第66話 予選開始
控え室にて下らない大男との言い争いから数分後に開会式が執り行われた。
部屋の中から出られなく声だけで顔は見えないが、司会の声から国王が迎賓席にいる事だけは分かった。
「それでは開会式を終了し、予選第1試合を始めたいと思います。」
司会者が言い切ると同時に観客席から盛大な歓声と、ざわめきが聞こえ始めてきた。
「第1試合の選手の入場です。」
“入場”という言葉とともに控え室から闘技場へと続く重い扉が開き、舞台への道が開かれた。
俺は開いた扉から外に出て周囲を確かめると、開いているのは自分達の控え室の扉のみで他の7つの扉は閉まったままになっていた。
其れを気にしながらも20m四方はあろうかという舞台に俺を始め、次々と選手が乗っていく。
先程言い争いをした大男もまるで俺を探しているかのように、キョロキョロと目を走らせていた。
「全員が舞台に乗った事を確認したところで改めて規則の説明をいたします。
対戦中に相手を死に至らしめた場合は、その時点で失格になり騎士の方へと身柄を受け渡します。
更に相手の武器を破壊したり戦意喪失させるか場外へと落とす事により勝利となります。 剣は勿論の事、魔法などを使っても構いません。 対戦中に大怪我をなさっても、回復魔法担当の魔術師が控えておりますので安心して試合に取り組んでください」
この司会の言葉を聞いて震えている者や既に場外に飛び降りようとしている者、あの大馬鹿男のように闘気(殺気?)を滾らせている者と十人十色になっている。
「それではお待たせいたしました。 予選第1試合始めてください!!」
司会が言い切ると同時に大きな銅鑼が打たれ、試合(死合い?)開始となった。
開始直後から予想していた通り、震えていた10人ほどが自ら場外へと飛び降りていった。
俺は『そんな事をするなら、最初から参加しなければいいのに』と考えながら舞台の端スレスレに居る参加者を次々と場外へと押し出していく・・・。
あの大男の方に目を遣ると自慢の斧を振るい、次々と弱いもの虐めをするかのように殴り倒して行った。
控え室で大男の次に話しかけて来た男はというと、自慢のレイピアが折られ場外に座り込んでいた。
(!マスター、直ぐに右へ避けてください!!)
状況判断しているとルゥから念話が届き、咄嗟に右に飛ぶと元居た位置に巨大な斧が突き刺さっていた。
「ちっ外したか、確実に不意打ちをしたと思ったんだがなぁ!」
「お前は!?」
見ると舞台に残っているのは、俺と俺の前にいる先程の巨大な斧を振り回している大馬鹿男だけだった。
「やっと見つけたぜ!!」
「分かっているのか? 俺を殺せばお前は失格になるんだぞ?」
「安心しろ! 『いっそ殺してくれ』と思うほどに痛めつけてやるからよ!!」
「最低だな。」
「なんとでも言え お前を破って俺は予選突破1番乗りだーーー!!」
大男は斧を振り上げ、俺の方へと襲い掛かってきた。
「愚かな・・・。」
身体が一回り大きい事を有利に考えていた大馬鹿男だったが、実際は逆で身体が大きければ大きいほど両足に掛かる負担は大きくなり、少し強めに蹴るだけで自分の体重が負担となって簡単に圧し折れる。
その事を踏まえて俺は咄嗟に斧をかわし、すれ違い様に左足の膝を力一杯蹴飛ばし骨折させた。
「ギャアアアアアア!?」
「まずは1箇所。」
「て、てめえ!いい気になるなよ!!」
足を手で押さえて油断しているところに、もう片方の膝も砕きに掛かった。
「続けて2箇所目。」
「き、貴様!! こんな事をして、ただで済むと思うなよ!?」
「油断していていいのか? 次は此処だ!」
両足が使い物にならなくなり、その場でしゃがみ込んでいる大男の斧を持っている腕の肘関節を力一杯蹴り飛ばし、普段絶対に曲がらない方向へと腕を折り曲がらせた。
「3箇所目・・・。」
腕が折れたことにより持っていられなくなった斧はそのまま地面に落下し、折れた足の部分をもう片方の手で押さえていた指を根元から断ち切ってしまっていた。
「お、俺の指がーーーー!」
「そこまで!! 試合続行不可能とみなし、予選第一試合を終了いたします。」
「俺の指は何処だーーーーーー!?」
「ああ、五月蠅い! 骨を折るだけのつもりだったんだが、不可抗力といったところだな」
「安心してください、指は繋がるかどうか分かりませんが回復魔法で治療させていただきますから」
大男が顔に似合わず大泣きしている所に数人の魔術師が駆け寄ってきて回復魔法を掛けていた。
「それでは舞台の準備が整い次第、予選第2試合を執り行いたいと思います。 勝ち残った選手の方は控え室にお戻り下さい」
場外に座っている者や怪我をしている者は魔術師に付き添われ別の出口から出て行った。
俺は未だに泣き喚いている大男を尻目に控え室へと戻っていく。
控え室に入ると同時に舞台へと繋がる扉は閉められ、外に出られなくなった。
本戦の対戦相手がどんな人物なのか気になったが舞台へと続く扉は重厚な扉で覗けるような窓すらなかった。
これからの事などと色々な事を考えていると控え室に居た魔術師に声を掛けられた。
「大会本戦出場おめでとうございます。怪我はありませんか?」
「特に怪我らしき物はしてないな。」
「そうですか、予選とも思えぬ激戦で怪我を負ってないなんて凄いですね。」
「君は他の参加者の治療に当たらなくてもいいのか? 最後は指を失くした者などもいるが・・・。」
その指を失くす原因を作ったのは俺なので、何とも言えない気持ちになってしまっていた。
「指を失くすぐらいなら、この大会では日常茶飯事ですので気にする事はありませんよ? 酷い時には腕1本とか脚1本切断される選手の方も居るぐらいですから」
「そうなのか。それで俺は此れから如何すればいいんだ?」
「本来は治療するのですが、その必要はないようですし宿に帰ってもらうことになっています。」
「今日はもう試合はないのか?」
「はい。 大会本戦は2日後の朝9時を予定しておりますので、ゆっくりとお休み下さい」
「分かった。」
「あっ!忘れてました。名前を聞かせて頂いても宜しいですか?」
「ん?ああ、俺はミコトだ。」
「ミコト様ですね。お疲れ様でした」
こうして控え室を出た俺は騎士に一礼しながら城を出て宿屋へと続く道を歩いていった。
「ミコトさん、大会は如何でしたか?」
「予選は突破したよ、次は2日後の本戦だ。」
「おめでとうございます。早速、料理の準備をしますので部屋で寛いでください。」
対戦相手がどうなるのか、俺の前に居た爺さんが何者なのか考えながら大会1日目を終了した。
自分自身苦手とする戦闘描写に悩みましたが、なんとか完成しました。