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異世界を渡りし者  作者: 山田 隆行
天界編
192/230

第181話 根っからの悪人

最後の最後でレグリス国王女と王妃の名前が決まりました。


何時までも『王女』『王妃』だと締まりませんからね。


決まった途端に出番は終了ですが…………。

下界でレグリス国全体に蔓延っていたグール達を倒し、悪魔に身体を取り憑かれていた王女と王妃、自分の身体ごと悪魔を封じていた、すでに事切れている国王を連れて天界へと戻った俺達は、時空神クロノスから熾天使スラオシャが王妃と王女の審判を執り行っていると聞き、裁判の間へ足を踏み入れた。


既に悪魔は取り払われ特殊な水晶に封じ込められてはいたが、一番興味がある人間の裁判は此れからだと聞き、スラオシャの案内で特等席で見せてもらえる事となった。


そしてそんな俺の姿を見た王女が困惑の表情で見つめている。


「勇者様? どうか私達を助けてくださいませんか。この謂れの無い裁判から」


スラオシャは王女の視線の先を辿り、勇者様というのが俺のことだと分かると殺気を込めて王妃を睨む。


「神王様の事を言って居るのか!?  恐れ多い神王様に、罪深き罪人如きが口を訊くとは何事か!」

「この化け物風情が! 何処の誰が罪人だというのです。私は誇り高きレグリス国王妃、メリアルド。隣にいるのは我が娘カリアノですよ!? 分かったなら、この縄を解き私達を自由にしなさい!」


王女を『罪人』と呼んだ熾天使スラオシャに対して、此れまで唯の一度も声を発さなかった王妃が声を大にして、耳を塞ぎたくなるほどの大声で怒鳴り散らした。


この2人は此れまで一体何人の罪無き国民を暇つぶし、ストレス発散と称して殺してきたというのか。

此処で俺は一つの疑問に突き当たり、隣で今にも暴れだしそうな表情をしているスラオシャに聞いてみることにした。


「なぁスラオシャ、一つ気になっていることがあるんだが」

「何で御座いましょうか、神王様。私めに答えられることならば何なりとお聞き下さい」

「素朴な疑問なんだが、2人は身体が悪魔に取り憑かれていた当時の記憶があるのか? 悪魔に操られて大勢の人間を殺した場合の処置はどうなるのかと思ってな」

「悪魔に憑かれていた時の記憶というのは、人の精神力で其々異なりますが、大抵の場合は長い夢を見ていたという感覚でしかありません。更に悪魔に取り憑かれる条件としましては『愛する者を戦争もしくは事故で亡くし、茫然自失となった者』、『普段時から人を痛めつける行為や猟奇殺人といった負の感情に囚われている者』が挙げられます」


この2人は果たして前者と後者どちらになるんだろうか?

以前噂話で聞いた、国民を痛めつけていた頃というのは悪魔に取り憑かれる前だったのか後だったのか。


「それでは改めて審議を開始する。そなた等の記憶を見せてもらうぞ?」


そう言ってスラオシャが取り出したのは、一台のパソコンのような物と其れにケーブルで繋がる綺麗な透明の水晶だった。


「それは?」

「此れは『記憶見の神水晶』と呼ばれる道具です。ケーブルに繋がれた水晶を罪人に近づけることにより、罪の重さを色で示すと同時に、其の者が以前に犯した罪を全て暴く代物です」


