閑話③ マリアの事情
色々なシーンを書き足していった結果、通常の1.5倍にまで文字数が増えてしまいました
私の名前はマリア=ライオットと言います。
イスラントールの端の端にある小さな村の出身です。
この度は村に居る両親が駄目元でアメリトス魔法学院への入学申請を行なってくれました。
幼馴染の男の子の親も私の両親の考えに賛同し一緒に入学申請を行なった模様です。
“駄目元”と言ったのには訳があります。
イスラントール領内にある魔法学園は国の内外を問わず生徒を募集しています。
そのため学園に入学申請する生徒は何千、何万と存在します。
その中の定員300名ですから確率的には何百分の1になってしまいます。
魔法学園を卒業したとあってはクラスによって名前にも家名にも箔がつきますし、就職先にも困る事は無くなります。
先程言ったクラスというのは、幅広く配られている学園案内によると一番上はS、あとはA~Iクラスの全10クラスが存在するそうです。
クラス分けの基準は入園式後の身体検査で調べる潜在魔力の多さで決められるそうです。
私も今まで魔法なんて使った事はありませんでしたから、多分最低クラスのIクラスに入るのではないでしょうか?
そして入学申請を学園に送った日から1ヶ月が経過し『やっぱり無理だったか』と皆が諦めかけていた時、2通の重要書類と書かれた封筒が送られてきました。
恐る恐る震える手で封筒を切ると私の分と幼馴染の分の2枚の入学許可証が入っていました。
此れには普段冷静な私の両親も近所迷惑なほどの大声で奇声を上げながら喜んでいました。
しかし、入学許可証には注意書きとして『1ヶ月後(今日から)の入園式に間に合わなかった場合は無効とする』と書かれていました。 此れには先程まで大騒ぎしていた両親も幼馴染の親も顔が真っ青になってしまってました。
それもその筈、私達の村はイスラントール領内の最果てにある小さな村、領内の中央に位置する魔法学園までは馬車で休み無く走れば10日ほどで辿りつきますが、そんな馬車を買えるお金はありませんし、かといって歩くと最低でも1ヶ月以上はゆうに掛かります。
喜びから一気に落とされた両親は『何か手はないか』と方々に動き回っていました。
そんな時でも着々と時間だけが過ぎて行き、入学式まで残り15日となってしまっていました。
『もう駄目か』と魔法学園への入学を諦めかけていたその時、天の助けか偶然にも馬車を連れた冒険者の方が村へ休憩のために立ち寄りました。
両親も『この期を逃すまい』と馬車に駆け寄り交渉を始めました。
それを見ていた幼馴染の親御さんも交渉に参加し始めました。
冒険者の方々もまさか休憩に立ち寄っただけの小さな村で『魔法学園まで連れてってくれ』という言葉に大いに驚き、交渉は難航していました。
それから2時間後、漸く交渉がうまく行き、村の家々から頼み込んで集めた500リルのお金と食料とを引き換えに魔法学園まで乗せて行ってもらえる事になりました。
そして出発の日、村を上げての大騒ぎに見送られながら私と幼馴染の2人は学園に向けて出発しました。
その後、厳つい顔のわりには優しかった冒険者の方たちと世間話を繰り返しながら学園の眼と鼻の先という場所まで辿りつくことが出来ました。
しかし途中色々な事(幼馴染が馬車に酔うなど)があり入園式の日になってしまってました。
『なんとか間に合ったかな?』と思っていたとき、手綱を操っていた冒険者の方が1本の矢に頭部を貫かれて絶命してしまいました。
何事かと思えば馬車の進行方向に数人の斧や弓矢を番えた盗賊らしい人達が・・・。
冒険者の方々も負けじと応戦しますが、圧倒的に人数で不利だったのか瞬く間に私を残して全滅してしまいました。
私と一緒に馬車に乗り込んでいた幼馴染はというと、冒険者と盗賊が争い始めて直ぐに馬車を飛び降りて来た道を走って逃げていきました。
どうせなら私を連れて魔法学園のほうに逃げればいいのに・・・。
「あとは嬢ちゃんだけだぜ? 殺されたくなかったら大人しく金をだしな!」
「見て分からないの? 私はお金なんか持ってないわよ。」
「なんだと!? この斧が眼に入らないのか?」
「無いものは無いのよ。」
「しょうがねえな、こうなったら嬢ちゃんを売って・・・」
周りの盗賊たちもゲヘヘヘヘと私を見て厭らしい笑みを浮かべていました。
『もう駄目か』と思っていたとき、二度目の天の救いが現れたのだった。
「そこまでだ!」
盗賊が私を捕まえようと手を伸ばしてきたその時、1人の剣を持った方が現れました。
「なんだテメエは!? 正義の味方気取りか?たった一人で何が出来る!!」
盗賊は私から突如現れた御方に向き直り、厭らしい笑みを浮かべていた盗賊も武器を持ち直して臨戦態勢を整えていました。
素人目にも分かる剣を持った御方は1人、されど盗賊は30人明らかに分が悪すぎます。
