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異世界を渡りし者  作者: 山田 隆行
天界編
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第180話 自らに封印を課す者

ユニークアクセスが200万人に到達しました!

今後とも『異世界を渡りし者』をよろしくお願い致します。

セフィリアとの共闘で悪魔が憑いたレグリス国の王女と王妃を打ち倒し、魔錠によって封印した俺達は城の入口で感じた3体目の悪魔を封じるべく、幽かな醜気を頼りに玉座の後ろにある狭い部屋へと足を進めた。


「こ、これは何だ? どうしてこんな物が此処に?」

「これは棺ですね。悪魔の微かな醜気はこの棺の中から漂っているようです」


其処に置いてあったのは、狭い一室の壁ギリギリの大きさのある石製の棺桶で表面には血のような赤い染料でとある文字が棺全体に描かれている。


「これは形こそ違いますが、魔錠と同様の意味を持つ棺ですね。恐らくは棺の中に居る者が自分の身に起こったことを理解して、このような処置を施したのでしょう」

「棺を開けてみるか?」

「いえ、棺は私が開けますので、ジン殿は開いたと同時に魔錠を取り付けてください」

「中身が死体だとしても、暴れる危険性があるのか?」

「先のグールの件もありますし、棺の中の人物が死んでいるとは限りませんから。良いですか? 開けますよ」


そう言ってセフィリアが棺の蓋をこじ開けるようにして少しずつ隙間を作ってゆくと、中から人の声とは思えない呻き声が漏れ出してきていた。


「やはり悪魔が憑いているようですね。1、2の3で一気に開きますので魔錠の準備をお願いします」

「分かった」

 

俺は棺の中の人物がどのような体勢で横になっているのか、頭の中で予想しながら両手で魔錠を持ち、待ち構える。


「「1、2の3!」」


『3』とセフィリアが口にした直後に魔錠を持った腕を棺に入れると最後の抵抗か、干からびた腕のような物が俺の手首にしがみ付いた。


俺は咄嗟に伸びてきた腕を何事もなかったかのように無視をして、手首だと思われる場所に魔錠を装着する。


「グゲゲゲェェェ…………誰かは知らぬが感謝する」


石棺の中に居た何者かに魔錠を装着した時点で、セフィリアが感じていた醜気は完全に城内から消え去った。

棺の中の悪魔は最後に苦しげな声を発したかと思うと、絶え絶えの人の声へと変化した。


もう危険は無いということでセフィリアが完全に棺の蓋を外すと、其処には既に骨と皮だけとなった人の身体が横たわっていた。


「儂は……第29代レグリス国王。この身を邪悪なる者から解放してくれて礼を言う」


噂では病を患って既になくなったと聞いていたが、悪魔と戦っていたのか。


「もうすぐ、我が身は朽ち果てる。名も顔も知らぬ勇敢なる旅人よ、どうか…………どうか娘と后を頼……む」


棺の中に横たわっていたレグリス国王と名乗った人物は、悪魔に身体を取り憑かれた王妃と王女を気遣いながら物言わぬ身体へと朽ち果てた。


「皮肉な話しだが、最後の最後に悪魔の生命力で生き延びて、俺達に遺言を残せたという事か。せめてもの安らぎとしては、王妃と王女が既に悪魔の手に落ちていた事を知らずに息を引き取ったという事だな」

「それでは3人を連れて天界へと戻りましょう」

「3人って、この国王も連れて行くのか?」

「はい。悪魔はグール達のような悪霊のたぐいとは違い、人間の身体から出てしまうと浄化の炎を持ってしても滅することは出来ません。天界で悪魔を封印し、残された人間の魂は熾天使スラオシャ様の審判で裁かれます」

