表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界を渡りし者  作者: 山田 隆行
天界編
189/230

第178話 『魔将軍』という存在

セフィリアとともに、悲惨すぎるレグリス国の現状を目の当たりにした俺達は、国民の遺体に憑依した悪魔の波動によって集まった悪霊であるグールを相手に苦戦していた。


街へと入った時に目に見えていた死体が各々の武器を持ち、一斉に襲い掛かってくるのだ。


しかも魔物の姿なら兎も角、老人や女性、幼げな子供の姿だというのが更に俺達を苦しめていた。


「クケケケケケッ! お前はこんな罪も無い子供をその手に掛けているんだぜ。ほれ、罪の意識にさいなまれながら死にな!」

「し、いえジン殿、グールの言葉に囚われてはいけません! 国の民は既に命の灯火を消しているのです。死してなお、身体を操られる国民のためにも、心を鬼にして斬ってください」


俺のすぐ傍で戦っているセフィリアも相手が老人だろうが、赤子であろうが手を休めることなく切り刻み、肉体から離れた、悪霊であろう黒い靄を浄化の炎で焼き尽くしている。


事情を知らない人が見たら間違いなく狂気の沙汰だと思われる行為をしてから、一体どれだけの時間が経過したのだろうか…………一人の優しげな表情をした女性の姿をしたグールを倒した丁度そのとき、俺の腰までしかない1人の少女が泣き叫びながら、先ほど倒した女性の元遺体に走り寄ってくる。


「どうしてこんな酷い事するの!? ママを返してよ! この人殺し!!」


少女は泣きながら、足元に落ちている小石を次々と拾っては俺に投げつけてくる。


死体が皆、グールだと頭の中で割り切っていても、この少女のように『誰か1人ぐらいは生き残りが居るのでは?』と考えてしまった。

俺は未だ泣き続けている少女の目線に合わせるように腰を落とし、少女に手を伸ばしかけたところで予期せぬ事態が巻き起こった。

上半身の鎧に覆われていない場所である喉元に深深とナイフが突き刺さり、その柄は目の前の少女が握っていた。


「な~んて言うとでも思ったか? 残念だが、お前は此処で死にな」


目の前の少女は醜悪の表情で目を吊り上げながら、ナイフを俺の喉元から引き抜いた。


普通の人間なら傷口からナイフを抜く事で出血多量で死んでしまうが、俺は並外れた回復能力の御蔭でナイフが抜かれても、抜いた先から傷口が時間が巻き戻るかのように塞がってゆく。


目の前の少女…………いや、グールはそんな事は露知らず、なおも狂ったかのように笑い続けている。

そして漸く俺が無傷で目の前にいる事に気が付いたグールは驚愕の眼差しで俺を見る。


「な、何故だ、何故生きている!? 寸分の狂いなく、急所を突き刺したはずだ」

「残念だったな、俺も普通の人間とは身体の作りが違うんだよ」


俺はそう言葉を発しながら、目の前の少女の姿をした物体・・を心を鬼にして切り刻む。


やがて身動きが出来なくなった身体から黒い靄が浮き出し、遠くに見える城へと逃げ帰ろうとするが、其処は俺の放ったファイアーボールによって跡形もなく消滅した。


「ジン殿、お怪我は大丈夫ですか!?」

「ああ、俺の身体は特別製だからね。何の問題はないよ」


俺は刺された喉をセフィリアに見せるが、其処には何の傷跡も見受けられなかった。


「グールは粗方始末し終えました。残るは城の中にある、悪魔の本体を叩くだけです」

「セフィリアは何時もこんな事をしているのか? 心が砕けそうになった事は?」

「情け無い話なのですが、私も最初の頃はジン殿と同様に手を下す事が出来ませんでした。しかし敵はそんな私の事など知る由もなく襲い掛かってきます。もう何十年前になりますか…………そんな私を庇ってグールの手に掛かった討伐隊の先輩は、その身を消滅させながら『時には心を鬼にして、彷徨える魂に安らぎを与えよ!』と言い残し、身体を消滅させてしまいました」

