第44話 魔族を統べし者 <後編>
巨大な魔物の従者として現れたキメイラとワイバーンを苦も無く倒した俺はこの世界、最後の戦いの締めくくりとしてこの場に立っていた。
(まぁ俺が不死身でなけりゃ苦戦したんだろうがな・・・。)
(マスターは無謀すぎます!!)
魔物の方を見ると先程まで部下の死を嘆いていたかと思えば武器である棍棒を構え、戦いの準備を行っていた。
「我が直接、手を下すに相応しい相手と見做してオヌシの名を聞いておこうか・・・。」
「俺はミコト。ミネフジ=ミコトだ!」
「我の名はグラシャラボラス、破壊神グラシャラボラスだ! いざ尋常に勝負」
「お互い悔いの残さない戦いにしようか。」
俺は魔物の持つ棍棒(というか樹木?)と打ち合おうかとも考えたが、嫌な予感がし一歩退いた・・・。
すると俺の立っていた場所はクレパスのような巨大な溝が長さ5mに亘って出来ていた。
「かわしたか。打ち合ってさえいれば、剣もろとも砕けたというのに。」
「なんて奴だ。ルゥの剣では太刀打ちできないな・・・。」
俺は宿の部屋にて異次元空間にしまった大剣の事を思い出し、咄嗟に扉を開き大剣を取り出した。
「ぬっ? 貴様、何処から剣を取り出した?」
「何処だっていいだろ? さぁ勝負の再開といこうか!」
「小癪な奴め!」
俺は魔物と打ち合うこと数時間、辺りが夕焼けの色に染まりかけてきた頃ようやく進展が見えてきた。
「ぬぅ、我の武器が砕かれるとは・・・。」
「お前もな・・・俺の剣も、たった一度の戦闘で破壊寸前だ!」
「此処まで良く持ちこたえたが、武器がそれではオヌシに勝ち目などあるまいて。」
「それはどうかな? 俺には奥の手があるからな。」
「それは面白い! 我も武器に頼らずに我が拳で相手、仕ろう!!」
俺の切り札・・・奥の手といっても魔力しかないんだが。コイツに効くかどうか。
(試してみなけりゃ、しょうがねえよな。 クラス50!)
俺は戦闘で魔力を使った事がないため、どれほどの魔力を放出すれば良いか分からずに空間魔術を使ったときの魔力量を一気に引き出した。
「これは桁外れな魔力!? 貴様、魔法も使えるのか!!」
「ああ、お前とは剣で決着付けたかったが、そうも言ってられない状況だからな。」
今の今まで余裕の表情を見せていたが、俺が魔力を解放した途端に魔物の表情が一転した。
これはもしや・・・。コイツの弱点は魔法か?
魔物の顔色を伺おうと表情を見るが、冷や汗とも取れる水滴が顔一面に見て取れた。
(試してみるか・・・。)
俺は掌を魔物の胴体に向けて火の魔術である『ファイア』を唱えた。
クラス1のファイアは掌から直径3cmくらいの火球が出ただけだったが、単純計算で50倍の魔力を乗せた火の魔術を唱えたらどうなるか。
答えは炎の竜巻ともいえる高威力な火炎が魔物を飲み込み、魔物の身体は火に包まれた。
「ギイエェェェェーーーー!!」
炎に耐え切れなかったのかゴロゴロと地面を転がるが、そんな事では火が消える事はなかった。
1時間ほどが経過した頃には魔物の強靭な肉体は影も形もなく、黒い消し炭状態になっていた。
直立不動状態で立っていた黒い炭の塊はバランスを崩して地面に倒れこむと粉々に砕け散り、突風によって地面に骨格を残したまま、炭は風に乗って空高くに舞い上がっていった。
「勝った・・・。あの死闘はなんだったかのように。」
その後、持っていた大剣は地面に落とすと同時に粉々に砕け散ってしまった。
(あれほどの大剣であっても、マスターの力には耐えられなかったんですね。)
(ルゥ・・・。)
もし、この戦いでルゥを使っていたら如何なっていただろうか。
(それじゃあマルベリアに帰るか!)
(マスター、証明部位を取り忘れていますよ?)
(おっと、そうだったな。ルゥ、キメイラとワイバーンの証明部位はどれだ?)
(キメイラは翼の一部、ワイバーンは口元に生えている鋭利な犬歯です。)
(分かった。)
俺はそういうと剣を引き抜いてキメイラの翼を切り取り、ワイバーンの犬歯を力任せに圧し折った。
(ルゥ、グラシャラボラスの部位は?)
(指先に嵌めている指輪なんですが、先程の炎で溶けてないか心配です。)
俺は骨だけになってしまった魔物の指先部分の骨格を念入りに調べると、表面が溶け掛かった指輪を発見する事が出来た。
(少し溶けてしまっているが、ローラに見せれば判別できるだろうな。)
(それは良いんですが、言い訳を考えていますか?)
(言い訳? 何のことだ?)
(指輪が如何してそんな状態になったかという説明です。きっと大騒ぎになりますよ?)
(それはそうだが、最後だし構わないだろ? 光の精霊の話では記憶は残らないって話しだし・・・。)
(でもギルドで報酬を貰った後、食料品や次の世界で高く売れるような道具を買うために数日間は街に滞在する事になるのですよ!?)
(それは瞑目だった・・・。どうしようか?)
(頑張ってください、マスター!)
(そんな~~~)
(次からは後先を考えて魔法を使いましょうね。氷や雷属性なら少しはマシだったかもしれませんね)
俺は必死に言い訳を考えながら岩山を後にし、マルベリアへと続く街道を時間をかけてゆっくりと歩いていった。
ちなみに色々な証明部位は全て異次元空間の倉庫へと収納し、手には何も持ってはいなかった。
予定では残り2話で次の世界へと移動するつもりです。