第177話 最凶国家に蔓延る死人達
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これからも『異世界を渡りし者』をよろしくお願いいたします。
とある世界に巣食っていると言われる悪魔を討伐するため、俺とセフィリアはクロノスの力によって光の精霊が管理する世界に降り立った。
セフィリアが俺との決闘で風の魔法を使用した事で、後から聞いた話では天界の悪魔討伐隊は誰しもが飛行魔法と、俺と同じ超速移動が出来るという事を聞いた。
それで一気にレグリスの国に乗り込もうと提案したのだが、それでは悪魔に此方を感付かれるということで冒険者に扮して街に入る事になった。
「自分で言うのもなんだけど、自分から悪魔討伐に参加する神王って如何なんだろうな?」
独り言のようにボソッと言ったつもりだったが、すぐ横にいたセフィリアにとっては質問されているのだと思われたようで。
「天界では大騒ぎでしたよ。特にガブリエル様から、事の詳細を聞いたミカエル様やメタトロン様が卒倒しかけるほどの騒動に発展しましたから」
「そうなんだ。それにしては、よく俺が下界に行くのを止めなかったものだ」
「こう言っては熾天使の方々に失礼ですが、ガブリエル様に邪な下心があったとはいえ、神王様との御約束を破るわけには行かないので、下界に下りるのを許されたのだと思います」
ガブリエルの下心ね~~っと、そういえば。
「さっきから気になっているんだが…………」
「なんでしょうか、神王様?」
「それだ! その『神王様』というのは止して欲しいんだけど。それに俺の後ろを付き従うように歩くのも」
「そうは申されましても、貴方様は天界に於いて最高位の神様です。一悪魔討伐隊の私が貴方様と歩みを共にするなど恐れ多い事です」
まいったな。其処まで大袈裟にする事なのかな?
「何も知らない下界の人間の近くで俺のことを『神王』と呼んだりしたら、『アイツは一体何様だ?』と言われるかもしれないし、何らかの弾みで悪魔の耳に入りでもしたら俺達が此処に居ることが水の泡になってしまう恐れがあるだろ?」
「そういわれれば確かに。では、何とお呼びすれば?」
「普通にミコトと呼んでくれればいいさ」
と俺は何気なく名前を口にしたのだが、この事が更なる騒動を生んでしまう事となった。
「なっ!? それは神王様の真名ではありませんか! そのような事は絶対に出来ません」
う~ん、困ったな。『神王』は駄目だし、本名の『ミコト』も駄目だとすると。
そうだ! アレなら良いんじゃないか?
「神王様? 如何なさいましたか」
「それじゃあ、俺のことは『ジン』と呼んでくれないか?」
「『ジン』でございますか?」
「そうだ、地下訓練場でセフィリアと戦った時に名乗っていた偽名だ。 これなら俺の名前とは何の関係も無いから気軽に呼べるだろ?」
『神王』の神に濁点をつけただけだけどな。
「了解いたしました。それではジン殿とお呼びする事に致します」
「呼び捨てでも構わないんだけど、少しは距離が縮まったと言う事で良いかな」
レグリスに到着する前に、別の意味で疲れてしまったが数分後に街に入った俺達の眼には信じられない景色が映りこんでいた。
「こ、これがレグリスの国か? 何という…………」
其処は街というよりも、瓦礫の山と言った方が合っている場所だった。
居住スペースであった建物は、明らかに人の手で壊した痕があり、路上に立つ樹木の所々には歯形が。街の中を流れる川に上半身を沈めたまま、息絶えている痩せ細った女性の姿。
そんな中でも一番酷いのは、元々『赤い道では?』と思わせるような、地面に沁み込んでいる夥しい血だった。
更には夥しい量の血だまりの所為で消えかけているが、地面に赤い塗料のような物で描かれた見たこともない文字のような物も見て取れる。
「私も此れまで悪魔に支配された世界を数多く見てきましたが、これは幾らなんでも酷すぎます!」
セフィリアは肩を怒りと悲しみで震わせながら、街の現状を目の当たりにしている。
そんな時、俺達の居る場所から右手の方角にある石造りの建物の方から誰かの気配が感じられた。
「セフィリア!」
俺がセフィリアを呼ぶ瞬間に彼女は既に気配のする方角へと走り寄っていた。
だが其処に居たのは街の住人ではなく。
「ああん? テメエ等、何者だ?」
狂気の笑みを浮かべて、両手と口元を血で染めた男の姿だった。
足元には両手で幼子を抱きしめたまま、男の持つ剣によって親子共々、刺し貫かれて息絶えている母親の姿があった。
「き、貴様! 何を、何をしているのだーーーー!」
刺し殺されている親子の姿を震えながら見ていたセフィリアが腰の剣を抜きながら男に切りかかる。
男も其れを応戦しようと剣を親子から抜こうとするが、何故か剣はビクともせずにセフィリアの振るった剣によって右肩から左脇腹までを袈裟切りにされた。
出血の多さと切り傷の深さから見て即死だと思われたのだが、驚いた事に男は壁に寄りかかった状態で狂ったように笑っていた。
「クハハハハハッ! どうしてくれんだ。折角の身体が台無しだぜ」
「馬鹿な!? あれだけの剣戟を受けて何故生きている!」
男はなおも笑い続けながら、壁伝いに自分が刺し貫いた親子に徐々に歩み寄っていく。
「やはり、グールですか…………」
「グール?」
「低級の悪霊が悪魔の出す波動に引き寄せられたのでしょう。 命の灯火が消えた死体を操って、命ある者を殺しまわっているのでしょう」
「くっくっく…………その通り」
そうセフィリアと話していると先程の男は床に血溜りを作りながら息絶え、我が子を抱きながら息絶えていた女性がゆっくりと立ち上がった。
「俺がグールだという事を知っているテメエは人間じゃねえな? あの御方の手を煩わせるまでもねぇ! 此処で2人纏めて始末してくれるわ」
男………いや、今は女か? 大声で俺とセフィリアを始末すると言った瞬間、俺達が死体だと思っていた街の住人が次々と起き上がり、手に鍬や鎌、包丁、ナイフなどを持ち襲い掛かってきた。
「セフィリア、如何するんだ? どうすれば悪霊達を倒せるんだ!」
「酷な事ですが、住人達の身体を身動きが取れなくなるまで破壊してください。身体が使えなくなれば、悪霊は本体を現します。 其処を炎の魔術、もしくは聖なる魔術で仕留めて下さい」
「苦しみながら死んでいった者達の亡骸をこれ以上、傷つけろとでも言うのか!?」
「はい。それ以外に方法はございません」
此方を追い詰めるようにして徐々に迫ってくる死体を見て、覚悟を決めた俺とセフィリアは心を鬼にして街の住人であったモノを完膚なきまでに破壊していく。
「くそっ! クソッ! くそーーーーー!!」
首がありえない方向に曲がっている老人、胴体の真ん中に大きな穴が空いている女性、頭の右上部が無くなっている子供、先程の女性に抱きかかえられていた幼子が手に各々の武器を持って襲い掛かってくる。