第46話 新たな異世界へ
この話で第1部が終了します。
討伐から戻ってきてローラとシルヴィアの前で魔法を披露した俺だったが、驚かれたのは魔法の事ではなくグラシャラボラスを討伐してきた事実だった。
散々質問攻めにされた数時間後、ようやく騒ぎが収まってきた。
「そ、それでは報酬をお渡ししますね。 過去最大の金額になりますね・・・。」
「そりゃあSSを4体にSSSを1体だもんねぇ。」
「ゴホン!では発表しますね・・・。まず、リザードマンが金貨25枚にアークデーモンが金貨20枚、キメイラが同じく金貨20枚とワイバーンが金貨17枚とグラシャラボラスが白金貨2枚です。」
「合計で白金貨2枚と金貨82枚か・・・。」
「更にミコトさんはSSランクに昇格になりました。おめでとうございます」
ギルドから報酬が払われた直後、次の世界の準備をするため預けてあったお金を全ておろし、ポケットに仕舞った。
此れで俺の全財産は白金貨2枚と金貨73枚と銀貨9枚に銅貨1枚か・・・。
あとはこの金を使って、向こうの世界で高く買い取りしてくれそうな物を買って旅立つだけだな。
「じゃローラにシルヴィア、さっきも言ったけど此処での事は他言無用で頼むぞ?」
「分かりました。」
「近衛騎士の名に掛けて誰にも喋らないと誓うわ!」
俺はそれだけを言うと、街中にある高価な魔道具の店や宝石店を回ることにした。
(ルゥ、俺の目だけじゃ贋物や安物を買わされる恐れがあるからな、協力してもらうぞ?)
(お任せ下さい!魔道具や宝石の類には高価なものほど、魔力が内蔵されてますから魔力を検知する事により贋物とか安物とかが分かりますから。)
俺はルゥに協力を求めると、少し怪しげな感じのする宝石店に足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ! 恋人の方への贈り物でしょうか?」
「そうだ、この店にある一番高価な物を見せてくれ。」
「畏まりました。暫くお待ち下さい」
店員が店の奥へと消えてから数分後、手には数多くの宝石が施された腕輪や首飾りなどが載っていた。
「此方はいかがでしょうか? かの有名な宝石商が作り上げたと言われる一品物で御座います。」
(ルゥ、どうだ? コイツの言っている事は正しいか?)
(これはまた見事な・・・。)
(見事な?)
(贋物です。他の装飾品に至っても、少したりとも魔力が感じられません。)
やっぱりか、店員の作り笑いな顔だけでも怪しいと思って居たんだよな。
(この店の中に本物はあるか?)
(えっと、少し待ってくださいね・・・。)
俺が怪しまれないようにと品定めを行っていた頃、ルゥが意識を集中しだしてから数分が経過した。
(マスター、お待たせしました!この店の中にあるのは全て贋物です。どれも価値は全くと言っていいほどありません)
(そうか・・・。別の店に行くぞ。)
「お客様、お決まりでしょうか?」
「いや此処に俺の求める品物は無い!店主、邪魔したな。」
「またのご利用をお待ちしております。」
俺が店を出て道路に出ようとした時、後から店主の舌打ちが聞こえてきた。
「次はどの店にしようかな・・・。」
と見回してみると大通りに煌びやかな外見の庶民には近寄りがたい雰囲気の店が建っていた。
「少し入りにくいが、行くだけ行ってみようか。」
周りから視線を感じながらも店内に入ると光り輝く宝石や指輪・腕輪などが壁一面に並べられていた。
「へいらっしゃい! 此処は魔道具の店だよ。兄さんみたいな剣士には合わないんじゃないかな?」
店に入ると煌びやかな外観には似合わない、まるで寿司屋に入ったかのような錯覚さえ覚えた。
(ルゥ今度はどうだ、魔力を感じるか?)
