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異世界を渡りし者  作者: 山田 隆行
天界編
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第170話 元宮廷魔術師、現メイド?

『神々の儀』の翌日、俺はクロノスの元に行くために廊下を歩いていた。


部屋で朝、目覚めた時に『俺は天界でどんな仕事をすれば良いのか?』とガブリエルに聞いてみたのだが、此処で思いもよらない答えが帰ってきた。


ガブリエル曰く『天界で最高位の地位にある貴方様に仕事をさせるなんてとんでもない! 下仕事は全て、私達が執り行うので貴方様は日々を自由に過ごされてください』との事だった。

日々を自由にとは言われても何をすれば良いのか分からなかったので、天界に来る時に巻き込む形となってしまったイシュナムの様子を見るためにクロノスの宮殿へと足を進めるのだった。


「それにしても…………瞬間移動みたいな形で、目的地にパッと移動する道具なんて無いものかな。魔道具に『4次元ポケット』みたいな物があるぐらいだから『どこでもドア』が何処かで開発されないかな」


因みに出掛けに『いちいち、天空の門を開けて外に出なくてはならないのか?』と聞いてみたところ、一度でも門を開いた存在なら近づくだけで自動的に門は開かれるとの事だった。


逆に誰かが其れを利用して天界に侵入しようとした場合はどうなるのか? と聞いてみると、門が独自で心の中にある悪意を見抜き、然るべき報いを齎すらしい。


「分かってはいたけど、部屋から最短距離を辿っても天空の門まで片道30分って遠すぎだろ」


別に30分の道程を歩いて来ても疲労感も息切れもしてないが、『せめて自転車かバイクでもあれば』と考えてしまうのは横着になるんだろうか?

そんなこんなで天空の門に到着するとガブリエルの言うとおり、門が一瞬光ったかと思うと自動扉かのように左右に開いてゆく。


其処から更に一本道を全力で走りぬけ、僅か10分でクロノスの宮殿に到着した。


「なんでこんな離れた場所にいるんだ?」

「僕自身が人付き合いを面倒だと考えているからだよ」


誰にも聞えない、独り言のつもりでポツンと口にしたのだが、何故か返答が帰ってきた。


「やぁ、昨日ぶりだね」

「俺が此処に来るということを事前に知っていたのか?」

「そういう訳じゃないけど、長生きすると勘が働いてね。そろそろ来る頃だな~と思って迎えにきたら、独り言を呟いている君が見えたから相槌を打っただけさ」


そう言ってクロノスは俺の手を引いて宮殿へと入っていく。


「此処は滅多に客は来ないからね。ゆっくりして行くと良いよ。今、お茶の用意をさせるから少し待ってて」


クロノスはそういうと近くに立っていたメイド服の女性にことづけを頼んでいる。

その顔は何かの悪戯を思いついた子供のように笑みを浮かべている。

まぁ、実際の年齢は兎も角として姿形は子供なのだが………。


「巻き添えって形で天界に連れてきてしまったイシュナムが、如何しているのか確認しに此処に来たんだけど、彼女は今どうしてる? 下の世界に戻るように言わなかったのか?」

「勿論、言ったさ。ただし、下界に戻す時に此処で見たり、聞いたりした内容を記憶から消すって言ったら途端に青い顔をしてね。じゃあ折角だから『此処で働いてみる?』って冗談半分に聞いてみたら、すんなり了承しちゃって」


幾ら彼女には身内がいないからと言って、天界に残るというのは如何なんだろうか?

っと、其処へポットと湯呑を手に持ったメイド服姿の女性が姿を現した。


「お、お茶を、お、お持ちしました」

「ご苦労さん。折角だから君も一緒にお茶する?」

「い、いえ、一刻も早く仕事に慣れないといけませんから」

「そんな事言わないで楽しもうよ。折角此処にミコトがいるんだしさ」

「へっ!? ミコト?」

「よっ! 元気にしているか?」


良く見てみると、お茶を運んできたのは髪型を変えメイド服に身を包んだイシュナムの姿だった。


「クロノス様から聞いていたけど、未だに信じられないわ。ミコトが神様だったなんて」

「ほらほら、気をつけないと。下手に神王の真名を呼び捨てなんかにしたら、不敬罪で首を刎ねられても文句言えないよ。此処にいるのは僕の事を理解してくれている家族だけだから心配しなくても良いけど、天空の門の向こう側だと確実にコレだよ」


そう言ってクロノスは自分の首を手で切るような真似をする。

其れを見ていたイシュナムも次第に顔色が変わっていき、此方に頭を下げてきた。


「し、失礼しました! 神王様には御機嫌麗しゅう」

「似合わないから何時もどおりで良いよ。俺も堅苦しい挨拶は苦手なんでね」

「という事らしいよ。良かったね」

「はぁ~~~何時も思うんですがクロノス様、私をからかって遊んでいるんでしょう」

「分かった?」


クロノスは子供のような素振りで舌をだして笑っている。

実際は此処にいる誰よりも年上なのだが。


「それにしても、イシュナムはどうして下界に戻らなかったんだ? 下の世界で宮廷魔術師という地位についていたんじゃなかったのか?」

「そうなんだけど、日常に厭きていたとでも言うのかな。天界に来た最初の頃は『見知った顔が誰も居ない世界から、直ぐにでも逃げ出したい』と思っていたんだけど、此処にある貴重な書を前にしたら、学者の血が騒いじゃって」

「彼女を落ち着かせるために一冊の本を読ませたんだけど、逆に興奮しちゃって。気分を落ち着かせた後で下の世界に戻るかどうかを選択させようとしたんだけどね」

「この世界の成り立ちを書いた本を読まされて、興奮するなという方が無理ってものです。更に下の世界に戻すにあたって、記憶を消すなんて言われたら反対するに決まってるじゃないですか!」

「クロノスって確信犯?」

「そういう訳でもなかったんだけど」

「それに宮廷魔術師を何時辞めるか、悩んでいたという事もあるし」

「宮廷魔術師を辞める?」

「私、あの国の宮廷魔術師になって、既に5年の年月が経過していたんだけど、そろそろ年齢を誤魔化すのが難しくなって来ちゃってね。ハイエルフであることは隠していたから………たった5年なら、適当な理由で幾らでも逃げられたし」

「いっそのこと、自分が1830年、生きてるって事を暴露してしまうっていうのは?」

「駄目だよ。人間は自分達に理解できない生き物は『化け物』と認識するんだよ!? 私はあの国に行き着くまでに『魔女』と罵られたり、歳を取らない事で『悪魔に魅入られた子供』と呼ばれたりと大変だったんだから」


イシュナムはそう言うと、顔を両手で押さえて其の場にしゃがみ込んでしまった。

顔に添えられている指の隙間から微かに水滴が滴り落ちている。


「やれやれ、僕が言えた事ではないけど女性を泣かすなんて悪い男だね。君は」

「そ、そんなつもりは」

「ふふふっ、冗談だよ」


クロノスは口元に笑みを浮かべながら他の侍従の女性にイシュナムを預けると、お茶で口元を湿らせながら言葉を口にした。


「君が此処に来た理由はイシュナムの事だけじゃないんだろう? 人払いをしておいたから、周りを気にしないで話してごらんよ」

「流石に何でもお見通しか」

「伊達に長生きしちゃいないからね。さっ吐いちゃいなよ、なんなら『かつ丼』でも出前させようか?」

「何処でそんな事を憶えて来るんだか………って何気に俺、容疑者扱いになってる!?」


その後もノリに乗り捲くったクロノスを宥めて、凡そ1時間後にやっと本題に移ることができた。

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