「身体が消滅!?」

「私達討伐隊は死後、悪魔に鍛えぬいた屈強な身体を使われないために、とある薬を口にして肉体を消滅させるのです。この身体は天界の極秘情報の塊なので万が一にでも悪魔に使われた場合、魔界に情報が行き渡ってしまうのです」

「そ、その薬はセフィリアも持っているのか?」

「はい。此処に」


そう言ってセフィリアは口を大きく開けて、奥歯に仕込まれているカプセルのような物を見せてくれた。


「口の中に入れているのか!? もし何でもない時に噛み砕いてしまったら如何するんだ!」

「ご心配、有難うございます。この身体が瀕死状態になったと脳が判断しない限り、飲み込んでしまったとしても何の害もありません」


セフィリアから驚くべき内容を聞いたその後、建物の陰に隠れていたグールを探し出して1人残らず始末したあと、城へと足を進めた。


余談だが、グールの犠牲となった住人の遺体は高出力の炎魔法によって骨も残らないほどに火葬し、街の中にある墓地へと埋めておいた。



城門は何故か『来る者拒まず』と言いたげに開きっぱなしになっており、内部からは人の気配が全く感じる事は出来なかった。


「此れだけ大きな城なら騎士は相当な数になる筈だ。其れが此れだけ静かだという事は何処かに遠征中なのか?」

「ジン殿の言うとおり、例え遠征中だとしても城を護る騎士が居ないというのは異常すぎます。此処は何かの罠だと考える方が…………誰だ!!」


物音一つしない城内を歩みながら、俺と会話していたセフィリアが突然、懐からナイフを取り出して壁へと投げつけた。


「何者かは分からぬが、其処に居るのは分かっている。姿を現せ!」


セフィリアが何の変哲もない壁へと向かってナイフを投げつけると、其処から黒いローブを身に纏った何者かが壁を通り抜けて姿を現した。


手にはセフィリアが投げつけたナイフを持っている。


「グールどもを滅した手腕といい、俺の気配を見極めた勘の良さといい、何と興味深いことか」


顔や身体は黒…………というよりは、嫌な闇という感じのローブに包まれて見えないが、声で判断する限りでは性別は男のようだ。


「貴様は何者だ!」

「人に名を尋ねる時は自分から名乗る物だと教わらなかったか? まあいい、俺の名はシュバイア。魔将軍が1人、土のシュバイアだ」


俺は臨戦態勢を整えて身動きしないセフィリアに代わって言葉を口にした。


「魔将軍?」

「そう、とは言っても魔将軍の末席に名を連ねる者でしかないがね。本来は我々に害を為す存在である、お前達を倒さねばならないのだろうが、少し面倒くさい事が起こってな。残念だが、これで失礼するよ」


黒ローブの魔将軍シュバイアと名乗った者は俺の方を見て口元に笑みを浮かべたかと思うと、城の壁に吸い込まれるかのようにして姿を消した。

因みに壁にはシュバイアが消えた穴どころか傷一つ付いていなかった。


完全に姿を消した直後、後方から『ドサッ』という音が聞え、振り向くとセフィリアが床に片膝をついて肩で息をしていた。


「セフィリア!? 如何した?」

「な、なんたる威圧感…………あれが噂に聞く魔将軍。姿を消してくれて助かりました、私の実力ではシュバイアと名乗った、あの者に掠り傷一つ負わせることは出来なかったでしょう」

「魔将軍の末席とか言っていたな。魔将軍とやらがどれだけの規模を持っているか分からないが…………」

「私の実力では手に負えない強さを持つ魔将軍が、複数同時に襲い掛かってくると考えると」


俺は未だに身体を震わせて跪いているセフィリアを介抱しながら、シュバイアの消えていった壁を何時までも見ていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