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異世界を渡りし者  作者: 山田 隆行
天界編
202/230

第190話 審判の結果は?

天使という自分の立場に胡坐をかき、悪魔討伐隊のセフィリアを卑下していた見習い天使との諍いの後、俺達は天界へと戻ってきていた。


「おかえり、何事もなかったようで安心したよ」

「いや、大失態を冒した」

「大失態? 何があったんだい?」

「一つの村に巣食っていた悪魔に逃げられたんだ」

「悪魔? 悪魔憑依者じゃなくて悪魔本体がいたのかい!?」

「俺がもう少し、確りしていれば逃げられずに済んだかもしれないのに!」

「神王様、其れは違います! 単独で悪魔と相対するのは無謀です」


俺が取り乱していると、悲痛な趣きで後方に控えていたセフィリアが声を荒げた。


「落ち着きなよ。今、お茶を用意させるから

その後、すっかりクロノス宮殿のメイドとして落ち着いた、イシュナムの用意した紅茶を飲んで高揚していた気分が落ち着き、断片的にではあるが体験した事をクロノスに話しだした。


「なるほどね。それじゃあ、村に蔓延っていたグール達を排除したらロイスと言う名前の異端者の少年に出会ったんだね」

「ああ、俺の眼を持ってしても、異端者の少年の速度についていく事が出来なかった。完全に力に慢心し、天狗状態になっていた俺の落ち度だ」

「それは違うよ。誰かに落ち度があるとすれば、其処に悪魔本体と異端者が居た事に気が付けなかった、悪魔探知部の責任だよ」

「それに向こうには異端者もいました。彼等は自分の魂を捧げた悪魔が滅びない限り、例え身体が燃え尽きて灰となってしまっても復活します。おまけに、その力は悪魔の邪な加護を受けているので、一筋縄ではいきません」

「主人である悪魔本人が滅しない限り、不死身の肉体で、しかも異常すぎる身体能力。更には悪魔本人は単独で太刀打ちできないほどの強さか…………どちらにしろ勝ち目は無かったということか」


メフィスと名乗った女悪魔が異端者であるロイスを、手で軽く払っただけで異常な身体をしている異端者の首を飛ばせる存在。


「ガブリエル達も下の世界に悪魔本体が居ると分かっていれば、君を行かせはしなかっただろうしね」

「神王様…………」

「おっ? もうそろそろスラオシャの審判が開廷する頃だね。行かなくても良いのかい? 今回の悪魔憑依者は君の知り合いらしいじゃないか」

「そうだった。レイモンドが地獄に行くとしても、天国に行くとしても見届けなければ」


俺はクロノスの宮殿を飛び出そうとするが、何故かセフィリアが付いて来なかった。


「セフィリア、行かないのか? レイモンドは君の弟なんだろう?」

「行きたいのは山々なんですが、私達悪魔討伐隊はいかなる理由があろうとも、裁判の間への立ち入りは許可されないんです」

「いうなれば、討伐隊に所属する戦士の9割は下界で悪魔に憑依されて、裁判の間で裁かれた記憶を持っているからね」


クロノスは本来なら『神』と『悪魔討伐隊』という大きな身分の差があるにも拘らず、セフィリアにお茶を勧めている。


俺も人のことは言えないか。何しろ、最高神と討伐隊だもんな。


「そういう訳で行ってきなよ。早く行かないと肝心な場面を見逃しちゃうよ?」


クロノスにそう言われ、全速力で天界の門を潜り、スラオシャの審議の間へと足を踏み入れると、其処には悪魔を封じ込める2つの水晶を手に持ったスラオシャが、聞いたことの無い言葉で歌を紡いでいた。

