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異世界を渡りし者  作者: 山田 隆行
天界編
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第172話 熾天使と剣の精霊

ガブリエルに下界に下りたいと口にした翌日、朝食を食べていると『決闘の用意が整った』と聞かされた。


ただ、その際に対戦相手に本気を出させるために、俺の正体を隠すようにと鼻頭からオデコまでを隠す仮面をつけるように言われる。


「では神王様、約3時間後に地下訓練場で試合をしていただきます。対戦相手には『自信過剰な者を完膚なきまでに打ち倒せ』と言ってありますのでご注意ください。ちなみに手加減は無用ですので」

「試合は普通の剣を使うのか?」

「いえ、貴方様に大怪我をされては大事になりますので、刃を潰した剣で『急所への攻撃は無し』というルールで執り行います。勝敗についてはステージの外に出るか、戦意を損なった場合、負けが確定します」


刃を潰した剣での決闘か………良くて打撲、悪くても骨折というところか。

戦意喪失か場外かで敗北か、最悪の場合は無理矢理場外に押し出せばいいかな。

まぁ、実際に下界で悪魔を討伐する戦士だし、そう簡単に決着をつけることは出来ないだろうけど。


「それでは神王様、3時間後にお迎えに上がりますので御用意を」


ガブリエルはそう言いながら部屋を後にした。


一方その頃、ミコトの対戦相手になる者はというと。


「ウリエル様、本当に私で宜しいのでしょうか?」


神王であるミコトと数時間後に剣を交える事となる戦士は、柔軟体操を念入りに行いながら心配そうな目をしてウリエルを見上げている。


「ガブリエル様から事前に聞いた御話に因ると『天狗の鼻を圧し折ってやれ!』との事でしたが、将来的に良き戦士となるかもしれない者を此処で潰してしまうのは如何なものかと」

(困りましたね。神王様のことを教えるわけにはいきませんし…………如何したら納得させられるのか?)

「ウリエル様? どうかなさいましたか?」

「いえ、何でもありません。此方と致しては、上には上がいると彼に知らしめたいのです」


その後は中々納得しない彼女に以前から提案があった、悪魔討伐隊の休日を増やすことを条件に無理矢理、納得させる事になってしまった。


そんなこんなで瞬く間に時間が過ぎて行き、決闘の時間と相成ってしまった。


「神王様、お時間です。御用意は整いましたでしょうか?」

「ああ、大丈夫だ」


この時の俺は天界に上がってきた時に着ていた鎧を身に纏い、更に決闘で使う事はないだろうが、ルゥを腰に挿して目元を隠す仮面をつけていた。


「これから決闘場に参りますが、この部屋から出てからは貴方様をただの兵という眼で見ます。本来は許されざる行為なのですが、如何かお許し願います」

「いや構わない。偉い立場の熾天使が、何処の輩とも知れない俺の前でへりくだったりしたら周囲から奇異な眼で見られかねないからな」

「有難うございます。では行きましょうか」


そうして俺達は部屋から出るところを、他の天使にみられないようにして廊下へと出た。


「これから貴方には此方の用意した戦士と戦ってもらいます。自分がどれ程の自信過剰者だったか、その身に刻み込んで差し上げます」

「ふんっ! 誰が来ようとも、無様に地面に這い蹲らせることに変わりはない」

「そんな事を口に出来るも今のうちです。精々、後悔するといいですね」

「クックック………」

「何が可笑しいのです!」

「俺の心配よりも、これから戦う相手の身体を心配した方が良いんじゃないのか?」


こうして俺は敢えて愚者のような芝居をしてガブリエルと会話しているのだが、ガブリエルの方も其れに面白がっているのか、中々ノリの良いことをしてくれている。


天界の通路を忙しそうに飛び回っている他の天使達も、俺のことを蔑むような眼で睨みつけ、誰も俺が神王本人だとは思ってもいないようだ。


(マスター、完全に遊んでますね。ガブリエル様も見かけによらず、ノリノリの御様子ですし)

(何の打ち合わせもしていない筈なんだが………彼女も普段は固いイメージだけど、思いのほか面白がっているようだし大丈夫だろう)


とルゥと念話で会話をしていると、思いも因らないところから念話が届いた。


(あら? 神王様には、そのように思われていたのですね。私はこのようなことは大好きなのですよ?)


謎の声が聞えて咄嗟にガブリエルが居る方に眼を遣ると、此方の意図が分かっているかのようにパチッと片目をウィンクしていた。


(驚いたな。ガブリエルも念話が使えたのか)

(ある一定量以上の魔力を持つ天使は使えて当然ですよ。神王様とルゥさんとの会話を盗み聞きしていて誤解があったようでしたので失礼とは思いましたが、割り込ませていただきました)


ルゥは声を若干震わせて、ガブリエルに先程のことを問いかける。


(す、すると先程の事も、もしかして聞こえてらっしゃいました?)

(ええ、全て聞えていましたよ。気分はノリノリです♪)

(し、失礼しました。熾天使様に対して、なんて大それた事を)

(気にしてませんから大丈夫ですよ。それと普段どおりに話してくれても大丈夫ですよ)

(いえ、滅相も無い。私みたいな一精霊如きが熾天使と会話など)

(どうやら、ルゥさんは御自分のことを過小評価なされているようですね。神王様が下界より、お持ちに成られた剣ということでルゥさんは神剣という扱いになっているんですよ?)

(私が神剣ですか!? 一時期は持ち主を傷つける呪いの剣と言われ、恐れられた私が?)


まぁ、確かに昔は波状の合わない持ち主を傷つける呪いの剣として恐れられていたようだけど、それは別にルゥが悪いわけじゃないだろうし。


(はい。ですから自信を持ってください)

(有難うございます)

(まだ固いですねぇ~~私の事は呼び捨てで構いませんよ? 私もルゥさんとお呼びしますし)

(えっ!? ガブリエル様?)

(ほら、一度練習してみましょうか。ガ・ブ・リ・エ・ルと)

(ガ、ガブリ、ガブリエル………さん)

(『さん』も要らないのですが、ゆっくりと慣れて行きましょうか)

(……はい)


そう言って俺達は考えている事を顔に出さないようにして心の中で笑い合い、足を地下訓練場へと進めるのだった。


「着きましたよ。此処がこれから貴方が戦う場所です」

「ほう。中々凝った作りじゃねえか」


見ると大体20m四方ほどの、床から1mほどの高さのあるステージが広い空間に幾つも備え付けられていた。


そしてそのうちの一つに俺の対戦相手なのか、1人の女性がステージ上で準備運動しながら此方を睨みつけていた。


「うっ! 何見てんだよ」

「如何しました? 怖気づいたのでしたら辞めてもいいのですよ?」

「だ、誰が!」

「では頑張りなさい。期待はしていませんが」

「ふんっ、言ってろ」

(彼女は悪魔討伐隊の実力者です。向こうには貴方様のことを『自信過剰の愚か者』と言ってあるので、本気でやらないと足元を掬われますよ?)

(俺が怪我をしないように、神にでも祈っていてくれ)

(私が御仕えする神は貴方様唯御1人です。さぁ頑張ってください)


こうして俺はガブリエルに促されながらステージに上り、試合開始の合図を待った。



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