第52話 来客と疑惑
久しぶりに美味しい食事をして満足な気分になった俺はベッドで横になり精霊と会話していた。
(なぁ光の精霊、火の精霊ってどんな奴なんだ?)
(上級精霊の中でも変わり者で有名な精霊です。 主様は気にいられると思いますよ・・・。)
(大丈夫か?その精霊。 何か心配になってきた)
(申し訳ありません。火を司る精霊ですので火山にいると思われます、お気をつけて逢って下さい。)
(マスター、お客様のようです。扉に近づいてくる魔力の波動を感じます)
(マリアじゃないのか?)
(昼間のマリアさんの魔力とは違う感じがします。)
俺は精霊との念話を止めて剣を手に扉へと近づいていった。
扉に近づいたまさにその時、扉をノックする音が聞こえてきた。
(ルゥどうだ?扉の向こうから殺気は感じられるか?)
まだこの世界に到着したばかりなので敵はいないとは思うが一応聞いてみた。
(殺気かどうかは分かりませんが不穏な気配が漂ってきています。)
(そうか、注意しないとな。)
俺は右手で腰の剣を引き抜き、左手で扉を開けると一人の小柄な少女が立っていた。
「君は?俺になんの用だ?」
「クラスメイトで席も近いから挨拶をしに来たんだけど・・・その剣はなに?」
「此れか?悪いな少し鍛錬を行なっていたんだよ。」
「部屋の中で?」
「外でなんかしたら不審者扱いされてしまうからな。」
「そろそろ中に入れてくれない?少し話がしたいの。」
「ああゴメン。どうぞ」
俺が入室を促すと、少女は周囲をしきりに気にしながら部屋へと入ってきて椅子に静かに腰を下ろした。
「それで話ってなんだい? え~と・・・。」
「朝会で自己紹介したでしょ? 2つ隣の席のルシアよ、覚えておいてね。」
「それで何の用だい?ルシアさん。」
「ルシアでいいわ。ミコトに聞きたい事が2つ・・・いえ3つあるんだけどいいかしら?」
「答えられる事なら、何を質問してくれても構わないよ。」
「じゃお言葉に甘えて、最初の質問なんだけど貴方は何者?」
「何者とは可笑しな事を聞くね。 俺はルシアと同じSクラスの生徒だよ?」
「じゃ、その膨大な魔力の説明を教えて欲しいのだけれど・・・。」
「これか?俺は子供の頃から魔力が異常なほど高くてね、周囲から苛められてたんだよ。」
「・・・ごめんなさい。いやな事を思い出させてしまったみたいね」
「いや構わないさ。もう気にしてはいないから」
真っ赤な嘘だしね。
「その話が嘘か本当かは別にして、次の質問に移らせてもらってもいいかしら?」
「あ、ああ。いいよ」
コイツ絶対気づいているな・・・。
「ミコトの持っている剣からも高魔力を感じるのはどういう訳?」
「この剣か?これは魔剣さ。」
(マスター、酷いです!私は聖剣なのに。)
ルゥがしきりに頭の中で苦情を訴え続けているが、この際無視する事にしよう・・・。
「魔剣?興味あるわね。少し持たせて貰っても良いかしら?」
「それは止めといたほうがいい。波長があう者が触らないと怪我をするぞ?」
「私は回復魔法が使えるから試してみてもいい?」
「知らないぞ、どうなっても。」
俺はルシアに剣を渡しながら念話でルゥに話しかけた。
(ルゥ、今から手渡すが手加減してやれよ?)
(そうは行きません!私の恐ろしさを身をもって体感させてあげます)
(お、おい!?)
