第176話 セフィリアの過去と注意事項
レグリスの実情を載せる予定でしたが、セフィリアの自己紹介兼過去を書いたために文字数が多くなり、実際の戦闘シーンは次回に持ち越しとなってしまいました。
戦闘描写は苦手ですが、なんとか形になるよう次回更新までに書くつもりですので楽しみにお待ちください。
ミカエルや他の天使達と談話をしながら、とても人間の頃では飲む事が出来なさそうな高級感溢れるお茶をがぶ飲みしながら待つこと数分後、漸く部屋にセフィリアが現れた。
「悪魔討伐隊所属セフィリア。召致にあずかり、参上いたしました」
セフィリアが到着して、ほんの数秒後には両手で真っ白な全身鎧を抱えたガブリエルが部屋に入ってくる。
「セフィリアご苦労だった。ガブリエルから既に聞いておるかもしれんが、此度は神王様と一緒に下界へと降りて欲しい」
「はっ! この身では神王様の護衛という大役、誠に荷が重く感じられますが、精一杯頑張らせていただく所存でございます」
「神王様には、この神鎧を装着なされるよう」
ガブリエルの持ってきた鎧を台の上に広げると『何も此処までしなくても』と思わんばかりに、全身を隙間なく覆う白銀の鎧が其処にはあった。
「この神鎧はいかなる魔法をも弾く、魔法障壁が掛けられております」
「いくらなんでも大袈裟すぎないか? 何かあったときに逆に動き辛いと思うんだけど」
「確かに動きづらそうではありますね」
俺が思っていたことを代弁したのは、俺の横から神鎧を覗き込んでいたセフィリアの独り言だった。
その独り言に俺を始としてガブリエルやミカエルの視線が降り注ぐ。
「も、申し訳ありません。出過ぎた事を」
「いや謝らなくても良いよ。俺も同じ事考えていたから」
「そうは仰っても神王様に、もし万が一のことがあれば先代様に申し開きが出来ません」
ガブリエルの言う事も最もではあるが、実際に動きにくそうなので如何すれば良いのやら………と考えながら神鎧を触っていると、上半身と下半身でパーツが分離する事が分かった。
更に細かく弄っていると膝当て、肘当て、肩当てという風により細かく分かれる事に気が付いた。
「それじゃ、上半身と肘関節、膝関節を覆う部分だけを着させてもらうよ。あまりにもガチャガチャしてると戦いになった時に面白くないしね」
「………分かりました。それで善処するとしましょう」
なんとかミカエル達を納得させることが出来た俺は、セフィリアに手伝ってもらいながら鎧を装着していった。
数分後、形になったことで下界行きのカードを手に持って、恐縮しっぱなしのセフィリアを連れてクロノスの『時の宮殿』を目指し歩いていく。
「充分、お気をつけて」
「神王様の無事なお帰りをお待ちしております」
今になって、『やはりあの時に対処しておけば良かった』と思いながらも、後ろ手でミカエル達に手を振り歩いていると不意に物静かだったセフィリアが口を開いた。
「神王様、御質問をしても宜しいでしょうか?」
「ん、如何した? 気になることがあるなら、遠慮せずに言ってくれて構わないよ」
「それでは失礼して。 どうして私などを下界行きのパートナーとして選ばれたのですか? 悪魔討伐隊の中には私が手も足も出ない程の強い戦士が山のようにいるのに」
「セフィリアを選んだ理由か。何個か理由はあるけど、強いて言うとするならば純粋な力だけの強さではなく、なんていうのかな。強さと優しさを兼ね備えた人物? 一回だけ剣を合わしただけだから偉そうな事は言えないんだけれどね」
「強さと優しさですか?」
「最初は愚か者を演じてセフィリアと決闘した俺だったけど、俺が剣の衝撃で吹き飛ばされても追い討ちしなかったし、それどころか罵りもしなかっただろう?」
「ですが、それだけのことで判断するのは、聊か…………」
「それに一度剣を合わしただけって簡単に言うけど、戦って初めて相手のことを理解する事が出来るって言うのも良いんじゃないかな」
「はいっ! ありがとうございます」
セフィリアは喜びを顔全体で表しながら、嬉し涙を手の甲で拭うと見たことのない笑顔で頭を下げた。
そう話している間に天空の門に到着し、門を超えて時の宮殿を歩き続ける。
「そういえば、もしも下界で人を殺めてしまった場合はどうなるんだ?」
「『どうなる?』と言われましても、何の問題もありませんが?」
「ほら、よく言うだろ。人を殺したら地獄行きとか」
「失礼ですが、其れを言ってしまうと戦争で国のため家族のために何人もの人を殺めた英雄は亡くなってから地獄行きとなってしまいますよ?」
「それもそうか」
「人殺しと一言で言っても、先程言ったように『国のため、家族のために人を殺める者』それとは反対に『自らの快楽のために、誰でも良いから殺して楽しむ者』とがあります。この場合、後者は必ずといって良いほど地獄行きは確定ですね」
「今これから行く、悪魔に憑かれた影響で人殺しをしてしまう場合は?」
俺が『悪魔に』と口に出したところでセフィリアの表情が暗く落ち込んだ物となってしまった。
「セフィリア? 言いたく無いなら無理をしなくても良いから」
「いえ、実は私も数十年前に戦争で唯一の家族である、義弟を殺された事で自暴自棄になっていたところを悪魔につけこまれ、天界の悪魔討伐対象者となってしまったんです」
「弟が……それは気の毒に」
「ですが、それは私の早とちりだったようで…………天界で弟の魂が何処に送られたか調べてもらった結果、奇跡的に急所を外れていて命を取り留めていたようなのです」
衝撃の事実というか、大切な家族を亡くした人の弱さにつけこんだ、本当の意味とは別に悪魔のような存在だな!
