第36話 魔法の実践
魔力制御の朝、俺は朝食を摂りながらルゥに気になる事を聞いてみる事にした。
モシャモシャモシャ・・・バリバリ・・・
(マスター、右手に実っている赤い実も美味しいですよ?)
「これか? どれどれ・・・。」
俺はルゥに指摘された果物を手に取ると一息に齧りついた。
「うん、少し変わった味だが甘酸っぱくて瑞々しい果物だな。」
最後に湧き水で喉を潤して食事を終了させる。
ゴクゴクゴクゴクッ、プハァー!!
(そういえば魔力が上がれば精霊と会話できるって言ってたが、ルゥ以外の声は聞こえないんだが?)
(この森は魔物出現率が多いため精霊は安心して棲めないので、此処には精霊は居ません。 居るとすれば、上位精霊である水の精霊は清らかな澄み切った湖に、火の精霊は炎が猛々しく燃え上がる火山といった様に其々の性質が強い場所に生息しています。下級精霊の木の精霊や花の精霊も居る事は居ますが、魔物の影響が強すぎて此処にはいません。)
(それじゃあ此処に居るのはルゥと俺と魔物だけという訳か・・・。)
(ところでマスター、気づいていますか?)
(ルゥ?如何したんだ改まって。)
(その様子だと気が付いてませんね。昨日からマスターと普通に会話できている事を)
(普通に会話?いつもルゥと話してるだろ?どうしたんだ。)
(修行1日目は魔力に目覚めてなかったため剣の柄を握った状態で会話してましたが、昨日から剣の柄に触ってもいないのに会話できてますよね?)
無意識とは恐ろしいものでルゥが宿る剣は鞘に入れたまま腰にぶら提げ、一瞬たりとも剣に触っても居ないのに、普通に会話していた事をルゥに指摘されるまで気づかなかった。
(本当だ・・・。剣の柄に触れてもいないのに、ルゥと会話できている。)
(私が前に言った『魔力があれば精霊と会話できる』と言った事を身を持って体感しましたね。)
(そうなると今からず~っと、ルゥには隠し事は出来ないという事か!?)
(本当なら隠し事なんてして欲しくないのですが・・・。もし、考えを読まれたくないのであれば剣から100m以上離れてくだされば私とは会話は出来なくなります。)
(それなら会話出来ないだろうが、ルゥがいないなんて考えられないな。)
(ありがとうございます。)
ルゥとの会話で朝食後の休憩が終わった俺は早速、修行を開始する事にした。
それにしても剣の柄を持たなくてもルゥと話せるとは結構、楽だよな。
(それじゃあ、腹も膨れて食休憩も終わったから最後の修行を始めようか!)
(そうですね。最後は魔法の使い方についてです)
(おお、やっと夢だった魔法が使えるのか!?)
(それでは此れから説明いたしますが、私が良いと言うまで絶対に魔法は使わないで下さいね?)
(意味が分からないが、とりあえず分かった。)
(曖昧な返事ですね・・・。とりあえずは魔法の説明からです。)
(ふむふむ。)
(一般的な魔法には火・水・氷・雷・風・土・光・闇・回復・移動・空間の11種類があります。 色々な属性が存在し魔法の呪文も大量にあると考えがちですが火・水・氷・雷・風・土の6属性の場合は各種1個づつの呪文しか存在しません。)
(でも魔法には初級・中級・上級の呪文が付き物じゃないのか?)
(この世界の魔法は呪文を唱える時に込める魔力の量で威力が異なります。例えば火の魔法であるファイアーなどは魔力を極小にすれば焚火のときの種火になりますし、マスターの場合、最大限に魔力を込めますと、この森ぐらいなら一瞬で焼き尽くすくらいの威力になります。)
冗談じゃないな、下手にキレてしまおうものなら街一つは確実に吹っ飛ぶな・・・。
(じゃあ、俺が今からする修行は魔力の調節か?)
(その通りです。ではまずはマスターの身体の中にある栓を少しだけ緩めて魔力を出してみましょう)
(どうやって緩めればいいんだ?)
(マスターが心の中で、魔力の蛇口を少しだけ開のほうに回せば魔力は放出します。)
俺はルゥに言われたとおり心の中で少し蛇口を緩めて、小出しで水が流れ出るようなイメージをした。
(マスター上手ですね。そのくらいが下級魔法の魔力です。では、その魔力の量を維持したまま湖の方に手を向けて『アイシング』と唱えてください。)
(わかった。)
俺はやっと魔法を使えると思い、気が緩んだまま魔法を唱えようとしたが・・・。
「アイシ(マスター止まって下さい!!)・・・!?」
あと2言を言おうとして何故かルゥに詠唱を止められてしまった。
(はぁ~間に合った~)
(どうしたルゥ?なんで止めたんだ!?)
(マスター、気を緩めたと同時に魔力の栓も緩めましたね!?
今の魔力の量で魔法を唱えたら、この森は氷漬けの状態になってしまいますよ?)
ルゥに言われ魔力の流れを感じ取ると、栓が壊れたような状態で大量の魔力が流れ出ていた。
(マスター幾ら、やっと魔法が使えるからって気と一緒に魔力の栓まで緩めては駄目です!!)
俺は水道の蛇口のイメージから数え切れないくらいの目盛りが刻んであるダイヤル式の物を想像した。
ついでに心の中でダイヤルを言語認識に設定して俺が例えば『1』とか『2』とかと心の中で思わない限り、ダイヤルが動かないように設定した。
(マスター・・・変わったものを想像しましたね。)
(これなら緩まなくていいだろ?)
(それでは先程の量と同じくらいの魔力を放出してください。)
(クラス1!)
(だいぶ少ないですね・・・。もう少しだけ多く出してください)
(それじゃあ、クラス5!)
(それぐらいが妥当ですね。では先程と同じ魔法を唱えてみましょうか)
俺は右手を垂直に湖の方向に向けて呪文を唱えた。
「アイシング!」
呪文を唱えた直後、右手から数cm離れた場所に氷柱の様な物質が出来上がり、湖の向こう岸に着水。湖の一角に氷の層が出来上がったが直ぐに消えてなくなってしまった。
(マスター、成功しましたね。 此れが最下級の『アイシング』です。)
(今・・・一瞬、手から氷柱が飛び出して。)
(それが魔法なんです。とりあえず、もう少し練習したら修行完了として街に戻るとしましょう。)
(分かった。)
俺は其れから数時間ほど色々な魔法を使って森に色々な変化を齎して最後の森での眠りについた。