今まさに手渡そうとしているところで言われたものだから落としそうになってしまった。
(なんて無理なんですけどね。私の意志では、操作する事なんてできませんから)
(吃驚させるなよ。)
もう少しで床に穴が開くところで剣を受け止めた俺は逸早く剣を鞘に収めルシアの眼前に差し出した。
「持てるかどうかは分からないが、持つだけ持ってみたらどうだ?」
「それは私に対する挑戦?良いわ、やってみる!」
ルシアはそう言いながら俺の手から剣を受け取った瞬間、剣を持つ右手から肘にかけて蚯蚓腫れのような傷が何本も浮かび上がってきた。
「グウゥゥ!?此れ、返すわ。」
そう言って俺の方へ剣を放り投げて寄越してきた。
「大丈夫か!? だから言っただろ。波長が合わないと怪我をするって」
そうは言いながらも実際に剣のせいで他人が傷つくところは初めて見たので少し心配になってきた。
俺には驚異的な回復能力があるから、傷を負わないだけなんじゃないかと・・・。
(マスター、そんな事はありません。マスターが私の持ち主で間違いありません!)
(そうだな。すまない、少し弱気になっていたようだ。)
ルゥと会話しながら、ルシアがどうなったのか目を向けると蚯蚓腫れになった右腕が白く輝いていた。
「これは!?何の光だ?」
「私の属性の一つである回復の魔法よ。傷は治るけど、痛みまでは取れないわ」
白い光が消え失せたのでルシアの腕の様子を見たが蚯蚓腫れは何処にも存在してはいなかった。
傷跡は無かったが、ルシアの表情から痛みは残っているようだった。
(なぁルゥ、俺でも回復魔法は使えたよな?)
(可能です。宿で訓練した時のように傷に手を添えて『ヒール』と唱えてください。 練習した時は対象がマスターだったので見た目で効果は分かりませんでしたが、発動はしましたから大丈夫な筈です。)
俺は心の中で魔力を放出しながら蚯蚓腫れのあった場所に手を翳して『ヒール』を唱えた。
「何のまね?回復魔法は掛けたわよ!?」
驚いているルシアを余所に右腕から先程とは比べ物にならないほどの強い光が輝いていた。
「こ、これは!? 痛みまでは取れないはずなのに全然感じない・・・。」
「これで良いかな。だから言っただろう?無理をするなって」
「私は昔から負けず嫌いだから、他の人から無理だと言われたら意地でも挑戦したくなるのよ
それにしても、さっきの回復魔法の威力は凄いわね。やっぱり魔力の大きさが違う所為かしら・・・。」
俺は剣を元通りに俺の腰へと挿し直してルシアに向き直った。
「色々な事があったけど、最後の質問をしてもいいかしら?」
「良いぞ。 時間も押し迫ってきたからな」
俺は会話をしながら食事の時に用意されたワインを部屋で喇叭飲みしていた。
「じゃあ聞くけど、マリアさんとは何処までヤったの?」
ブゥーーーーー!!?
俺はルシアの口からとんでもない事を聞かされた瞬間に口に入ったワインを噴出した。
「汚いわね。」
「ゲホゴホ・・・。な、何の事を言ってるんだ?」
「さっき部屋に入る時に見ちゃったのよ。この部屋に隣の席のマリアが入室して1時間後に焦った顔で部屋から飛び出していく姿を。」
「それは誤解だ。 この部屋の説明を詳しく聞いてただけだよ!」
「そういう事にしといてあげるわ。 また今度、詳しい話を聞かせてね。」
「だから何にもしてないんだってば!!」
「別に異性の不純行為は禁止されてないから思う存分、ヤってもいいのよ?」
「何度も言うが誤解だーーーー!」
「そうそう、それともう一つ。学園内は剣やナイフなどの武器は持ち込み禁止だから注意してね」
「分かった。」
「じゃ、オヤスミ~~~。今度は私も誘ってね?」
ルシアは口元を緩ませながら、自分の部屋へと戻っていった。
「あいつ・・・。絶対にからかっていただろう!」
俺は変な噂話が発生しない事を心の中で祈りながら、破天荒な学園生活1日目を終了した。
一風変わったキャラを登場させてみました。