「熾天使スラオシャ?」


また聞いたことのない新たな天使の名前がセフィリアの口から聞かされた。


「人の死を、更には悪魔に取り憑かれた魂を裁き、人間で言うところの天国か地獄。もしくは私のように討伐隊として天界で働くかを決める御方です」


よく『死後の世界』などの本で見る、閻魔大王みたいなもんかな。


そして国王の遺体から魔錠が抜け落ちないようにセフィリアが身体を持ち上げると、王妃達との死闘を繰り広げた玉座の間へと戻ってきた。


「お母様、お母様ったら! 此処で何があったの?」


俺達が玉座の間へと戻ると、何があったか分からないような表情をした王女が未だ倒れて意識がない王妃を必死に揺さぶっていた。


「如何やら眼を醒ましたようですね」

「誰? 此処は玉座の間よ。汚らしい旅人が足を踏み入れて良い場所ではないわ!」

「やれやれ、悪魔から肉体を解放しても、この様子じゃ救いはないな」

「全くです。貴女達には此れから、天界にある裁きの間で然るべき審判を受けてもらいます」

「天界? 裁き? 審判? あなた、頭は大丈夫なの?」


王女は此方の言うことを一つも理解できてはいないらしく、逆にセフィリアの頭を疑っているようだ。


「失礼な奴だ。自分の立場という物を全く分かっていないようだな」


何処からともなく声が聞えたため、視線をキョロキョロとさせていると俺の横に居たセフィリアが窓の外に向けて片膝を折り、頭を下げていた。


セフィリアの視線の先を見ると、3人の天使達が宙に浮かんでいた。


天使達は跪くセフィリアの傍を通り過ぎると、1人は国王の亡骸のもとに、1人は未だ眼を醒まさぬ王妃のもとに、1人は俺に対して深深と頭を下げた後、天使達の姿に慌てふためく王女のもとに行く。

そして次の瞬間、眩い光を放ったかと思うと、俺とセフィリア以外は誰も其処には居なかった。


「では私達も天界へと戻りましょう」

「あ、ああ、そうだな。此処に居る意味は既に無いに等しいからな」

「では…………」


セフィリアは恐縮しながら俺の肩に手を置くと、呪文のような物を紡ぎだした。


そして先程の天使達と同じ様な眩い光が照らされた次の瞬間には俺達はクロノスの目の前に立っていた。


「お疲れ様。初の悪魔討伐はどうだった?」

「予想していたよりも、酷い現状を目の当たりにしてしまったよ。それに予期せぬ者にも出会ってしまったしな」


俺がこう言うと、クロノスに対して跪いているセフィリアが思い出してしまったのか身を微かに震わせた。


「まぁいいや、話は後から聞かせてもらうから。早く行かないとスラオシャの審判を見逃してしまうよ? 後世のためにも、1度は見ておいたほうが良いよ」

「確かに興味あるな。何処で行なわれているんだ?」

「何時もの様に天空の門の前に行って、行き先を裁判の間に変更すれば自動的に通路が繋がるから後は道なりに行けば到着するよ」

「分かったような分からないような…………取りあえず行ってみるよ」


俺は腕に巻きつけている、精霊の感知を無効にする腕輪や天界帰還用の指輪をを外すと、クロノスに手渡した。


「あ、神王様、私が道案内します」

「それなら頼むよ。じゃクロノス、またあとで」

「ではクロノス様、失礼します」 


セフィリアがクロノスに対して深深と頭を下げ、俺を道案内するかのように先導する。


それから数分後、天空の門へと辿りついた俺達は、セフィリアの操作で天空の門の行き先を変更し、見たことの無い通路に変化した廊下を只管歩き続けた。


「神王様、見えてまいりました。スラオシャ様の審判の間です」


少し遅れながら審判の間に到着すると、其処には王妃や王女を連れて行った天使と身体全体が水色な天使が机に頬杖をついて、目を最大限に見開きながら俺のほうを凝視している。


そして水色の身体を持つ天使が頬杖をついている机の上には黒い靄状の物が封じ込まれた八面体の水晶が3個置かれ、更に透明な壁を隔てた向こう側(俺の居る方から見て手前側)にはレグリスで捕獲した王女と王妃の姿が。


「神王様、正面に見える、机に頬杖をついているのが熾天使スラオシャ様で、机の上に置いてある水晶の中身が取り憑いていた悪魔の本体です」


人間の身体から悪魔を取り出す術も見たかったのだが、残念ながら間に合わなかったか。


俺が残念な気持ちで項垂れていると、机上から文字通り翼を広げて飛んできたスラオシャが俺の目の前で片膝を折り跪いてきた。


「し、神王様!? どうしてこのような場所に?」

「ああ、気にしないで、審判がどのような事をするのか興味があって来ただけだから」

「事前に言ってくだされば、迎えの者を用意したのですが」

「いや俺も悪魔討伐から帰ってきたばかりだったし、自分で捕まえた悪魔憑きの人間が此れからどうなるのか知りたいという好奇心で来ただけだから」

「そうでしたか、ならば特等席で御覧下さい」


スラオシャがそう言って俺を誘ったのは、自分の机の横にあつらえた椅子だった。


「急なことでしたので、こんな物しか御用意出来ませんが」


『気にしなくていい』とスラオシャに手を振った後、被告人席というか王女達が座る方に眼を遣ると、デジャブを思わせるような極限まで開かれた目で此方を凝視する王女の姿があった。


「如何して勇者様が其方にいますの!? どうか私達をお助け下さい。身に覚えの無い場所で、身の覚えの無い者から受ける不当な裁判から」


行き成り天界に連れてこられて、お伽噺にでも登場するような天使に囲まれれば、確かにそう思わざるを得ないが、この期に及んで何と往生際の悪い事か。



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