第29話 護衛依頼⑥ 暴走
表側の通りにシルヴィア達が居る事など思いもよらない俺は必死にゴロツキどもの相手をしていた。
ゴロツキの仲間に居ないとは思うが、もしも魔術師が居た場合は不味い事になるので必死にナイフを避けながら一人一人を確実に戦闘不能に追い込んでいった。
戦闘不能とは言っても殺しているのではなく、力任せに腕や足の骨を圧し折り戦闘意欲を削げているだけなのだが何処からともなく人数は増え、言うなればゴロツキ相手に無双している状態だった。
「テメエ等!これだけの人数で掛かって、たった一人仕留める事ができねえのか!?」
「しかし頭・・・。」
「言い訳なんざ聞きたくねえんだよ。 人数不足なら街で暴れてる奴らに召集を掛けろ!!」
頭の一声で五体満足なゴロツキ達は街の四方八方へと散っていった。
(これだけ騒げば、シルヴィア達も気づくよな。)
(不思議なんですが、どうして此れだけの騒ぎなのに街の警備隊が遣って来ないんでしょうか?)
(そうなんだよなぁ~ もしかして警備隊もこいつらとグルだったりして?)
(まさか。それは幾らなんでもありえないでしょう。)
一方その頃、休憩中のシルヴィア達はというと・・・。
「さて休憩しましたし情報収集の続きと行きますか。」
そう思いながら立ち上がろうとした瞬間、町が震えるほどの騒動が起き始めた。
「おい!裏路地で『あいつ等』と喧嘩している奴が居るんだってよ。見に行こうぜ」
「確かかそりゃ?『あいつ等』に敵う奴がこの街に居るのかよ?」
「聞いた話じゃ黒髪の奴らしいぜ。」
「黒髪か、この街の奴じゃねえな。冒険者か?」
「そんな事はどうでもいいだろ? 早く行かないと終わっちまうぜ。」
「いや、それなら逆に近づかないほうがいいだろうな。下手すれば巻き込まれるぞ?」
一般市民と思われる男達はそれ以上、裏通りには近づいて行こうとはせずに広場の中央で押し問答を繰り返していた。
「黒髪の冒険者とはミコトさんの事でしょうね。早くも始めてしまいましたか・・・。」
「でも、これで街の情報収集が遣りやすくなることでしょう。」
さて情報収集に行こうと腰を上げようとした時、隣に座っていた年配の男性が独り言のように呟いた。
「また『あいつ等』が騒いでおるのぉ~困ったもんじゃ・・・。」
「スイマセン御爺さん、『あいつ等』とは何なのですか?」
「あんたら『あいつ等』を知らないという事はこの街の住民ではないのじゃな?」
「はい、遠くマルベリアから商品の仕入れに参りました商人でございます。」
「『あいつ等』とは街の裏通りを我が者顔で牛耳るゴロツキどもの事じゃよ。金を持ってそうなカモを見つけると集団で襲い掛かり金品を強奪するのじゃ。この街の商店も上納金を払わなければ遣っていけない有様じゃ。」
「それで、どの店からも『あいつ等』という言葉が聞こえてきたのか・・・。」
「この街の警備兵は何をしているのですか!?そんな者達を野放しの状態にしているとは?」
「警備兵も『あいつ等』と左程変わりはしないのじゃよ、噂では『あいつ等』と警備兵には繋がりがあるとまで噂されているからのぉ~~」
御爺さんは自分の身など、どうでも良いかのように秘密を暴露してくれた。
「此れがこの街の現状なのですね。此れほどまでに腐っているとは!?
これでは商業都市ではなく犯罪都市ではありませんか。」
「シルバード様・・・。」
一方その頃、裏路地で暴れているミコトはというと・・・。
約200もの人数を瞬く間に叩きのめし、ゴロツキ筆頭の頭に詰め寄っていた。
「残るはお前だけだな!? どうする?命乞いでもしてみるか?」
(マスター言葉が悪人になって来てますよ?)
此処で頭が決して言ってはならない一言をとうとう口にしてしまった・・・。
「220もの部下をたった一人で叩きのめし本人は無傷だと!?テメエはバケモノか?」
「バケモノだと?」
(マスターから異常なほどの魔力を感じます!落ち着いてください!!)
その瞬間、俺の意識は途切れルゥの言葉ですら俺の耳には届かなかった。
一体あれからどれだけの時間が経過したのだろう・・・意識を取り戻すと空は赤くなり始め、倒した筈のゴロツキの姿は既になく、目の前には両腕両足の関節が異常な方向に折れ曲がり地面に突っ伏して達磨状態になり頻りに俺に対して命乞いをしている頭と俺を力づくで取り押さえているグレイの姿があった。
「ドレイク?こんな所で何をしているんだ?」
「ミコト!?ようやく正気に戻ったのか!」
「俺は何をしていたんだ?その男に詰め寄ったまでは憶えているんだが・・・。」
「ミコトさん、憶えていないのですか!?
私達が此処に来た時には、その男に剣で止めを刺そうとしている直前だったため、3人がかりで取り押さえに行ったのですが健闘むなしく、引き剥がされてしまいました。もう駄目だと思ったときにミコトさんが正気に戻られたのですが・・・。」
「もぅミコト酷いよ。私を引き剥がしたと思ったら木に向かって投げつけるんだもん。」
「すまない、全く憶えてないんだ。怪我は無かったかエフィル?」
「それは大丈夫。訓練してるからね」
「シルバード様、この男は如何しますか?マルベリアに連れて帰る事を提案いたしますが・・・。」
「そうですね。エフィルさん、ドレイクさん、この男を縛り上げて馬車に戻りましょう。」
「分かりました。しかし、この状態を見る限りでは縛り上げなくても大丈夫だと思いますが?」
「念のためです。馬車に到着後、エフィルさんに治療してもらおうと考えてますから。」
「そういうことですか、分かりました。男を束縛後、馬車に収容いたします」
「ミコトさんは大丈夫ですか!?エフィルに回復してもらいましょうか?」
「いや大丈夫だ。少しも疲れてはいない」
「そうですか?なら、馬車へと急ぎましょう。現場を見られると厄介でしょうから」
シルヴィアに言われて周囲を確かめると俺達5人の他には誰一人として存在していなかった。
「みんな、ミコトの覇気に恐れて近寄れないんだよ。私達は多少は平気だったけどね。」
「ミコトが正気を取り戻した瞬間に凄まじい覇気は掻き消えたからな、次第に人が集まってくるぞ」
「それならば急ぐとするか。エフィル重いだろ?俺が持つよ。」
俺がエフィルに代わって男を運ぼうとするが、俺を見た瞬間に男は声にならない叫び声を挙げて白目を向いて尿を垂れ流しながら失神してしまった。
「あらら・・・よっぽど怖かったのね、ミコトを見た瞬間に気絶するだなんて。」
結局、小便臭いのが嫌だと駄々を捏ねたエフィルに代わり俺が馬車まで運ぶ事となった。
男が目を覚ましたのは翌朝になってからだったが・・・。