らせながら距離を取った。
レイモンドまで10mの距離からフィンケル戦のような中威力の風弾を打ち出し、自分自身は風弾の影に張り付きながら、レイモンドへと突進していく。
「これがフィンケル戦で見せた風の魔法か」
レイモンドは直ぐ傍まで魔法が迫っているにも拘らず、避ける素振りさえ見せては居なかった。
「ハァッ!!」
まるで俺の手が読まれているかのように、風弾を縦一文字に両断し、その勢いで風の陰から不意打ちしようとしていた俺に剣を振り下ろしてきた。
「作戦としては、まあまあじゃったが・・・その程度では我には絶対に勝てぬぞ!」
予想に反する大したことの無い攻撃による怒りか、途轍もない殺気がレイモンドの身体から発せられた。
『手加減か・・・だからといって全力で攻撃してしまっては剣とか鎧とか関係無く殺してしまうからな』
色々と考えていると剣の柄を伝ってルゥからの念話が頭の中に響き渡った。
(マスター、お言葉ですが対戦相手は達人級の剣の使い手です。力を抜いた剣では逆に失礼になると思います)
(そうは言うが俺にレイモンドを殺せとでも言うのか?)
(いえ、確か大会規定では相手を場外に落としたり、武器を折った場合でも勝敗が決まりますよね?)
(其れはそうだが、相手が簡単に場外に落ちてくれるタマだと思うのか!?)
「勝負の最中に何を考え込んでいるかは知らないが・・・我も舐められたものだな!」
レイモンドは最初の攻撃とは段違いな速度のある錬撃を俺へと繰り出してくる。
俺もスピードで対応し剣戟の全てを受け止めたり、受け流したりしているが、相手の気迫により1歩、また一歩と後方に下がっていった。
(マスター、昨日魔法剣を習得しましたよね!?)
(ああ、練習していたアレか・・・)
(剣に魔力を注ぎ込み、強度と攻撃力を増幅させた剣で相手の剣を圧し折ってください)
(やっぱり、其れしかないのか?)
(はい。それに今のまま攻撃を受け続けていると私自身が逆に破壊される可能性が浮き上がってきます。 そう、黒騎士の剣のように・・・)
俺はルゥが『黒騎士の剣のように破壊される』という言葉で決心がつき、魔力を解放した。
「おっ?目の色が変わったな、何をするつもりだ?」
「爺さん・・・正直俺はあんたの事を殺したくないと思って手加減していた。 此れから俺の最大の攻撃を放つ! 死にたくなければ全力で防御しろ!!」
俺は目の前に居る爺さんに、そう言い放つと剣を構えなおした。
スランプに陥っているのか自分の『書きたい』と思っていることが文章化できない・・・
色々と書いているうちに長くなってしまったので前編・後編に分けることにしました。
後編は未だ未完成ですので、もう暫くお待ち願います。