第59話 最後の授業
何時もは2~3日で最新話更新していますが、一身上の都合でこれからは3~5日のペースでの更新になると思います。
話の構成は数話先の方まで出来上がっているのですが、其れを文章にするのに手間取っております。
読者の皆様方にはご迷惑をお掛けいたしますが何卒御了承をお願いいたします。
翌朝、心配な顔をしながら俺達3人は一緒にSクラスの教室へと向かっていた。
そんな時、ルシアの顔を見てみると目の下に隈のような物が出来ていた。
「ルシア如何した? 試験が心配で眠れなかったのか?」
「ん・・・そういう訳でもないんだけど。 昼寝し過ぎた所為か中々寝つけなくて、眠れるまで本を読もうとしていたら中身に嵌っちゃって。」
「本の内容が気になって眠れなくなったと?」
「その通り・・・。グゥ」
「こらこらこら! 歩きながら寝るな」
「ルシアちゃん器用なんだね、歩きながら寝るなんて」
「そういうマリアは元気そうだな」
「昨夜ベッドに入る直前まで今日の事が心配だったんだけど、横になった瞬間に睡魔に襲われて・・・」
「理由はどうであれ、体調管理は万全にしておかないとな」
俺はフラフラと歩いて何時転ぶか分からないルシアをオンブすると、マリアと喋りながら教室へと歩いていった。
俺がそうする事を事前に見抜いていたのか、校舎に辿りつく直前にルシアが目覚め顔を真っ赤にしながら走り去って行ってしまった。
「なんだルシアの奴、元気じゃないか」
「ミコトさん、乙女心に気づかないほど鈍感なんですか?」
「ルシアに乙女心なんてものがあるのか?」
「そう言われれば確かに、見た事がないかも・・・。」
思い返して見ればこの1年、ルシアは露出狂とも取れるような挑発的な格好で寮の中を歩き回ったり、水着で俺の部屋に尋ねてきたり、と羞恥心の欠片も見当たらなかった。
「ミコトさん、考えてると遅刻しますよ!? 此処まで無遅刻無欠席で過ごして来たのに、最後に遅刻なんてしたら大後悔してしまいますよ」
「ヤバイな急ぐか」
「ま、待ってくださいよ~~」
俺は走ろうと思えば目にも留まらないスピードで走る事が出来るが、人の目があるので一般人より少し早めの速度を維持して教室へと向かった。
俺とマリアが教室へ着いたのは始業5分前の事であり、隣のルシアを見ると眠っているのか顔を机に埋めて微動だにせずにいた。
そして、始業開始時間になると同時に学園の理事長でもあるミレイル先生が教室に入ってきた。
「皆さん、おはようございます。 今日この日を1人の脱落者も出さずに迎えられた事をSクラス担任として、学園理事長の立場からしても大変嬉しく思います。」
そして、いよいよ最大の難関とされる卒業試験の内容が明らかになる。
「それでは卒業試験を始めます。 これから各々に水晶を手渡しますので魔力を放出して此れを砕いてください。 因みに時間内に砕けなかった場合は1週間後に再試験が可能ですが、明日以降の食費は自己負担となりますので、そのつもりでお願いします」
ルシアが昨日、部屋で話していた水晶が透明なケースに入れられ理事長先生の座る教壇に置かれていた。
水晶の色や大きさもまちまちで、どれ一つとして同じ色・形の水晶は存在してはなかった。
「今からお配りする水晶は、皆さんが入園時に測定した魔力に応じて固さが異なります。 名前を呼ばれた順から前に出てきてください。 では・・・アレン=G前へ」
次々と理事長先生に名前を呼ばれ、水晶を手に自分の席へと戻っていく同級生たち・・・
何れも表情はプレッシャーの影響か、強張っているようだった。
「次にルシア=W、前へ」
「はい」
「貴女は此れですね。 今はまだ箱から出さないで机の上に置いておいてください」
「分かりました。」
ルシアは透明なアクリルケースのようなボックスに入っている赤い水晶を手に自分の席についた。
「さて・・・次はマリア=R前へ」
「ひゃい!」
マリアは未だに緊張が抜け切れていないのか右手右足、左手左足を同時に動かしてギクシャクとした足取りで教壇に向かっていった。
「マリアさん、もう少し落ち着いてください。 貴女はこの水晶です」
「は、はい」
マリアは戻ってくる時も緊張した足取りで歩いてきたが今度は段差も何もない通路で大袈裟に転んでいた
その際に受け取った水晶の入った箱を地面に思いっきり叩きつけていたが、罅はおろか傷一つ付いてはいなかった。
「マリアさん!? 大丈夫ですか?」
「大丈夫れす~~~」
両手で水晶の入った箱を持っていたため受身が取れず、顔面を強打したマリアは身体を引き摺りながらも自分の席に戻った。
マリアは痛みなのか、恥ずかしかったのか顔を真っ赤にして机に突っ伏していた。
「それでは最後にミコト=M、前へ」
「はい」
俺も返事をして理事長先生の前へ出ると、何故か先生の表情が曇っていた。
「貴方の場合はこの水晶です」
「これは・・・!?」
俺が受け取った水晶は皆とは違う漆黒の水晶だった。
他の同級生のはどこか宝石のような輝きを持つ綺麗な水晶だったが、俺のは呪われているのではないかと思えるほど、漆黒の輝きを放っていた。
水晶の異質さに表情を曇らせていると理事長先生が他に聞えないような小声で話しかけて来た。
「ミコト君は入園式後の魔力測定で『測定不能』と表示されてたみたいですから此方で考え得る最高の水晶になりました。 難易度も最高ですが、頑張ってください」
俺は理事長先生の言葉に軽く頷き、黒い水晶を持って自分の席へと戻った。
「此れで全員水晶が行き渡りましたね。 ではこれより卒業試験の説明をいたします。 まずは水晶の入っている箱を机の中央に置き、蓋を外してください。あ、まだ水晶自体には手を触れないように」
理事長先生に言われた通り、箱を机の中ほどに置き蓋を開けるとケースが其々の方向に倒れ、水晶が外気に晒された。
「全員、用意が整ったようですね」
先生が全員の机を見渡し、水晶が出ているのを見て頷いていた。
「それでは手を触れずに水晶を挟み込むようにして左右の掌を置いて下さい。 出来ましたね?それではこれから3時間の制限時間で手から放出する魔力のみで水晶を砕いてください。 では・・・始め!」
こうして魔法学園最後の授業となる、卒業試験が開始されたのだった。