「テメエみたいな奴一人で此れだけの人数相手に勝てるとでも思っているのか?とんだ笑い種だぜ!」
「何処かで聞いたような台詞だが、遺言はそれだけか?」
「舐めやがって。 てめえら殺っちまえ!」
定番とも言うべき会話がなされた直後、一斉に盗賊たちは襲い掛かっていきました。
私は『あの方も冒険者の方々と同じ様に・・・』と考えていましたが、予想に反し盗賊たちは次々と地面に倒れ伏していきました。 そして残るは私を脅してきた盗賊の親分ただ1人。
「残るはお前だけだが、命乞いでもするか?」
「た、助けてくれ! どうか命だけは・・・。」
「無様だな。何処へなりとも行くがいい。 その代わり、2度と俺の前に姿を見せるな!!」
襲った相手に命乞いなんて確かに無様ですね。 でも其れを助ける方も優しすぎます。
どうやら地面に倒れている盗賊の方々も亡くなってはいないらしく、苦しげな声が聞えています。
そして盗賊の相手をしていた方が私に話しかけようと身体の向きを変えた瞬間、御腹からナイフが突き出していました。
「とんだ甘ちゃんだな。あんな芝居に引っかかりやがって!」
「あぁーーー!? なんて卑怯な真似を。 命を助けてくれた相手に襲い掛かるなんて・・・。」
「ウルセエ!どんな状況でも最後には勝てばいいんだよ! そんな事より自分の心配をしたほうが良いんじゃねえか? 助けに来た男はこの通・・・!?」
助けに来てくれた方は何事も無かったかのように胸からナイフを引き抜き盗賊の背中に刺していました。
普通は身体を貫通するほど刺さっていれば抜いた途端に出血多量で死ぬと思うのですが・・・。
「お前のナイフだろ?返すぜ」
「てめえ、何で生きていやがる!? 確かに急所を刺した筈だ・・・。」
盗賊は其れだけを言うと刺された場所から夥しい血を噴出して地面に倒れてしまいました。
「お嬢ちゃん、怪我は無かったか?」
「私は隠れてたので大丈夫ですが、貴方こそ背中を刺されたのに平気なんですか!?」
「ん? ああ、瞬時に回復魔法を掛けたからな。」
回復魔法ということは魔法学園を卒業したての方でしょうか?
その後色々な話しをして学園まで護衛してもらう事にしました。
先程盗賊にはお金を持ってないと言ったのですが、両親がなけなしに持たせてくれたお金を報酬に渡そうとしましたが、『道すがらだから』といって受け取って貰えませんでした。
私も『其れだと申し訳ない』と言ったところ、この辺りの地理と火山が国境になっている事を説明いたしました。
話しに寄れば魔法学園のことも知らないみたいで説明に困ってしまいました。
それからも世間話や周辺に関する会話をしながら約1時間後に魔法学園に到着いたしました。
「到着しましたね。ありがとうございました、ミコトさん」
「護衛の必要は無かったみたいだな。」
「そんな事ありませんよ。 命を救われたのは確かですし・・・。」
私は大袈裟すぎるほどに会話の途中で“ミコト”と名乗った方に頭を下げ魔法学園に入りました。
学園内の人に聞いた話では入園式まで残り5分を切っていたとの話しでかなり危なかったです。
私は受付の人に『入学許可証』が2枚入った封筒を差し出して入園式が行なわれるという講堂に全速力で走っていきました。
「変ねえ・・・あの娘1人なのに入学許可証が2枚あるわ。 何処かで道に迷ってるのかしら ん?誰か来たみたいね。
さては彼女と一緒に構内に入ったはいいけど何処にいけば良いか分からなくなった子ね」
「すいませ~ん!ちょっと聞きたい事があるんですが?」
その後、学園長と紹介された髭の長い御爺さんの話が1時間近く続き漸くクラス決めの魔力検査が行われる事になりました。
私も出口近くに佇んでいた所為か真っ先に魔力検査を受ける事が出来ました。
『どうせ魔力なんて無いだろうからIクラスだろうな』と思っていると、なんと魔力値5万1千でSクラスになってしまいました。 信じられないくらい吃驚しました。
その後、学園内で道に迷いながらSクラスの教室に辿りつくと其処には8人静かに座ってました。
『やっぱり最高クラスのSだから人数が少ないんだな』と思っていると教師と思われる1人の女性が教室に入ってきました。 クラスの話し声を聞いていると理事長先生との事でした。
そんな事よりも私が吃驚したのは何故か理事長先生と一緒に教室に入ってきた私を此処まで護衛してくださったミコトさんの姿・・・。
私は咄嗟にミコトさんの人差し指で指差し心の中でこう言ってしまいました。
『なんでミコトさんが此処にいるのですかーーーー!?』
前書きにも書きましたが色々と書きたいことが多くなり、これでも大分省いた方ですが4000文字近くに膨れ上がってしまいました。
マリアが盗賊に襲われた経緯とミコトが何故魔法学園に入学する事になってしまったのかという事を閑話で御紹介いたしました。