スラオシャは手で周りに居る天使達に合図すると、1人の天使が水晶を手に持って王妃、王女の順で顔に近づける。

水晶を近づけた途端、王女の場合は茶色に染まり、王妃に至っては真っ黒に変化した。


「水晶の色は白、黄、赤、濃赤、茶、濃茶、黒色の順で罪の深さが変わるのですが、結果を見る限りでは天国行きというのは有り得ないですね」


その後、5分が経過したところでパソコンの画面に『何処まで続くのか』と思わせる量の文字が書き記されていく。


「レグリス国王女カリアノ。初の犠牲者は8歳の頃、自身の世話係兼教育係として仕えていた老騎士を害虫駆除に用いる毒薬を利用して殺害」


スラオシャによって今まで犯してきた罪を一つ一つ読み上げられ、怒りで赤く染まっていた顔は信号が変わるかのごとく、段々青くなっていく。


その後も1時間が経過して漸くスラオシャの読み上げは終了し、カリアノが此れまで犯した罪は殺人だけで53件という結果となった。


続けて王妃メリアルドの罪も読み上げてゆく。


「レグリス国王妃メリアルド。初の犠牲者は親友の少女。切欠は一目で好きになった青年が親友と恋仲だったため、親友が寝ている隙にロープで首を絞め殺害。更に親友が死んだ事で自分になびくと思われていた青年が、自分に対して一向に興味を示さなかったため、此れも首を絞め殺害と…………」


此方も3時間に渡って延々罪の内情を聞かされ、犠牲者はカリアノの3倍近くともなる149人。

良く此れだけの数の人間を暇つぶしだの、癇に障ってだのと殺して来れたもんだ。


「この結果を踏まえて、両名には冥界行きを言い渡す。時間という概念のない地獄で自身の罪を悔い改めるがいい! それでは此れにて閉幕とする」


スラオシャが閉幕といった瞬間に天使達が2人を連れて裁判の間を後にした。


「そういえば、レグリス国王はどうなったんだ? 此処には居なかったようだけど」

「彼は生前、罪という罪を一つも犯しては居ない存在だったため、罪人である彼女等の記憶を消したのち天国へと誘われます。その後は輪廻の環にて転生を待つことになるでしょう」


噂に違わぬ、心優しき国王だったという訳か。


「ところで冥界って天界と繋がってるのか? 言葉で連想すると魔の巣窟ってイメージがあるんだが」

「確かに聞き方によっては誤解を招きそうですが、天界は天国と輪廻の環を管理し、冥界は罪を犯した者を裁く各種地獄を管理する世界です。魔界は我々が敵とする悪魔や悪霊の世界なのですが、何処にあるのかは分かっていません」

「今まで魔界=冥界だと思っていたから悪いことしたな」

「もし宜しければ、其のうちに冥界に足を踏み入れてみては如何ですか?」

「簡単にいけるのか!?」

「ミカエルかメタトロンに言えば案内をしてくれますので、御気軽に申し付けてください」

「そ、そうか、機会があれば行ってみる事にするよ。じゃあ、今日はこれで失礼するよ」


悪いことをしていないのに地獄界、いや冥界に足を踏み入れるのは何だか不思議な気分になるな。

その後、天界の門を経由して私室に戻ると。


俺が心配だったのか部屋に入るなり、ガブリエルの泣きはらした顔が飛び込んできた。


「お帰りなさいませ~~~ご無事で何よりでした。初めての悪魔討伐は如何でしたか?」

「思っていたよりも厳しかったな。予期せぬ出会いもあったし」

「『出会い』ですか? 以前知り合った方と再会でもしたんですか?」


ガブリエルはそう言いながら、部屋に備え付けられている台所でお茶の用意をしている。


「確か魔将軍シュバイアとか言ってたかな?」


俺がそういうとコップが割れるような『ガチャン!』といった音とほぼ同時にガブリエルが文字通り翼を広げて飛んできた。


「魔将軍に遭ったのですか!? お怪我は、お怪我は御座いませんか!」

「大丈夫だよ。相手も様子見だって言ってたし、そんなにヤバイ奴なのか?」

「ヤバイなんて物じゃありません! 良いですか? 魔将軍に出会ったら兎にも角にも逃げてください。絶対に御1人で対峙なされてはなりませんよ!?」


その後は就寝の時間に至るまで延々と魔将軍の危険性を説明され、耳にタコが出来るどころか耳元でタコが盆踊り出来そうなほど同じ事を何回も聞かされることになってしまった。



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