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異世界を渡りし者  作者: 山田 隆行
天界編
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第193話 亜空間倉庫の不具合

昨夜の熾天使10人とクロノスを巻き込んでの大騒ぎから一夜明け、何時もの様に朝食を摂っているとガブリエルの口から早速、レイモンドが地下訓練場にいる事を聞いた俺は、如何しているのか気になり様子を見に行くと、其処には真面目に魔法授業に取り組むレイモンドの姿があった。


授業の合間をぬって話しかけようとしたが、邪魔をするのも悪いかと思い足早に訓練場を去った。


俺は地下訓練場で必死な表情を見せながら汗を掻き、瞬動を取り入れながら訓練する数多くの悪魔討伐隊の姿を見て、先の上位悪魔メフィスや異端者の少年と相対し、俺の剣の腕では彼等に全然敵わなかったことを思い出し、何か短時間で強くなれる方法はないかと、クロノスの宮殿の方へと足を向けていた。


「遊びに来てくれたのかい? 歓迎するよ。此処は暇で暇でしょうがないからね」

「天界門を抜けてくれば沢山の天使達がいるんだから、話し相手には事欠かないんじゃないのか?」

「彼等は駄目だよ。僕が何を言っても『はい』とか『分かりました』としか言わないから会話にならないんだ。君とガブリエル達の関係が羨ましいよ」

「まぁ俺も何気なく『クロノス』って呼び捨てにしているけど、よくよく考えてみれば先代の神王よりも長く生きているんだよな。俺も敬意を持って話したほうが良いのかな?」

「ミコト、其れは本気で言っているのかな? 場合によっては怒るよ?」


クロノスは子供のように頬を膨らますと、少しも怒ったような表情を見せないで笑いかけてくる。


「冗談だよ。俺も立場に囚われずに話し掛けれる存在がいて嬉しいんだからさ」

「其の気持ち、痛いほど分かるよ。タメ口で会話できる存在が、どれだけ有難い事か」


俺とクロノスは盛大に笑い合うと不意にクロノスが真面目な顔をして問いかけてきた。


「ハハハハッ…………と前置きはこのぐらいにして、何か僕に相談したいことがあって此処に来たんじゃないのかい?」

「やっぱり隠し事は出来ないか。ちょっと相談に乗ってくれないか?」


俺は改めてシリアス顔になると、クロノスに悩み事を打ち明けた。

下界で上位悪魔メフィスに出会った事や、悪魔に魂を捧げた異端者の少年のスピードに全然着いて行けなかったこと。俺が共に行動しているセフィリアの足を引っ張っているのではないかという疑問などなど。


「ミコトの言い分は分かるけど、君は本来守られる立場の存在であって、自分から危険な敵に立ち向かっていく事は無いんだよ? 僕もガブリエル達も、本当は君を下界に行かせたくないんだから」


クロノスの言いたい事は身をもって理解できる。だが、それでも…………。


「どうやら僕が何を言っても、引く気はないみたいだね」

「ごめん」

「謝る事は無いよ。当然の様に守られているだけの自分の存在が許せないんだろ?」


俺はクロノスの言葉に声を出さずに、首を縦に振る事で肯定した。


「でも簡単に強くなるための訓練をと言っても難しいよね。討伐隊の中からSランクの戦士を見繕って相手をしてもらうって言う手もあるけど、神王であるミコトが相手となると」

「それは俺も考えた。セフィリアと最初に訓練場で戦った時でさえ、仮面を被って変装してなければ大騒ぎになってしまう所だったろうし」

「下界で修行するっていう手もある事はあるけど、グールを相手にするだけじゃ、たかが知れてるし。だからと言って悪魔とぶっつけ本番で戦わせるのもねぇ」


俺も一か八かで其れも考えてはいたが、元人間である異端者に手も足も出ない俺が悪魔相手に闘えるわけもなく。


「そういえば、ミコトは亜空間倉庫を作っていたよね。あの中で修行すれば、短時間で鍛えられるんじゃないかな? 亜空間倉庫内は外界の時間と遮断されてるから、『短時間での鍛錬』に適してると思うし」

「外界と遮断されてる? そんな事は初めて聞くな。氷の精霊の世界でも突然の吹雪から身を守るために朝まで亜空間倉庫の中で過ごしたし」

「えっ!? って事は亜空間倉庫の中と外の世界は同じ時間が流れていたっていう事になるけど?」

「それが普通じゃないのか?」


俺が当たり前だと思っていたことに異を唱えたのは、クロノスの横でメイドの格好をしているイシュナムだった。


「人の身でありながら亜空間倉庫を作り出せるほどの魔力をお持ちだなんて凄いです。ですが、私達エルフに伝わる亜空間はクロノス様の仰られる通り、時間という概念が外とは完全に切り離された世界なんです。そのため、空間内に置かれた食物は腐る事なく、熟していない青い実は青いままで、完熟した実は完熟したままで何時までも変わることなく存在し続けます」

「ああ、其れは問題ない。倉庫内に置いてある食べ物は腐る事がなかったし、試しに倉庫内に果物の種を植えた事もあったけど、何時まで経っても芽を出す事はなかったしな」


イスラントールの裏路地にあった種屋で買い込んだ種が、未だに芽を出さずに倉庫内に置かれているし。

風の精霊世界でのエルフの集落に数粒だけ植えたけど。


「どうやらミコトの話しを聞く限りでは、亜空間倉庫は不完全なままで固定されたみたいだね」


クロノスがこういうと、腰に装着している剣からルゥの謝罪する声が聞えてきた。


(マスター、申し訳ありません。私がうろ覚えなままで亜空間倉庫の作り方を教えたばかりに)

(いや此れは此れで便利だから、ルゥを責めるつもりはないよ。寧ろ感謝してるぐらいさ)

(マスター…………ありがとうございます!)


覚醒し切れていない、自分自身の不明確な魔力で作り上げた亜空間倉庫が不完全だと知った俺は目の前にいるイシュナムとクロノスに教えを請うのだった。


そして願わくば、本来の機能を持つ亜空間倉庫で鍛錬できればと願うのだった。



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