第71話 対タルカス戦
武道大会本戦トーナメントの開会式が行なわれてから4時間が経過し、俺以外の選手による第1回戦(準々決勝)の3戦が終了した。
俺の相手である騎士隊隊長を勤めるタルカスは今か今かと勝負の開始時間を待ちわびている。
「これより第1回戦。最終の第4試合を始めたいと思います!」
いよいよ恐らくは苦戦になるであろう勝負が今まさに始まる・・・。
「ミコト選手、タルカス選手、舞台へと上がって下さい!!」
俺は剣の柄に手を置き、鞘から引き抜きながら椅子から立ち上がり舞台の中央へと歩いていく。
タルカスもまた、2m近くもある長槍を自分と水平になるように構えながら舞台へと上がってきた。
「それでは両者、試合開始してください!!」
逸早く槍を構えて突っ込んで来るかと思いきや、その場から1歩たりとも動かずに俺の出方を注意深く目で追っていた。
「来ないんですか?俺はただの剣士ですよ?」
「剣の構え方が俺の知っている物とは全く違っているからな・・・」
見たことがない型であることは間違いなく、剣の構えというよりも刀の構え方をしているので其処からどのような剣戟がくるか予想も出来ないのであろう。
「来ないなら、此方から行かせて貰いますよ?」
「ぬっ!?」
俺は剣を上段に構えたまま袈裟切りの体勢でタルカスに向かって斬りつける。
「俺の見当違いか・・・。素人の剣だな、隙だらけだぞ?」
タルカスは一瞬溜息を洩らしながら、最初の一手を槍で薙ぎ払うと当身を喰らわすつもりか槍の刃とは反対の柄の部分で俺の腹部を狙ってきた。
俺は薙ぎ払われた勢いで剣の切っ先を舞台の石床へと付けてしまっていた。
傍から見れば攻撃に失敗したという風に目に映るだろうが、其れこそが俺の狙いであった。
「かかりましたね?油断大敵ですよ?」
タルカスは俺の最初の攻撃により、俺の言葉どおりの素人だと判断し剣で言う柄での当て身をしてくるつもりなんだろう。
俺は下も向けた剣を燕返しのような要領で下段から上段へと切り返しタルカスの持つ槍を掃いながら、剣で脇腹に打ち付けたのだが・・・。
いつの間にやら持ち直していた槍で見事に防御され俺が離れる隙を狙って攻撃してきた。
もし槍の刃先の部分で攻撃されていたとしたら俺でなければ完全な致命傷だっただろう。
「防御から一瞬のうちに攻撃に転じるとは・・・やりますね」
「俺も仮にも騎士隊長と言われる立場の人間だからな。 それにレイモンド様が見ている前で無様な姿は見せられんよ」
タルカスに言われ椅子に座るレイモンドを見ると厳しい目で此方を凝視していた。
今まで『我、関せず』としていた黒騎士も俺の動きを読むように顔を動かしている。
「それにしても、あの構え方から剣戟が来るとは思いもよらなかったな」
「俺も不意打ちを狙ったのに防御されるとは思っていませんでしたよ」
此処で気になる点が一つだけあった。
本気とは行かないまでもそれなりの力で攻撃している筈である。 それなのに咄嗟に防御したとはいえ無傷で立っていられるわけが無いのだが・・・。
まだ試合途中でありながら色々と考えてしまっているとタルカスが後ろ手に槍を構えて突進してきた。
「こんな時に考え事とは感心しないな。 今度は俺がこの言葉を使う番だな、油断大敵ーーー!」
柄の長い槍から繰り出される高速の突きの数々に俺はかわすので精一杯だったのだが、俺が攻撃したわけでもないのに突然タルカスが脇腹を押さえて蹲ってしまった。
「ウグググググ・・・」
俺は苦悶の表情で蹲っているタルカスの首筋に剣を置き『降参するか?』と尋ねたが帰ってきた言葉は否定だった。
数分後に額に脂汗を浮かべながら立ち上がってきたタルカスだったが、槍を構えた体勢のまま微動だにすることはなかった。
不思議に思い審判が近づいていった次の瞬間、タルカスが立ったまま気絶している事が分かった。
此れにより俺の勝利が確定し、タルカスは数人の医療魔術師の手によって集中治療されている。
後日分かった事だが一見、俺の攻撃を完璧に防御して見せたタルカスだったが実際には肋骨が数本砕け、その骨の破片の幾つかは内蔵に突き刺さり、あと1歩治療が遅れれば命すら落としかねない状態だった事がわかった。
左のほうから強い視線を受けて振り向くと其処には心配そうでもあり、怒り心頭でもある表情のレイモンドが腕を組み、椅子に座った状態で地面に寝そべって治療を受けているタルカスを見据えていた。
そうこうしている間に数人がかりで治療されていたタルカスが目を覚まし、自分の敗北を審判から聞かされたあとレイモンドに頭を下げ舞台を降りていった。
「大変お待たせいたしました! これより準決勝第1試合を始めたいと思います!!」
さて、いよいよ注目の準決勝戦が始まる。
此れにより、決勝に進むのはレイモンドになるのか正体不明の黒騎士になるのかが決定する。
恐らくは実力者同士の戦いになるであろう・・・。
これは目が離せないな。
なんか最初に設定した内容と中身が食い違っているような気が・・・