表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界を渡りし者  作者: 山田 隆行
天界編
219/230

第205話 ヴァルキュリアを率いる者

下界へと降りることを事実上禁止され、更に勉強で疲れ果ててしまった俺にガブリエルは天界巡りを提案してくるのだった。


今現在はオーディン神の部下であるヴァルキュリア隊が居るという、男子禁制の訓練場へと足を踏み入れている。

一部の者しか開けられないという、特殊な扉を潜って歩くこと数分後、通路の奥から剣と剣とが打ち合っているような音が聞こえてきた。


「どうやら彼女たちは今日も訓練にいそしんでいるようですね。自身の力に溺れることなく殊勝なことです」

「ヴァルキュリア隊というのはそれほどに強いのか?」

「彼女たちはオーディン様とともに常に最前線で魔族と剣を交えている者たちです。実力が無い=戦場での死ということになりますので訓練は欠かせません」

「そういえば俺の護衛騎士を作る際にヴァルキュリア隊からは引き抜かないでくれと言われてたっけ…………ヴァルキュリア隊は悪魔討伐隊とは何か違うのか?」

「はい。基本的に悪魔討伐隊は下界で悪魔に憑依された人間で形成されていますが、ヴァルキュリア隊は一人一人が神を親に持つ者たちです」


ガブリエルと話しながら歩いていくうちに、ヴァルキュリア隊の訓練風景がハッキリと見える位置にまで足を進めていた。


其処は様々な戦場風景を考えて作られているのか、ある者は人一人がギリギリ立っていられるほどの狭い足場で剣を打ち合っていたり、別のある者は高低差がある場所で槍を奮っていたりと平面で訓練する討伐隊の訓練場とは似ても似つかない風景だった。


(うわ~~綺麗な方ばかりですね)

(確かにな。戦士とは思えないほどの美しさだな) 


俺がその訓練風景に見惚れていると、他の女性たちとは何処か雰囲気の違う一人の女性が歩み寄ってきた。


「あら、貴方は何方どなたかしら? ここは殿方の出入りが出来ないはずよ。何処から入り込んだのかしら」


女性は俺の姿を何処か殺気がこもった様な視線で睨み付けながら『男に見えて実は女だとか?』と小声で呟いている。


そんな女性の様子を見て、傍に控えていたガブリエルが口を開いた。


「お久しぶりです、フレイヤ様。御健康そうで何よりでございます」

「見知った顔が居ると思えば、ガブリエルじゃない。此処に来るだなんて珍しいわね、貴女も元気だった?」

「はい。今の天界の平和はヴァルキュリア隊の…………ひいてはフレイヤ様、あっての事ですから」

「貴女の他人行儀な挨拶も相変わらずね。私達の仲なんだから呼び捨てでも良いと言ってるのに」

「そのような訳には参りません。女神様の名を呼び捨てにしたとあっては私がオーディーン様に叱られてしまいます」

「もう…………融通が利かないんだから」


俺がガブリエルとフレイヤと呼ばれた女性との会話を見ていると此方の事をすっかり忘れていたのか、女性が話しかけてきた。


「それはそうと此方の殿方はどちら様なのかしら? ガブリエルが一緒に来ているということは、身元がハッキリしているということなんだろうけど」

「此方はこの度、最高神として御光臨なされた神王様です。神王様、彼女はヴァルキュリア隊をオーディン様の命を受けて指揮している、女神フレイヤ様です」


ガブリエルの説明を受けて俺は女神フレイヤと紹介された女性に握手するつもりで右手を出したのだが、彼女は顔面蒼白と言っても良いほどに固まっていた。


「お~い、大丈夫か?」

「はっ!? 神王様とは露知らず、御無礼のほどをお許しください」


俺の呼びかけにやっと反応した彼女は俊敏な動きで、俺に対して膝をつくと謝罪の言葉を口にした。


「いや、そんなことをする必要はない。ただ天界の様子を見るためにぶらりと立ち寄っただけなんだからな」

「神王様のご配慮、真に感謝いたします」


彼女はガブリエルと会話していた時のような口ぶりではなく、明らかに俺に対して畏怖していた。


「そんなに畏まる必要はないから、普段通りの口調で喋ってくれれば良いから」

「ですが…………」


俺がこれだけ言っても未だ俺の前に跪いているフレイヤに、ガブリエルがここぞとばかりに助け舟を出した。


「神王様はその御身分とは裏腹に畏まれることを嫌がられているのです。フレイヤ様がそのような御様子だと神王様が困ってらっしゃるではありませんか」


俺はフレイヤの目線まで姿勢を落とすと、半ば涙目になっている彼女にそっと手を差し伸べた。

彼女は顔を真っ赤にしながら俺の手を取って立ち上がると、ガブリエルを肘で軽くつつきながら静々と俺の後ろに立った。


「それでは引き続き、彼女たちの訓練を見てみるとするか。フレイヤさんには訓練の説明をしてくれると嬉しいんだけど、良いかな?」

「神王様、どうか私の事はフレイヤと呼び捨てになさってください」

「そうか、わかったよ。フレイヤ」

「はい! これからも末永く、よろしくお願いいたします」


彼女は俺の言葉に元気よく返事をし、俺を道案内するかのように歩き出した。

何か、途轍もなく気になる言葉を聞いたような気もするが…………。


フレイヤはそれから何を想定してどのような訓練を繰り広げられているかというのを親切丁寧に説明してくれた。

水着のような、身体を一部分しか隠していない姿で訓練をしている女性たちも男である俺が此処にいることに不信感を抱いているようだったが、嬉々として道案内をするフレイヤの姿に表情を和ませているようだった。


ヴァルキュリア隊の訓練風景を見て一番印象に残ったことは、前に見てきた悪魔討伐隊よりも過酷な訓練を繰り広げているにも関わらず、女性特有の優雅な立ち振る舞いをしていることだった。


討伐隊の時は打ち合っている姿を見て『強そう』だとか『凄い』という感想しか浮かばなかったのだが、此処では打って変わって『美しい』という言葉しか頭に浮かばなかった。

そしてその風景に酔いしれること1時間、ガブリエルから『そろそろ次の場所に参りましょう』という言葉を受けて、後ろ髪をひかれるような思いで其の場をあとにするのだった。


「神王様、また何時でもお越しになられてください」


フレイヤは最後に深々と頭を下げ、俺の姿が見えなくなるまで頭を下げ続けていたという。




余談ながら、後程のヴァルキュリア隊での噂話を聞くところによると俺の姿が見えなくなった後で訓練をしていた女性たちが俺の事をフレイヤに聞いたそうだが、そこで初めて俺が神王だと知り卒倒してしまった女性たちが大半を占めていたのだという。


女性たちの中には『はしたない格好で神王様の前に』とか『フレイヤ様ばっかり、神王様と会話して狡い』とかいう声がヴァルキュリア隊の就寝時間まで繰り広げられていたという。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