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異世界を渡りし者  作者: 山田 隆行
天界編
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第189話 愚かなる見習い天使

2人の悪魔憑依者が戦っているとセフィリアに教えられた俺は、2人の戦いを止めるべく飛び込んだが、良く見ると老人の正体は予想だにしていなかった、思いもよらなかった人物で…………。


「如何してだ! どうしてアンタが此処に居るんだ。レイモンド!」


狂気の笑みを浮かべて戦っている老人の正体は、俺がかつてイスラントール武道大会決勝戦で戦った、近衛騎士隊名誉顧問のレイモンドで尚且つ、セフィリアの血の繋がらない弟であった。


この惨劇の元となった人物がレイモンドであったからと言って呆けているわけにも行かず、戦いを止めようとするが後一歩及ばず、相手の騎士はレイモンドの一撃によって命を絶たれた。


これで悪魔が2体になると思われたがセフィリアの機転によって、騎士に逸早く魔錠が掛けられた事により悪魔が表に現れる事はなかった。


相対していた騎士に魔錠を掛けるべく、レイモンドに背中を向けていたセフィリアが、狂気の笑みを浮かべていたレイモンドに斬られそうになるところで一つの奇跡が起きた。


「こ、これ以上、儂の身体で好き勝手する事は許さん!」


胸に刻まれた傷と左胸の心臓付近を掠めて突き刺さっている槍の状態から、既に事切れている筈のレイモンドがセフィリアを手に掛けようとしていた、剣を持つ右腕を左腕で押し止めていたのだ。

その後は隙を見てセフィリアが魔錠をレイモンドの腕に掛けた事により悪魔は封じ込められ、力を失くしたレイモンドの肉体からは夥しいほどの血液が流出し、其の身体は重力に引き寄せられるかのように地面へと倒れてゆく。


「こ、これで……儂の役目は終った……」


レイモンドは最後にそう呟くと、深い眠りにつこうとするが俺がそれを許さなかった。


「まだアンタを死なすわけにはいかない! 絶対に助けてみせる」


俺はレイモンドがスラオシャの聖なる審判で『地獄に堕ちるかもしれない』と心の中で思いながらも、何とかして助けたいと思い、回復魔法を掛け続けた。

それから約5分後、レイモンドの胸に深深と突き刺さっていた槍はセフィリアの協力のもとに取り除かれ、胸の傷は完全に塞がり、薄っすらながらも顔に血の気が戻ってきていた。


「此処までくれば、あとは時間が解決してくれるだろう」

「あの神王様、ありがとうございました。未だ言葉を紡ぐ事の出来ない、弟レイに成り代わり御礼申し上げます」


セフィリアはレイモンドの顔を見て安堵すると俺に深深と頭を下げ、礼を言ってきた。


「いや、本当は俺も公私混同でいけない事だとは思ったんだが、知ってる人間が目の前で息絶えるのは気分が悪くてな。其れにスラオシャの審判次第では『無駄になるかも』と思ったりもしたんだが」

「確かに…………この惨事を引き起こしたのが、例え悪魔に憑依されたレイだったとしても、100%無罪とは行かないかも知れないですね」


そう口にするセフィリアとともに周囲を見回すと、其処には凄惨な景色が広がっていた。


身体をX字に斬られて息絶えている者、両手両足を胴体から切り離されて達磨状態となっている者、頭の先から股までを槍で一突きにされている者と、其処には死体の山が築かれていた。


「と何時までもこうしていても始まらないな。天界へ戻るとしよう、天使を呼んでくれ」

「分かりました」


セフィリアが両腕を祈るかのように組んで地面に跪くと何処からとも無く、3人の天使が姿を現した。

2人の天使は俺の姿を見かけると、軽く一礼した後に1人はレイモンドを、もう1人は見習い天使だろうか?

他の2人の天使に指図されながら、レイモンドと戦っていた男を担ぎ上げる。


悪魔憑依者を回収し終えた天使達を見た俺達は一緒に天界に戻ろうとしていたが、不意に見習い天使がセフィリアと俺に食って掛かってきた。


「全く酷い有様だね。もうちょっとスマートな解決は出来なかったのかい? 此れだから元人間は…………」


見習い天使は確実に俺達を蔑むような眼で睨みつけている。

この天使は俺が神王だとは知らないのか、彼を連れてきた2人の天使は慌てふためいて見習い天使を止めようとしているが。


「其処の君。なんだい、其の何か文句を言いたげな顔は?」


見習い天使は俺の顔を上から目線で睨みつけると、調子に乗った言動を続ける。


「こんな沢山の犠牲者を出して罪の意識はないのかい? 此れだから野蛮な悪魔討伐隊は好きになれないんだよ」

「随分な物言いだな。自分達天使が偉い者だと、勘違いして無いか?」

「なんだと!? お前等みたいな下賤な者が僕達天使に逆らって良いとでも思っ……「其処までだ。身をわきまえろ、無礼者が!」……ぶっ!?」


好き勝手ほざいていた見習い天使の頭を何時の間に移動していたのか、他の天使が殴りつけた。

殴られた天使は何故このような仕打ちを受けるのか分からないといった表情で他の天使に詰め寄る。


「行き成り、何をするんですか! 僕は礼儀を弁えない、この者の処罰をですね」

「身を弁えろと言ったのが分からんか!!」

「ひっ!?」


見習い天使は他の天使に怒鳴りつけられ、一瞬俺を睨みつけたかと思えば身を縮めて天使に謝罪した。


「管理不行き届けだな。まさか天使の中に、このような愚か者が居ようとは思わなかったぞ」

「重ね重ね申し訳ありません。この者には然るべき処置を致しますので」


2人の天使は俺の正体を知っている為、頭を深く下げて謝罪するが、見習い天使の方は腑に落ちないようで。


「お言葉ですが、先輩方。どうして、このような下賤な者に謝罪する必要があると言うのです?」

「『どうして謝罪を?』か…………天使達よ。俺が一体何者か、この見習い天使に教えてやってくれないか?」


俺は敢えて見習い天使に威厳さを見せ付けるために、普段では絶対に使わない、上から目線での言葉で俺の正体を天使達の口から言わす事にした。


「はい、貴方様は天界において最高位の立場に居られる、神王様に御座います」

「我等天使を始めとし、天界に住まう者。全ての父である存在です」


2人の天使は、其の腕に抱いていた悪魔憑依者2人をそっと地に下ろすと、片膝を折って深深と頭を下げてくる。


「えっ? し、神王様!?」


この事に一番ショックを隠せなかったのは見習い天使だったようで、上司天使と俺の顔を交互に見て身体全体を震わせている。


「よもや、神王様に対して『下賤な者』などとは。貴様の処分は後に言い渡す! 覚悟しておけ」

「神王様、我が部下が失礼をして申し訳ありませんでした」

「今後はこのような事を起こす事のないようにな。それだけだ、天界に戻るとしようか」


その後は自分の天使という立場を完全に勘違いした見習い天使と、其々1人ずつの悪魔憑依者を腕に抱いた天使、そしてレイモンドが助かった事に安堵していたセフィリアとともに天界へと戻った。


因みに沢山の犠牲者を出した街は、天使達によって秘密裏に処理される事となった。

其の天使達の中には両頬を腫れあがらせている、見習い天使の姿もあったという。


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