(はい!そこら中から高魔力を感じることが出来ます。この店は当たりですね)
「兄さん如何した?」
「いや、かなり強い魔力を感じたからな・・・。少し困惑したんだよ」
「お?あんた魔術師か、見かけによらねえな!じっくり見てってくれよな。」
数十分後、ルゥと相談しながら壁に掛けられていた腕輪や指輪など十数点を白金貨2枚と金貨70枚で購入して店を後にした。
「これで残るは食料品だけだな。残りは金貨3枚に銀貨9枚と銅貨1枚か。」
食料品店で思い出したのは修行に向かう前に立ち寄った食料品店で、森での食事が美味かったため其処に決める事にした。
「いらっしゃいませぇ~~~。」
「これだけの金で買えるだけの肉と果物が欲しいんだけど?」
俺は金貨3枚と銀貨9枚を店員に見せると、返って来た言葉は驚くべき言葉だった。
「お客さん。 金貨3枚なら、この店の品物を全部買ってもお釣りが来ますよ!?」
「それじゃあ全部くれ。」
「わ、分かりました! 少し待っててくだしゃい。」
店員はこのような事は一度も無かったのか、驚いて噛みながら食料品を袋に詰めていた。
「お釣りの銀貨20枚です。 ありがとうございましたーーー!またのご利用をお待ちしています。」
俺が大きな袋を持って店の外へ出ると、商品がなくなった為かイソイソと店じまいを始めていた。
道具を買って、大通りへと出たときに通行人の話を聞いていると、数週間前にレグリスの王や騎士達が皆殺しにされたという話を耳にした。
話しの内容が気になり聞き耳を立てていると、地面に人型の焦げ跡が幾つもあっただけで目に見える死体は確認できなかったという話だった。
レグリスが気になりながらも、あの国の事だから内乱でも起こって滅びたんだと思い、俺は一旦宿屋の自分の部屋へと向かい、何とか部屋の扉から中に食料品の詰まった袋を部屋の中に入れると直ぐに異次元空間を開いて食料品と魔道具を一緒に収納した。
(あとは銀貨29枚か・・・。ハイドさんの店に行ってみようかな)
(そうですねぇ~~、マスターは怪我をしませんが鎧を買われたらいかがですか?)
(そうだな、最初に買った軽鎧も色々とボロボロになっているしな。うん、そうしよう。)
別段急ぐ事も無いのだが、レインに出かけると言いハイドさんの店へと向かった。
「おぅミコトじゃねえか、今日はどうしたんだ?」
「討伐依頼に出ようかと思って鎧を探しているんですが、銀貨29枚で買えるような鎧はありますか?」
「う~ん、壁に掛かってる黒い鎧なら銀貨25枚なんだが・・・少し重いがいいか?」
鎧に近づいて持ってみるが能力のためか全然重さが感じることは無く簡単に持ち上げる事が出来た。
「お!流石だな、買うかい?」
俺は鎧の近くに置いてある銀貨4枚の投げナイフ2本と一緒に購入し金を使いきった。
「ミコト、何処に行くか知らねえが気をつけていけよ!!」
「はい、ありがとうございました。」
「それはコッチの台詞だ!」
ハイドさんと笑いあいながら武器屋をあとにして宿屋へと向かい、この世界最後の食事を終えて部屋へと戻っていった。
俺は部屋で身支度を整えると、魔力を解放し光の精霊に貰った腕輪を浮かび上がらせる。
更に頭の中で光の精霊に呼びかけながら、意識を腕輪に集中していく・・・。
(主様? 如何か為されましたか?)
(次の世界に旅立つ準備が出来たんだけど、直ぐに送れるか?)
(それは可能ですが、もう戻っては来られませんよ? やり残した事は御座いませんか?)
(少しレグリスの事が気になるが・・・俺は大丈夫だ。ルゥはどうだ?)
(私はマスターに仕える精霊です。思い残す事は御座いません)
(死にに行くんじゃないんだから。準備は完了だ、何時でもいいぞ)
(では、気を楽にしてお待ち下さい。)
暫くすると俺の体が光り輝き、次の瞬間には俺の姿は掻き消えていた。
俺がその世界に存在し、冒険していたという事実とともに・・・。
俺の存在はエミリアやシルヴィア、ローラ、レイン、ハイドさんの頭の中から何も無かったかのように消え失せ、光は俺の身体を新たな世界へと誘い始めた。
前書きにも書いたとおり、1部目はこれで終了と致します。
レグリスの事が気になる読者の方々も数多く、いらっしゃると思いますが物語の終盤に於いて再登場する予定でいますので首を長くしてお待ち下さい。
ちなみに物語と致しましては、やっと序盤の最初の方が終了した位ですので『異世界を渡りし者』を此れからも長いお付き合いを宜しくお願いいたします。
序に・・・予定外の事が起こらない限り、次の更新は3日後を予定しております。