第30話 護衛依頼⑦ 説明
物語の内容とともにサブタイトルにも悩みました。
翌朝、馬車の中で目を覚ました賊の頭は俺の顔を見るなり、再度眠りに堕ちた。
「ミコトさん・・・・・・」
「此れは俺が悪いのか?」
「確実にミコトのせいよ!ほんの数時間前に自分を半殺し以上の目に合わせた男が目の前に居たら、誰であっても一目散に逃げるか気を失うかしかないでしょうが!!」
フィル達はいつ目覚めても良い様にと、光を全く通さない黒い布で男に目隠しをしていた。
男は思わず手を合わせたくなるほどに起きる気配がなく、馬車はマルベリアに向けて走り始めた。
「さっき脈と心音を確認しましたから、暫くすれば目が醒めるでしょう。それまでの間にミコトさんに聞いておきたい事があるのですが宜しいでしょうか?」
「答えられる事なら別に構わないが・・・。」
「では1つめの質問です。私達が裏道に行く前にミコトさんが倒した賊は何人くらいでしたか?」
「最初は10人くらいだったんだが、その男の合図で続々と集まり始め最終的には約200人になったんじゃないかな。」
「それでは2つめの質問ですが、その200人の賊のうち殺害したのは何人ですか?」
「いや、一人も殺しては居ない。腕や脚の骨を砕いて戦闘意欲を削いだだけだったからな。」
「3つめの質問です。私達がミコトを止めに入った瞬間、周囲にはその男以外に誰も居ませんでしたがミコトさんが打ち倒した200人は何処に行ったのですか?」
「すまないが其れは俺も知らない気が付いたら目の前にはその男しか居なかったんだ。」
「それでは最後の質問なんですが、ミコトさんはこの男に何をしたんですか?」
この質問を聞いて今まで興味を示さずに御者席でグレイと話していたフィルが突然、荷台へと戻ってきた。
「その話は私も興味ある。納得の行く説明を求めるわ!普段、温厚なミコトがあそこまで完膚なきまで相手を痛めつけたんだから、それなりの理由があるわよね?」
「俺も興味があるな。」
グレイは馬のたずなを引きながら顔だけを此方に向けて、会話に参加してきた。
「話したいのは山々なんだけど、男が発した言葉を聞いた途端に意識がなくなって気が付いたときにはグレイに取り押さえられていたんだ。」
「あの男はミコトさんに何を言ったのですか?」
「確か・・・『220もの部下をたった一人で叩きのめし本人は無傷だと!? テメエはバケモノか!!』という台詞の後に意識がなくなったから『バケモノ』が禁句だったんじゃないかな?」
「『バケモノ』ですか?」
「シルヴィア様!?今言ったらまたミコトが!!」
「なんだグレイ?俺がどうしたっていうんだ?」
「何にも起こりませんね・・・。」
シルヴィアに禁句を言われたにも拘らず、俺は意識を失ってはいないと言う事は何か別の条件が必要になるのだろうか?
「そういえば、あの時も同じ様な事が起きたな。」
「その話、聞かせてもらえませんか?」
「ん?ああ、俺がマルベリアに到着してから散歩がてら街中を散歩していて裏通りに差し掛かったときに裏通りを牛耳る盗賊の頭って男と4人の部下って奴と言い争いになってな、最終的には殴り合いの喧嘩になって4人を叩きのめし、頭に手を出そうとしたところで『バケモノ』呼ばわりされて意識を失い、暫くして意識を取り戻すと両腕両足の骨が砕けた頭が尿を垂れ流しながら必死に俺に許しを請うている姿が目の前にあって俺が倒した筈の4人の姿は何処にもなかったな・・・。」
「なるほど、あの時の事件はミコトが拘ってたんだね。」
「此れで質問は終わりに致します。込み入った話を聞いて申し訳ありませんでした。」
「ミコト、其処までするなんて容赦ないんだね!」
「全くだ。俺もミコトとは喧嘩したくはないな。」
「貴方達!不謹慎ですよ。 ミコトさん、フィルさんとグレイさんには後でキツイ仕置きをしておきますので、この場は私の顔に免じて許してください。」
「いや、別に構わないから・・・。」
「ミコト~コイツが目覚めるまで時間掛かりそうだから身体休めててね。」
「でも俺は護衛として雇われたはずだが?」
「魔物は私とグレイで討伐するから大丈夫だよ。」
「分かった。じゃあ休ませて貰うよ」
俺は意識がない間の事が気になったのでルゥに聞いてみる事にした。
裏通りの時とは違い今回はルゥが見ていてくれたはずだと思ったからだ。
(ルゥ、俺が暴れていた時の事を教えてもらいたいんだが?)
(マスター・・・あの時のマスターはまるで別人のように怖かったです。)
(何が起こっていたんだ?)
(あの時、男から『バケモノ』と呼ばれた直後からマスターの魔力の質が変わり人間とは思えないほど膨大な魔力を感じ取りました。)
(膨大な魔力か・・・。俺が回復する時にも魔力が膨大になるだろ?違いはあるのか)
(マスターが回復する時や超人的な身体能力を発揮する時も魔力は膨大するのですが、今回のは少なく見積もっても10倍以上の魔力が感知されました。)
(10倍以上か。)
(あの時のマスターには幾ら話しかけても私の声はマスターには届かず、私は見ているだけになってしまいました。)
(じゃあ、ルゥでも俺を止めることはできないのか。)
(私は身体を持たない、一精霊でしかないのでマスターの補助くらいしか出来ません。)
(いいんだ。ルゥは俺の大切な相棒だ!気にすることはない。)
(マスター・・・。ん?マスター、シルヴィアさんが呼んでいますよ?)
俺は剣の柄から手を離しルゥとの会話を中断した。
「ミコトさん、そろそろ男が目覚め始めています。目が醒めた直後から尋問を始めますのでミコトさんは声を発せずに見守っていてください。」
「分かった。俺は傍観者として此処に居させてもらう。」
「ミコトの声で怯えて気を失っちゃったら元も子もないしね~~」
「全くだ。ワハハハハハ」
「あ・な・た・た・ちーーー!!」
この会話から10分後、男は覚醒しシルヴィア達による尋問が開始された。
かなり無理矢理な展開になってしまいました・・・・・・。