「悪魔に憑かれた者は身体ごと天界に送られ浄化した後、裁かれるのです」
それで以前にガブリエルに聞いたときにも口を噤んだわけか。
「私の場合は全てを悪魔の所為ということで無罪となりましたが、私と同様に悪魔に憑かれて苦しんでいる人達を助けるべく、悪魔討伐隊に志願したのです」
「分かった。もういい、もういいから頑張ったんだね」
そんなこんなでセフィリアを慰めながら『時の宮殿』に足を踏み入れると、クロノスが厭らしい笑みを浮かべながら此方を見ていた。
「女性を泣かせるなんて、ミコトも隅に置けないねぇ~~」
「そ、そんな意味じゃなくて、俺の質問の所為で古傷を抉ってしまったというか、なんと言うか」
「ふふっ、しどろもどろになって慌てなくても、君がそんな事をするとは思ってないから大丈夫だよ」
「分かっていて俺をからかっていたのか!?」
「ま、そんな事よりも下界に行くんだろ? 用意するから両腕を前に出して」
なんか、はぐらかされたような気もするけど。
と何気にセフィリアの方を見ると俺とクロノスの遣り取りを見て、笑みを浮かべていた。
クロノスにからかわれた事には腹が立つけど、セフィリアが元気になったのなら良いか。
「さて、精霊の認識を狂わす腕輪を固定して。それに帰還用の指輪っと此れで準備は整ったよ。それじゃあ悪魔の情報カードを渡してくれる?」
「あ、ああ此れだ」
そう言って俺はズボンのポケットに入れてあったカードを手渡すと、クロノスの表情が一瞬曇った。
「カードに記されている時間枠を見る限りでは、昔の君がまだあの世界にいる様だね。分かっているとは思うけど、昔の自分には会わないようにね。最悪、両者消滅っていう形も有り得るから」
「脅かすなよ。実際に消滅した例でもあるのか?」
「あるよ。何十年か前の悪魔討伐隊の隊員が、無謀にも悪魔に憑かれる前の自分に注意するために意図的に手を触れてしまってね。その時点で2人とも、もがき苦しんで数秒後に存在が消滅するという事故があったんだ。過去の自分が何らかの事故で消滅するようなことにでもなれば、現在の自分もタイムパラドックスで存在しないことになってしまうからね」
「そんなことが…………噂話程度には聞いていましたが、本当の事だったとは」
傍で会話を聞いていたセフィリアも覚えがあるのか、口を手に当てて驚愕の表情を見せていた。
「でもま、前の君はレグリスって国には近づかなかったんだろ? なら安心して行って来なよ。じゃ送るから気を楽にして其処に立ってよ。セフィリアって言ったっけ? 君もミコトと背中合わせになるように、そうそうそんな感じで」
背中越しにセフィリアの心音が伝わってきそうなほどに密着した俺とセフィリアは、クロノスに言われるまま深呼吸した後、一瞬にして草原に立っていた。
遙か先に瓦礫のような荒れ果てた町の景色が見えることから、レグリスの傍に降り立った事が分かった。
そして意を決した俺とセフィリアは遠くに見えるレグリスに行くべく足を進めるのだった。