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異世界を渡りし者  作者: 山田 隆行
天界編
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第187話 悪魔に魂を売った者

村に蔓延っていたグールを一体残らず始末した俺達は、グールを指揮していた正体不明の少年と対峙していた。

セフィリアの話によれば、この少年は自分から悪魔に魂を売った異端者だという。


悪魔に魂を売った事を批難していると、村の奥から1人の髪の長い女性が姿を現した。


「この有様は如何いうことです? 納得の良く説明をしてもらいましょうか」


女性の声を聞くや否や、目の前で威勢を放っていた少年が身体を震わせ縮こまった。


「貴方に聞いているのですよ、ロイス」

「あ、あのメフィス様。此れには深い事情がありまして…………」


突如現れた女性は少年の事をロイスと呼び、少年は突如現れた女性をメフィス様と呼んでいる。

グールを指揮する少年が女性を様付けで呼んでいることから、彼女は少年の主と言う事か。

すなわち、彼女が少年の主である悪魔が取り憑いた人間と考えて良いのだろうな。


「この者達が貴女様に危害を齎す者だと判断し、グール達を差し向けて返り討ちにしようとした訳でして」

「その結果、我が愛しの家族達グールが殺され、このような結果になってしまったと? 最初からロイスが相手をすれば良いだけではなかったのですか」


メフィスと呼ばれた女性はそう言いながら右手を振りかぶると、ロイスと呼ばれた少年の左頬を思いっきり、引っ叩いた。


その結果、少年の首は胴体から千切れ飛び、胴体の首のあった場所からは血が噴水のように飛び散り、少年の首は数m離れた廃屋の壁へとサッカーボールのように吹き飛ばされた。


「自分の部下を何の躊躇も無く殺害するとは…………」


主としもべの関係だと本人が言っていたのに酷すぎると思っていると。


突然、首の無い少年の身体が起き上がると何事も無かったかのような足取りで首が飛ばされた廃屋へと歩いてゆく。


「なっ!?」


そして数秒後に戻ってきた頃には、少年の身体には元通り首があった。


「まったく、少しは手加減してくださいよ。死なないだけで痛みはあるんですから」


少年は首をコキコキと鳴らしながら女性のもとへと戻ってくる。


「少しは痛みを与えないと、反省しないでしょう?」

「この服、気に入ってたのに」


少年はそう言いながら、自身の血がベッタリと付着した服を見て項垂れている。


「何を女々しい事を。ところで先程から気になっていたのですが、そなた等は何者です? グールの処理方法を知っていると言う事はただの人間ではないのでしょう?」


メフィスと名乗った女性は少年から視線を俺達に向けると、身が凍りそうな視線を伴って話しかけて来た。


「お、俺達は天界所属の悪魔討伐隊だ! 貴様等のような悪魔を滅するために此処に来た。覚悟しろ」


腰の剣を抜いて女性に切りかかろうとしたところで、何故かセフィリアに止められた。


「ジン殿、戦ってはいけません! 彼女は恐らく、高位の悪魔です」

「悪魔が取り憑いた人間ではなく、悪魔本体だというのか!?」


視線をセフィリアからメフィスと名乗った女性に移すと、其処には口元を緩ませて笑みを浮かべる姿が。


「よくぞ、我が正体を見抜きましたね。褒めて差し上げます」

「そしてその壱の従者、ロイスだ!」


少年が女性の前で胸を張り、『此れでもか!』と威張っている。


「悪魔本体に不死身の少年か。少し、分が悪いかな」


俺は剣を鞘から抜き、何時でも戦えるように身構えるとセフィリアもまた俺を護るようにして剣を抜き、女性と対峙した。


「お前達如き、メフィス様の手を煩わせる事も無い。僕1人で充分だ」


そう言って少年がグールの持っていたナイフを手にとって俺達に対峙するが、何故かその少年を女性が蹴り飛ばした。


「メフィス様~~~なんで~~~」


蹴り飛ばされた少年は錐揉み回転しながら、廃屋の壁に向かって頭から突っ込んで行く。


「興がそがれました。残念ですが、此処は魔界に帰ることにしましょう」


そう言うや否や、女性の身体は周囲の景色に溶け込むかのように姿を消してゆく。


「ロイス、何時まで寝ているのです。置いていきますよ」

「は、はい、今行きます。置いてかないで下さいよ~~~」


少年は女性に呼ばれて飛び起きると、一瞬で女性の真横へと移動していた。

蹴り飛ばされた場所から女性の居るところまでは、ゆうに200mは離れている。


そんな距離を一瞬で移動するなんて…………。

そのような事に気を取られている間に女性と少年の姿は完全に消えていた。


「逃がしたか。此れは始末書ものかな」


俺は頭をポリポリと掻きながら、未だ虚空に向かって剣を構えているセフィリアに話しかける。


「残念ながら、悪魔と異端者の少年には逃げられたみたいだ」

「い、いえ私達2人だけでは、とても上位悪魔に太刀打ちできません。討伐隊が少なくても、50人は束になって掛からないと捕縛する事さえ難しいでしょう」

「でも魔錠を持ってるだろ? それで力を無効化できないのか?」


俺がそういうとセフィリアは懐から魔錠を取り出して見せた。


「魔錠が効力を発揮するのは、低位の悪魔に取り憑かれた人間に対してのみです。高位の悪魔に対しては一瞬、動きを封じる事が出来るかどうかです。其れに異端者の存在も含めると死闘は回避できなかったでしょう」

「その異端者というのは一体なんだ? あの少年は腕を切り飛ばしても、首を飛ばされてもピンピンしていたぞ? まさか不死身なのか?」

「異端者というのは生きながらにして、悪魔と契約を結んだ人間のことです。契約を結んだ人間は例え首を刎ねようが、五体をバラバラにされようが、身体を灰にされようが死に至ることはありませんが、契約を結んだ悪魔が死ねば、其の身体は魂もろとも永久に消滅してしまいます」

「自分から悪魔に魂を売って不死を得たというのか」

「更に其の悪魔が高位であればあるほど、契約をした人間の身体能力も倍増されますから、あの少年は余程の実力者だと考えられますね」

「確か『メフィス様の壱のしもべ』って言ってたから、他にも居る可能性が否定できないな」


グールの犠牲者となった村人の遺体を、レグリスの時と同様に骨も残さずに高出力の炎魔法使って灰にすると、村にある共同墓地に穴を掘り丁重に弔った。


簡単ではあるが廃屋の木の破片を使って、墓代わりに十字に組むと遺灰を埋めた場所に突き刺し、『どうか安らかに成仏できますように』と手を合わした後、セフィリアの案内のもと村を旅立った。


如何してこんな場所に上位悪魔が居たのか、如何してこの事が下界の調査カードに記されてなかったのか?

そんな事を考えながら、2人目の悪魔憑依者が居ると思われる場所へと急ぐのだった。

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