第39話 試験的な魔法
お待たせいたしました。
少し魔法の威力設定を変更しました。
修行を行っていた森からマルベリアに戻った俺は一目散に宿屋へと向かった。
理由はシルヴィアが訪ねてくるまで部屋でゆっくり休むためと美味い食事、さらには誰も入ってこない自分だけの空間での魔法の訓練をしたいからだ。
森からマルベリアに戻る途中でルゥに聞いた話では空間呪文で作り上げた部屋なら膨大な魔力を発生させたとしても扉が閉まっている限り、魔力は外には漏れず異空間の扉も作った本人にしか認識されないという利点を聞いた為だった。
宿屋に到着した俺は真っ先に酒場へと向かい、御飯を要求した。
「ミコト!急に帰って来たと思ったら挨拶も抜きにして行き成り『御飯下さい!』かい?」
「この5日間、干からびた肉と果物しか喰ってなかったから、暖かくて美味しい料理が食べれるのを心待ちにしていたんですよ。」
「『美味しい料理』か。お世辞でも嬉しいよ。待ってな、大至急作ってやるよ!」
「できれば5人前くらいの量でお願いします。」
「分かってるよ。ミコトは大食漢だったからね、大人しく座って待ってな。」
十数分後、とても一人で食べる量とは思えないくらいの料理が、テーブル2基を繋げた台に所狭しと並べられた。
「この前も言ったけど、食べ物を粗末にする行為だけは何があっても許さないからね。」
「分かってますよ~~~それじゃ、頂きまーーす!」
俺が料理を味わいながら食べていた時、その料理の山を見ていた酒場の常連達はというと・・・。
「レインの姐さん、幾らなんでも兄ちゃん一人にこの量は無理じゃねえのか?」
「そうだ、俺たち4人がかりでも食べきれるかどうかの料理じゃねえか!?」
「ミコトにとっちゃ、あのくらいの量で普通なのさ。ほら、見てみなよ・・・既に殆んどがミコトの胃の中さ。」
まだ食べ始めてから30分も経過していないが、某海賊アニメの主人公かのごとく瞬く間にテーブルの上の料理が俺の口の中へと吸い込まれていく。
『変だな、俺は大食いでも何でもないはずなのに、この前の食事でも腹痛はおろか満腹感さえなかったような・・・。』
食事を始めて40分が経過した頃、全ての料理を食べ終わりレインさんに食事代として銅貨30枚を手渡した俺は宿の自室へとゆっくり歩いていった。
あとに残るは俺の食いっぷりに笑顔のレインさんと手に各々の酒の入ったグラスを持って固まっている常連客の姿と今にも倒れそうな料理皿によるテーブルの上の建築物だけだった。
(あいかわらずマスターは凄い大食いですね。 本来マスターは不老不死なため、食べなくても餓死するなんて事はありえない筈なんですが・・・。)
(餓死するしないの問題じゃなく、純粋に食べる楽しみを味わいたいだけなんだが?)
(それでも少しは手加減しないと、周囲の方達から奇異の目で見られてましたよ?)
(それはもう良いから、食後の運動として訓練しないとな。それじゃクラスごじゅ・・・)
癖になってしまったのか、異空間を作ったときと同じ魔力を放出させて扉を開こうと思ったが、ルゥに止められてしまった。
(待ってください! 森でも言いましたが一度異空間を作ってしまえば、最弱の魔力でも空間の入口を開く事が可能ですので、マスターで言えばクラス1でも十分です!!クラス50なんて使ったら大騒ぎになります。)
(そういやそうだったな・・。それじゃあ、クラス1!)
俺は心の中でダイヤルが1目盛り動くのを体感で確認し、手を開いて空間の扉を開く呪文を口にした。
「ルーム!!」
呪文を口にした瞬間、森で見たのと同じ扉が空中に出現し、触れてもいないのに扉が開いていった。
扉が開ききったあと、俺が空間内へ入ると音もなく扉が閉まった。
(これで外部からこの空間を認識できなくなり、この中で魔力を放出させても感知される事はありません。さらにこの空間自体もマスターの膨大な魔力で作られているため、壊れる事はありません。)
俺はルゥに説明を聞くと、森では試す事が出来なかった火と雷属性の魔法を試し打ちしてみる事にした。
(まずは・・・。クラス1!)
「ファイア!」
俺が呪文を唱えると最下級の火属性魔法でありながら、直径3cmぐらいのピンポン玉のような大きさの火球が壁に向かって飛んでいった。 壁に魔法が直撃したがルゥの言ったとおり、壁には傷はおろか焼跡すら付いてはいなかった。
「続けて、サンダー!」
唱えた直後、雷球が掌に出来上がり其れを壁に向かって投げつけたところ、半径1mに亘って電撃の渦が出来上がった。
(これで全種類の攻撃魔法を試し打ちしたわけだが、もう少し教えて欲しい魔法がある。)
(もう少しですか?しかし属性魔法はこれで全部の筈ですが?)
(教えて欲しいのは回復魔法と移動魔法だ。)
(森でも説明したとは思いますがマスターには必要ないものだと思われますが・・・。)
(いや、俺は必要ないが目の前で苦しんでいる人を助けたり、何時かの護衛依頼の時のように疑惑を持たれては敵わないからな。言うなれば言い訳用に憶えておきたいと言うことだな。)
(そういうことなら分かりました。)
その後ルゥの教えの元、怪我を治療する魔法である『ヒール』、毒を除去する『ポイゾル』、移動補助魔法『スレイプ』の3つの魔法を新たに使えることとなった。
俺が怪我を負わないことや、移動補助魔法を使わなくとも異常なほどの身体能力があることから、実行する事ができないため、効果を目で見る事は出来なかったが。
(魔法の練習は良いとして少し気になることがあるんだが・・・。)
(気になる事?なんでしょうかマスター?)
(魔法なんだが、一度に複数の属性魔法は使う事が出来ないのか?)
(それは実例がありませんので何ともいえません・・・。だいいち属性魔法は一般魔術師一人に付き2種類、多くても3種類しか扱う事ができませんので全種類使用できるマスターは正真正銘な規格外と言わざるをえません。)
(こんなところにまで規格外かよ・・・。実例がないなら試してみようか!)
俺は両手を前方へと突き出し、右手で火、左手で雷の魔法を唱えたが。
実際にはファイアが最初に打ち出され、間髪おかずにサンダーが放たれるといった結果に終わった。
(やっぱり無理なのかな?うまくいけば、新しい属性魔法が出来るかもと思ったんだが)
(新しい属性ですか?)
(ああ、火属性と雷属性を組み合わせて爆発系呪文が出来ないかな~っと。)
(それは新しい試みですね。そのような呪文は聞いた事がありませんが・・・。)
(そうか。ん?そろそろ良い時間だな、部屋に戻って寝る事にしようか。)
(ではマスター、魔力を使って部屋の扉を開閉してください。)
俺が魔力を放出させたまま扉の取っ手に手を触れると音もなく扉が開き、元の宿屋の自室へと戻ってきた。部屋を作った序にと一回も使わずに壁に立て掛けてある大剣を空間に収納した。
(それじゃあ寝るか。オヤスミ、ルゥ。)
(おやすみなさいマスター。)
こうして俺は夢の中へと旅立ったが、夢の中でとある存在と出会う事など知る由もなかった・・・。
次話から内容に変化が訪れます。
調子がよければ28日に更新する事が出来ると思います。