第68話 大男のその後
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覚えている方は少ないとは思いますが、予選でミコトに叩きのめされた斧使いの大男のその後の様子を描いてみました。
翌朝、目が覚めた俺は朝食のあと翌日の武道大会本戦を前に気分転換がてら、街の中を散歩する事にした。
「それじゃあ、少し歩いてくるよ」
「ミコトさん、気をつけてくださいね? 毎年、武道大会の予選と本戦の合間には出場選手の闇討ち問題がありますから」
「分かった。気をつけるよ」
毎年だなんて・・・。この街の警備は笊状態なのか?
まぁ武道大会に出場する猛者を兵士が止めるのも無理っぽいが。
俺はそう思いながらも宿屋を後にして街中食べ歩きの旅に向かっていった。
宿を出発してから2時間後、レイシアの予想通り俺を待ち構えていた人物が姿を現した。
(マスター、前方100mほど先にある民家の軒下で此方に対して殺気を漂わせている人物が5人います)
(相手は俺を狙っているのか?)
(間違いないでしょう・・・。5人のうちの1人には昨日会っている様な気配もします)
(大会本戦に駒を進めた事による嫌がらせか?)
(間違いないと思いますよ?)
襲撃者が待ち構えている場所まで残り50mのところで立ち止まっている俺に対して痺れを切らしたのか、街中にも拘らず巨大な斧を構えた大男を先頭に5人の男が姿を現した。
「探したぜ! 貴様には予選の時の借りを返さねえといけないからな」
「何の事を言っているんだ? 誰かに貸しを作った憶えはないんだが?」
「ふざけるのも大概にしやがれ! 俺の顔を見忘れたとは言わせねえぜ!」
「そんな事を言われてもな・・・。」
(マスター、本気で忘れてるみたいですね。 予選で最後まで戦っていた大男ですよ)
「ああっ!お前あの時の斧使いか? 指は無事に繋がったのか!?」
「ようやく思い出しやがったのか! 貴様の所為で予想外の治療代を請求されるハメになったんだ! 覚悟しやがれ」
「俺の所為って・・・。お前の指を切断したのはお前の斧だろうが! しかも、不可抗力で」
俺がその事を口にすると、まるで茹蛸のように真っ赤な顔をした大男が斧を振りかぶりながら襲って来た。 其れを合図にしたのか残りの4人も剣や槍で俺へと向かってきた。
この大馬鹿男は分かるが後の4人は本当に見たことも無いな。
「貴様が武道大会自体に出場しなければ俺はこんな出費をしなくて済んだんだーー!」
振り上げられた斧をかわしながら、次々と襲い掛かってくる剣や槍を軽やかなステップで回避していく。
気づいたときには周りを塀で囲まれた袋小路のような場所に追い詰められていた。
「それは明らかに八つ当たりというものだろうが!」
「八つ当たりだろうが何だろうが構わねえ。 鬱憤さえ晴らせればそれでいいんだよ!! 見たところ、貴様は剣を持ってないみたいだしな」
そうなのだ・・・本当にただの散歩と食べ歩きが目的で宿屋を出てきたので、手元には剣も鎧もない。
「逃げ場はないぜ? 観念して斧の餌食になりな!」
男がトドメの一撃を繰り出そうとして斧を振りかぶった瞬間に俺は男の膝を力一杯手加減抜きで蹴り飛ばした。
『バキィ!!』という嫌な音とともに膝は逆方向へと折れ曲がり、体勢を崩した男は斧と体格の重さにより壁を突き破って屋敷内へと倒れこんだ。
俺はというと、一瞬の隙を突いて壁を蹴り民家の屋根に飛び上がって難を凌いだ。
「ウワアァァァ!? 強盗だーーーー! 誰か警備隊を呼んでくれーーー!!」
「む?不味い! 退散だ」
大男の仲間として俺を襲って来た4人は騒動を回避するように四方へと逃げて行った。
「待て! 貴様等、雇い主の俺を置いて逃げる気か!?戻って来い!」
男の片膝は俺が蹴り飛ばした事により砕けてしまっているので壁を突き破った体勢のまま動けずに居た。
「誰も居ないのか!? 畜生!」
「騎士様、此方です」
「強盗に入られたという事で来てみたが・・・民家の壁を破って侵入とは大胆不敵な奴だな」
「お、俺は強盗なんかじゃねえ!!」
「言いたい事は多々あるとは思うが、街中で武器を振るったという事実は覆す事は出来ないからな?」
「畜生!!あの野郎、覚えておけよ」
「『あの野郎』が何処の誰かは知らないが、街中で武器を使った件と民家の壁を破って押し入った件を調べなきゃならないからな、城までご同行願おうか。 おい!この男を拘束し城へ連行しろ」
大男の四肢を持った4人の騎士が引き摺る様にして城への道を戻って行った。
「あ~あ、下らない事で時間を潰してしまったな。 空も夕焼けになりかけてるし宿屋に戻るとするか」
俺は屋根伝いに宿屋の近くまで行くと、人目のない場所で地面へと飛び降りて帰る事にした。
「ミコトさん、お帰りなさい。大丈夫でしたか?」
「ああ特に此れといって、異常はなかったよ」
本当は襲われたのだが、本当のことを言ってしまうと心配されてしまうので内緒という事にした。
「良かった。 実は少し前なんですが、近くの御邸が強盗に入られたとかで大騒ぎになっていたんですよ。 ミコトさんの歩いて行った方向だったので遭遇してないかと心配していました」
「そ、そうなんだ。 とりあえず歩き疲れたから夕飯の準備をしてもらってもいいかな?」
「あ、はい。 分かりました、出来上がったらお呼びしますので部屋でお寛いでいて下さい」
「ん、分かった。 そうさせてもらうよ」
俺はレイシアに手を振って食事の準備を促すと自分の部屋へと戻っていった。
数分後、運動(?)をした御蔭で何時もよりも食が進み、翌日の武道大会の準備は整えられた。
その後、城へと連れて行かれた大男はというと襲撃の目撃者の話により一般人(俺のことかな?)を襲っていた事と街中で武器を使用した事、壁を壊して押し入った強盗罪と・・・合計で重い禁固刑が言い渡され、追加として骨折した膝の治療費と武道大会予選での骨折や指の接続に対する治療費の支払いから逃げたとして1万リルの請求を言い渡される事となった。
「俺は悪くねえ! 全部アイツの所為だーーー!!」
「五月蠅えぞ、新入り! 少しは静かにしろ!!」
『パンッ! バキッ! ゴキッ!!』
「ギャアァァァァァーーー!」
「おっと、すまねえ。 膝が治りかけだったんだな、許せ!」
牢の中で張り飛ばされた事で体勢を崩し、繋がりかけていた骨が再度粉砕する事になってしまった、結局最後まで運の悪い事になった名もなき大男である。
いよいよ次話から大会本線に突入します。
『どんな個性的なキャラを出そうか』と『名前』と苦手な『戦闘描写』を考えるのが毎回苦悩します・・・