第73話 魔法対決の行方は
色々と悩みました・・・
レイモンドvs黒騎士の大激戦の準決勝が終了して5分後、俺とフィンケルとの第2試合が始まろうとしていた。
司会に呼ばれ俺とフィンケルが舞台に上がったのだが、魔力温存のためかフィンケルは開会式とは違い自分の足で舞台へと上がってきた。
「それでは、これより本日最後となる準決勝第2試合を開始いたします!!」
俺は司会の開始の合図とともに先手必勝として剣を抜きながらフィンケルに突進していった。 『本日最後』と言う事は決勝戦は明日に持ち越されるのか・・・
「魔術師相手なら剣での当身を食らわせて決勝進出といくか」
「貴方の魔術師に対する考えは正しいとは思いますが、私をあまり舐めないほうがいですよ?」
フィンケルは俺にそっと呟くと右の掌を俺のほうに向けた。
(マスター、風の魔法がきます! 左右どちらかに避けてください)
ルゥからの咄嗟の念話を聞き、急いで右方向に身体を翻すと風の塊が先程まで立っていた場所を通り過ぎた。
「良い勘をしてますね。 不可視の風を避けられるとは思いませんでした」
「風魔法で迎撃か、やるな」
「貴方は私の魔法で何も出来ずに場外負けになる運命です」
フィンケルの言葉どおり、瞬間的な詠唱をしているのか避ける方向全てに風の塊が飛んできている。
ついさっきまでは一撃を叩き込もうと舞台の中央まで走り寄ったにも拘らず、風をかわしながら移動していたため気が付けば後1m下がれば場外負けというところまで追い込まれていた。
(仕方ない・・・。 魔力、クラス30解放だ!)
「何を悪あがきしているか分かりませんが、これで試合終了です」
トドメとばかりにフィンケルから風の塊が打ち出されるが、俺の目の前で霧散した。
というより同等の風魔法をぶつけて相殺したのだが・・・。
「なっ!? 何があったんだ?」
「先程の言葉、そっくりそのまま、お返しする」
俺は右手を前に突き出し、ウインドの魔法を唱えると先程打ち出した魔法とは比べ物にならない風の塊がフィンケルに向かって襲い掛かっていった。
「こ、この波動は風の魔法か!? 相殺しなければ・・・・」
フィンケルは俺の魔法をログナート戦と同じ様に相殺しようとするが、自身の魔力よりも俺の魔力のほうが上回っているため、相殺されずに俺の魔法によって場外の方向へと吹き飛ばされてしまった。
「グウゥゥゥ!!? このままでは場外負けになってしまう。浮かばないと」
「悪いがそうはいかないな。 油断大敵だ」
俺は風の塊を追いかけるようにしてフィンケルの直ぐ傍まで移動し、鞘を被せたままの剣で思いっきり打ちつけた。
と思ったのだが・・・
剣での攻撃は何の抵抗も感じられずに空を切ることとなった。
「いや~~危ない危ない。 まさか貴方が魔法を使うとは思いも寄りませんでしたね」
「なっ!?」
声がした方に目を向けると、何時の間に移動したのか俺の真後ろに立っていた。
「私の動きが見えなかったことに疑問を感じているようですね」
「いつの間に俺の後ろに?」
「なぁに風魔法での加速を使ったまでですよ。 貴方が私と同じ風魔法を使えると分かった以上、油断はできませんね」
フィンケルは風魔法の加速という方法で俺の周囲を移動し複数の風の塊を俺のいる方向に打ち出していく。
その塊を俺も負けじと高速移動でかわして行くため、中々勝負が決まらなかった。
「風vs風じゃ此方に分が悪いな」
「如何しました? 避けているばかりでは勝ち目はありませんよ?」
「仕方ない・・・」
「此方の体力と魔力を消耗させる作戦ですか? 私を普通の魔術師と一緒になさらない方が良いですよ」
俺は一つの作戦を試すために体力が切れた振りをして舞台の中央で息切れするという演技をフィンケルに見せた。
「如何やら体力が先に切れたのは貴方のようですね。それでは此れでトドメです」
フィンケルは馬鹿正直に俺の前へと姿を現し、風の塊を放ってきた。
「かかった!」
俺は風の塊をしゃがみこんで避けると同時に舞台に掌をついて、とある魔法を唱えた。
そして目で上手くいったことを確認するとフィンケルとの間合いを詰める。
「まだ其れだけの体力を残していましたか。 しかし今度こそ・・・!?」
フィンケルは俺が間合いを詰めた事により後方に移動して魔法を唱えようとするが何故か移動することが出来ずに尻餅をついてしまうことになる。
俺はその隙を見逃さず、瞬時にフィンケルの前へと移動すると今度こそ剣の柄で当身を食らわせ意識を奪う事に成功した。
「それまで! フィンケル選手気絶によりミコト選手の勝利が決定しました。
これにより翌日の決勝戦はレイモンド選手対ミコト選手で争われる事が決定いたしました!」
会場にいる観客達も予想に反した結果に静まりかえっていたが数秒後には盛大な拍手で勝者である俺を称えてくれていた。
そして観客の声を目覚ましにして気を失っていたフィンケルが意識を取り戻していた。
「う、う~ん一体何が・・・。 はっ試合は!?」
「残念だが、お前の意識不明によりミコトの決勝進出が確定した」
「おっ? 気がついたか、身体は大丈夫か?」
フィンケルは最初『心此処にあらず』といった表情で此方を見てきたが、瞬時に覚醒し俺に問い質してきた
「ミコト殿・・・最後に私に対して何をしたのですか?」
「ああ、あれは風魔法を避けると見せかけて舞台ごと足を凍らせて動きを封じたんだよ。 俺が間合いを詰めた事で距離を取るように仕向けたからフィンケルは後方に移動しようとした。 が、舞台と一緒に凍らされた足の所為で飛ぶことも移動することも出来なかったお前は俺の当身を食らって気絶したという訳だ」
此処で黙って聞き役に転じていたタルカスが未だ脇腹を押さえながら話しかけて来た。
「ミコトは剣士ではなかったのか?」
「一言も『自分は剣士だ』と言った憶えはありませんよ? 周囲が俺の姿を見て勘違いしただけです」
「理由は如何であれ、私が負けたことは紛れも無い事実・・・鍛錬のやり直しです」
そして俺達は観客の拍手・声援・野次をBGMに舞台を後にした。
控え室に戻る途中に擦れ違ったレイモンドの意味深な笑みが気になるところだが・・・。
そして司会から『決勝戦は明日の11時から開始』と告げられ武道大会会場をあとにした。
小説の王道と言うべきか武道大会決勝戦はミコトvsレイモンドとなりました。