第53話 初めての魔法授業
散々騒がしかった1日目は無事(?)に終了し2日目の朝を迎えた。
(マスター、おはようございます。)
(おはようルゥ。)
俺は身支度を整えると、そのまま学園に向かおうとしたが昨日ルシアから学園内への武器の持ち込みは禁止だと聞いていたので部屋に剣を置いていこうとも考えたが、不測の事態を予想していつでも取り出せるようにと異次元空間へと剣をしまった。
「おっと、そうだ! 換金するために此れも持って行くか」
そう言って空間の中から取り出したのはマルベリアの町で買い求めていた魔力増強の指輪だった。
「前の世界の金貨10枚分の指輪が此処で幾らの値がつくか分からないからな、念のために2個持って行くか。」
この事が混乱の始まりになるとは、この時は思いも寄らない事だった。
俺は部屋で着替え寮を出発する直前に食堂で軽めの朝食を済まし、学園へと歩き出した。
途中で追いついてきたマリアと一緒に教室に入り、2日目の授業を迎えた。
「今日は最初の授業という事で、火属性の魔法について勉強しましょう。 皆さんは魔法というと派手な威力の魔法を連想しがちですが、今回はあえて威力の小さな魔法を使おうと思います。」
なるほど高威力ではなく、魔力の制御を憶える授業か・・・。面白そうだ。
「それでは試しに誰かに実践してもらいましょう。この中で魔力検査時に火の属性だった方はいますか? 居ましたら、手を上げてください。」
俺は全属性を持っているため、躊躇なく手を上げると俺を含めた3人が手を上げていた。
「えっと、それではモニカさんとミコト君に前に出てきて実践して貰いましょう。」
モニカは緊張した足取りで何とか先生の横に立ち、俺も同じ様に反対側へと立った。
「それではモニカさんから試してみましょうか。 緊張しないで気持ちを静かにして人差し指を立てましょう、そして指の先に火を灯すようなイメージで・・・。」
先生がそう言いながらモニカにやらせてみると『ポッ!』という音とともに直径が5cmくらいの小さな炎が指の先に出現した。
「せ、先生! 出来ましたーーー」
「どうやら成功したみたいですね。今の感覚を忘れないようにしてくださいね。 それでは次はミコト君に試してもらいましょうか。」
俺はさっき、モニカがやっていたように微量の魔力を放出すると、指を立ててファイアを唱えた。
すると指輪の宝石が一瞬光ったかと思うと、先程とは全然違う直径30cmもの火炎球が出来上がっていた。
「ミ、ミコト君。 大きすぎです。もう少し魔力を抑えてください!」
「これでも最低な量の魔力しか放出していないんですが・・・。」
「ミコト君は魔力値が高すぎるのでしょうか。 ん?その指につけている指輪はなんですか?」
「これは実家から学園に出発する時に手渡された、何の変哲もないアクセサリーですが?」
「私の取り越し苦労なら良いのですが、試しに指輪を外して見ましょうか?」
そう言って先生が俺の手から指輪を外すと30cmあった火炎球が15cm程度にまで縮小した。
「やっぱり、魔力増幅の効果をもった魔道具でしたか・・・。しかしまだ魔法が大きいですね、何か他に持ってませんか?」
「洋服の胸ポケットにもう一つ指輪が入っています。」
「それも取り出して見ましょう。」
先生が服のポケットに入っていた指輪を取り出すと、更に火炎球は縮小し4cmほどの火の玉になっていた。
「どうやら此れがミコト君の最低魔力の本当の姿みたいですね。 まさか魔道具を持っているなんて思いも寄りませんでした・・・。ミコト君、この指輪は誰にでも使えるのでしょうか?」
どんどんドツボに嵌っていきそうで怖かったが嘘を嘘で塗り固める事でその場を脱した。
「それは分かりません。家族の中では俺しか魔法は使えませんでしたから」
「ふ~む、そうですか。ならモニカさん、試しに指輪をつけてもう一度魔法を唱えてみてください。」
「分かりました。ミコトさん、指輪をお借りしますね」
モニカは俺に向かって軽く頭を下げると、ぶかぶかな指輪を装着して魔法を唱えた。
その瞬間、先程唱えた時には5cmくらいの火の玉だったが、今は10cm以上の火炎球になっていた。
「どうやら誰にでも効果があるようですね。それでは此れはお返しします」
俺は先生とモニカから指輪を1個づつ手渡された後、無造作にポケットへと突っ込んだ。
「それでは一旦、10分程度の休憩を挟みたいと思います。」
先生はそう言うと教壇に備え付けてある椅子へと腰掛けたので、話をする事にした。
「先生、この近くで道具を買い取ってくれる店を知りませんか?」
「それなら学園内にある購買部で可能ですが、まさか魔道具を売るつもりでは!?」
「はい、家族からもお金に困ったら売っても良いと言われているので買い取ってもらおうかと・・・。」
「しかし、これほど貴重な魔道具は学園の購買部では値がつかないと思いますよ?」
「なら、何処に行けば?」
「王都にある魔道具の専門店に行けば買い取ってもらえるとは思いますが、学生は許可がないと学園内から外出できませんから、もし行くなら卒業後になるでしょうね。」
「そうですか・・・。分かりました」
「お金が必要なら、学園内のギルドで御小遣いを稼ぐという方法もありますよ?」
「ギルド?」
「ええ、学園の中庭にある噴水の反対側に学園ギルドがあります。本当の冒険者が利用するギルドとは内容が異なり、危険な討伐などの依頼はありませんが・・・。」
「分かりました、後ほど行って見ます。」
先生は俺の言葉に軽く会釈すると、不意に立ち上がり教室中に届くように声を張り上げた。
「それでは休憩はこのぐらいにして次の授業に移りたいと思います。 皆さん自分の席に戻ってください。」
俺も自分の席に戻ると何かを言いたげなマリアとルシアとに目が合ってしまった。
「ミコトさん、ギルドに行くのなら私も御一緒します。」
「私も一緒に行くわ、何だか面白そうだから・・・。」
その後、何故か意気投合してしまったマリアとルシアに話しかけられながら、その日の授業は終了した。