歌に呼応するかのように、スラオシャの目の前に浮かんでいる多面体水晶も光り輝いている。


次の瞬間、眼が眩みそうなほどの一際強烈な光を水晶が放ったかと思うと、透明な水晶がまるで最初から其の色だったかのように真っ黒で光の通さない物へと変化していた。


「これにて悪魔封印の儀を終了とする。続けて憑依者の審議に…………って神王様!?」


この時になって漸く審議の間の入口に俺が立っている事に気がついた、スラオシャを始めとする天使達は俺に対して跪き、俺を前回座っていた椅子へと誘った。


スラオシャの机の前で両眼を閉じ、胡坐をかいて俯いているレイモンドの姿を横目に見ながら、俺は用意された椅子へと腰を下ろす。


「では此れより、悪魔憑依者の審判を開始する。被告はおもてをあげよ」


俺の座っている場所はスラオシャの真横と言う事で、言い換えれば眼を瞑って俯いているレイモンドの正面に俺が座っている事になる。


当然、両目を開けたレイモンドの目には俺の姿が映るわけで…………。


「ぬおっ!?」


周囲を見たことの無い天使に囲まれているのも然る事ながら、かの武道大会で手合わせした俺が此処に居る事にも驚き、眼を目玉が零れ落ちそうなほど見開いて固まっていた。


そんなレイモンドの様子に動じる事もなく、スラオシャは水晶に映った罪状を読み上げていく。

その内容によれば、レイモンドは姉であるセフィリアと生き別れた後、15歳と言う若さで騎士隊に入隊し、22歳で近衛騎士へと昇格、その後54歳で近衛騎士を引退し名誉顧問と言う立場に落ち着くと、一心不乱に若手を育てていたんだという。


更には驚く事に国同士の戦争で駆り出されても、無益な殺生は好まずに悪魔に憑依されるまで、唯1人として人間を殺した事はないらしい。


そのため、度々上級騎士と口論となったが、自分の考えを変えることはなかったという。


「ふむ。非の打ち所の無い人生を歩んできたようだな」


表情の見えない顔つきをしているスラオシャではあるが、何処と無くレイモンドを見て微笑んでいるように見えないことも無い。


「さて、君には2通りの道がある。一つは今まで培ってきた全ての記憶を消し、輪廻の輪にて転生する事。もう一つは天界のために、悪魔討伐隊として戦う事だ。好きなほうを選ぶが良い」


どうやらレイモンドが地獄に堕とされると言う選択肢は無いようだが、果たしてどちらを選択するのか?


「その前に一つ聞いても良いかのぉ?」


レイモンドは遠慮気味に手を挙げると、スラオシャの姿に脅える事なく質問してきた。


「なんだ? 遠慮なく申してみよ」

「儂は見ての通り、もう歳じゃ。悪魔討伐隊といったか? それが務まるかのぉ?」


言われて見れば、確かにレイモンドは武道大会の時でさえ、70歳という高齢。

あれから何年が経過しているかは分からないが、結構な歳だろう。


「それならば心配はいらぬ。天界に居る限り、歳を取る事はない。更に希望とあらば、肉体を若返らせる事も可能だ」

「もう一つ質問じゃ。儂はもっと強くなる事が可能か?」

「うむ。先程も言ったが、此処には時間と言う概念は存在しない。寿命を気にすることなく修行する事が可能だ」

「ならば、答えは決まりじゃな。この身、悪魔討伐隊へ捧げる物と此処に誓おう!」


レイモンドが高々と討伐隊行きを宣言した事により、別室へと身柄を移される事になった。


この事を早くセフィリアに教えてやらないとな。どんな顔をするのか楽しみでもあるが。


「これにて審議を閉廷とする。天使達は新たな悪魔討伐隊員を宿舎へ、他の者は直ちに退室するように」


スラオシャの『閉廷』という言葉と共に、レイモンドを取り囲んでいた天使達は一斉に出口へと足を運び、悪魔討伐隊に新たに入隊する事となったレイモンドも、俺に何かを言いたげな表情を見せながら天使に連れられて何処かへと歩いていった。


「なぁスラオシャ。悪魔討伐隊の顧問って、確かガブリエル達だったよな?」

「正確にはウリエル、ラファエル、ガブリエルの3人が訓練指導を行なっておりますが、如何なさいましたか? 何か気になることでも御座いましたか?」


スラオシャは自身の机から立ち上がると、俺の前で膝を折って跪いた姿勢で話しかけてくる。


「いや、今の審議で悪魔討伐隊に入隊したレイモンドは俺の知り合いなんだよ。其の実力は俺自身、良く知っているから、出来る事なら俺の神騎士に所属してもらいたいと思ってね」

「そうで御座いましたか! ならば、私のほうからガブリエルに託いたしましょうか?」

「いやいいよ。どうせ私室に戻れば、嫌でもガブリエルと顔を合わすことになるだろうし、それに自身の神騎士に組み込む事になるんだから、自分自身の言葉で告げないとね」


俺は此れだけを言うとスラオシャに対して軽く手を振りながら、この事を逸早くセフィリアに伝えるべく審議の間を後にするのだった。



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