第58話 卒業試験!?
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これからも『異世界を渡りし者』をよろしくお願いいたします。
瞬く間に月日が過ぎて行き、とうとう明日が卒業試験になった。
ライシャスとの喧嘩(?)の翌日、身体の何処にも傷は無く平然としている俺に流石に吃驚したのか取り巻き立ちやライシャス本人ですら二度と俺に攻撃してくる事はなかった。
ただ、この事でストレスが溜まり捲くっていたのか、被害生徒の数は1.5倍に膨れ上がっていたのだが
(マスター、最初の頃は愚痴を溢し放題でしたが、とうとう魔法学園を卒業ですね。)
(そうだな。色々とあったよな・・・。)
(マリアさんの話では明日は卒業試験らしいですが、内容は何なのですか?)
(それが・・・ルシアやマリアに聞いても『何も知らない』って言われて)
(そうなんですか。ん?マスター、マリアさんがこの部屋の扉に近づいてきてますよ?)
(そうなのか?どれ、少し驚かせてやるとするかな?)
(マスターも意地悪ですねえ)
俺はそろそろかと思うと扉の前に立ち、マリアがノックする前に部屋の扉を開いた。
扉を開くと、今まさに扉を叩こうとした体勢のまま、マリアが固まっていた。
「マリア? どうかした?」
「い、いえ。 ミコトさんは今から何処かにお出掛けになる予定だったのでしょうか?」
「いや、扉の外にマリアの魔力を感じたから脅かしてやろうと思っただけだよ?」
「なんだ、そうだったんですか・・・。って酷いですよ!」
「それは横に置いといて、何か俺に用があったんじゃないのか?」
「置いとかれても困りますが。私、明日の卒業試験のことが心配で部屋にいても落ち着かないんです」
「まぁ立ち話もなんだから部屋に入れよ、お茶ぐらいなら出せるからさ」
「では、御言葉に甘えて失礼致します」
俺はマリアを部屋の中に通すと、初日みたいにルシアに見られていない事を確認してから扉を閉めようとするが一足遅かったようで。
「なに?ミコトの部屋で相談会? 私も行く・・・。」
目を下に向けると閉まりそうになっていた扉を手で押さえ無理矢理部屋に入ってきた。
「誰も入っても良いとは言ってないだろうが」
「今言った。じゃ、御邪魔します」
ルシアには日常から口で勝てた事がないので半ば諦めて部屋へと通した。
いや・・・。『部屋へと押し通られた』が正解だな。
「マリア、何故泣いてるの? ミコトに酷い事されたんだね?」
「ちょっと待て! 何でそうなるんだ!?」
「あれ?ルシアちゃんも来たんだね。涙って?」
「だってマリア、目に水滴が溜まってる・・・。」
「ああこれ? テーブルの上にあった果物の皮を剥いてたら汁が目に飛んじゃって」
そうなのだ・・・。マリアもルシアも事あるごとに俺の部屋へと足を運んでいるので『勝手知ったる他人の家』とはよく言ったもので、果物や飲み物などを勝手に飲み食いしているのだ。
「お前らな~~~。幾らなんでも寛ぎすぎじゃないのか?」
「でもミコトはそれを見通して、私達の好きな果物や飲物を目に付くところに置いていてくれている」
「ミコトさん、果物美味しいです。いつもありがとうございます」
「ま、まぁ喜んでくれて何よりだ」
ルシアの言う事も尤もで、購買部でマリアとルシアが好きな果物や飲み物を買い占めては異空間倉庫に仕舞って置いてあるので、何時でも新鮮な状態を保つ事が出来ている。
「そういえばマリアは明日の卒業試験のことが心配で俺の部屋に来たんだったよな?」
「は、はい、そうです。どんな事をすれば合格になるのか心配で・・・。」
「ルシアは何か知ってるか?」
「そうねぇ学園を中退した兄様が寝言で水晶がどうとかという、うわ言を聞いたことがあるわ」
「ルシアの兄さんって、この学園に通っていたのか!?」
「ねぇルシアちゃん、中退ってどういうこと? 卒業試験不合格だとどうなるの!?」
マリアはルシアの両肩をガシッと掴むと前後左右に揺さぶり始めた。
「ま、マリア! 落ち着いて。 今、説明しゅるかりゃ」
ルシアは散々揺す振られ続け、最後には舌を噛み呂律が回っていない状態だった。
「じゃあ説明してルシアちゃん!」
「ちょ、ちょっと待って。まずは息を整えさせて・・・。」
ルシアは先程淹れていたお茶を勢い良く喉奥へと流し込むと、深呼吸して息を整え始めた。
「兄様に聞いた話では卒業試験で不合格になったあと、勉強して1週間後に再試験して落ちて、一週間後に再試験をと3回繰り返した後、腹を立てて学校を飛び出したそうよ。 その事で父様が怒って兄様を一族の恥と罵って親子の縁を切って勘当したらしいわ。 序に言うと、兄様はCクラスだったから参考にならないかもしれないけどね・・・。」
「つまり卒業試験で落第したとしても、1週間後の再試験で合格すれば卒業できると?」
「兄様が嘘を言ってなければ・・・だけどね」
「ルシアちゃん、水晶がどうとかって話は何なの?」
「その事だけは幾ら問い質しても答えてくれなかったわ」
「そうなの・・・。」
「大丈夫だよ!俺もマリアもルシアも、Sクラスではトップの成績じゃないか。自信を持て!」
「うん。そうだね! ミコトさんとルシアちゃんに話を聞いてもらったら落ち着いてきた。 夜更かしもこの位にして明日の卒業試験に備えて早く寝なきゃね。それじゃあ果物、ご馳走様でした」
マリアは勢い良く椅子から立ち上がると、飛ぶような勢いで部屋の外へと走り去っていった。
「ミコトも言う時は言うじゃない!」
「煽てても何もでないぞ」
「そんなつもりはないわ。でも、これで落ちたりしたらミコトの責任は間違いないわよね」
「おいおい、それと此れとは話が別だろ!?」
「卒業試験後にマリアから感謝されるか恨まれるかはミコト次第ね。私も寝るわ、おやすみなさい」
「お、おい!?」
ルシアも魔術師ではなく忍者のような足取りで音もなく扉の外へと走り去っていった。
2人が去った後に残されていたのは、食い散らかされた果物の種と皮に、雫1滴まで綺麗に飲みつくされたお茶のカップとポットがテーブルの上に置かれているだけだった。
「全く、あの2人は・・・。誰が後始末をすると思っているんだ!?」
(まさにマスターが前に話してくれた、台風のようなお2人でしたね)
「そう思っているなら後片付けを手伝ってくれないか?」
(それは無理ですよ、私は実体を持たない剣の精霊ですよ!?)
「そうだったな、今度は俺がノイローゼになりそうだよ・・・。」
そんな事を考えていると扉を挟んで廊下から声が聞こえてきた。
「・・・ミコト。 試験前で緊張してるのは分かるけど、一人で喋ってると変に思われるよ?」
「分かってるよ! いいから早く寝ろ」
卒業試験を明日に控え、最後までふざけ合ったまま卒業式前日は過ぎていった。