第169話 神々の儀
熾天使情報はWikiと本にて調べ上げました。
部屋から出た俺を待ち受けていたのは、廊下をくまなく埋め尽くすほどの天使達だった。
床だけでは収まらず、空中にまで羽根を広げて漂っている天使もいるが、頭上から神王である俺を見下ろす行為というのは、果たして如何なのであろうか。
「神王様、皆貴方様の存在をを心から待ち望んでいたのです。その気持ちに応えてあげて下さい」
「そうは言うが、此れだけ沢山の人…………いや、天使の目線に晒されると、どこか恥ずかしくてな。もしかしたら、この中の誰かに陰口を叩かれてるんじゃないかと思うと」
「そのような愚かな行為をする者など、居る筈がありません! 仮にいたとすれば、私自らが天罰を下しますので堂々と背筋を伸ばし、顔を皆に見せてあげてください」
俺は後方にいるガブリエルに言われるまま、天使が埋め尽くす廊下を羞恥心を我慢して(半ばヤケクソ)で自分の姿を誇示するかのように、天使が犇めき合う廊下を約20分、歩き続けた。
その後、階段を上がり、此処より上の階にあると言われた執務室へと足を踏み入れる。
執務室と呼ばれた其処は俺の居た部屋の5倍は、ゆうにあるほどの広さだった。
「此処が執務室か。ん? あれは…………」
部屋の一番奥には威圧感を漂わせる豪華な執務机が置かれており、其処に行くまでに連立する巨大柱が左右に並べられ、柱ごとに1人の天使が膝を折って跪いている。
廊下で犇めきあっていた、数多くの天使たちと比べると体格にしても威圧感にしても、全くの別物のような容姿だ。
良く見ると、天空の門を開いた時に俺を出迎えた天使も執務机に近い場所に膝を折って跪いていた。
「では神王様、奥の机へとお進みください」
俺の後にいたガブリエルも、そういうや否や他の天使達と同じ様に柱の元で膝を折り、跪いた。
俺は言われるままに執務机と対になっている豪華な椅子に、恐る恐る遠慮がちに腰を下ろした瞬間、柱の前で跪いていた全ての天使達が一斉に立ち上がった。
その立ち上がった天使の中から天空門で俺を出迎えた、2人の天使のうちの1人が俺に対して深深と頭を下げた後、執務室に響き渡る大きな声を発した。
「それでは、これより『神々の儀』を執り行います!」
(ガブリエルからは『何もしなくても良い、時折神々や天使に相槌を』と聞かされたが、実際にはどういうものなんだろうな)
(それにしてもマスターが一番偉い神様だなんて、今でも信じられません)
(そりゃそうだ。何しろ張本人である俺が一番吃驚しているからな)
(マスター? 天使様が呼んでますよ)
ルゥに言われて意識を現実に戻すと『神々の儀』開幕の宣言をした天使が心配そうな眼差しで此方を見ていた。
「神王様? 御身体の調子が悪いのですか?」
「い、いや少し考え事をしていただけだ。始めてくれ」
「分かりました」
開会を宣言した天使が手を上げて合図をすると、何処からか喇叭の音が鳴り響いてきた。
「時空神クロノス様、御来場!」
クロノスの名が天使の口から発せられると、俺の着ている騎士服の色違いの衣装を纏ったクロノスが執務室の扉を潜って此方へと歩いてくる。
そして執務机の少し前で立ち止まると頭を下げて一礼し、内緒話をするかのように言葉を発した。
「神王就任おめでとう。君が連れてきた娘は僕が責任を持って預かってるから、何も心配しないで」
クロノスは其れだけを言うと再度御辞儀をし執務室を退室してゆく。
「続きましてオーディン様、御来場!」
此方もクロノスと同じ様に俺の前で頭を下げると、ある一言を口にした。
「若いとは聞いていたが…………まぁ、前線に出すわけにもいかぬし、問題ないか」
オーディンは品定めをするかのような眼で気になる一言を呟くと、そのまま踵を返し部屋を後にした。
(どうやら『神々の儀』というのは、他の神々との顔合わせだと思えば良いのかな?)
その後も神話の世界に登場するような数多くの神々が執務室を訪れ、一言二言を口にして去っていく。
「ただ座っているだけとはいえ…………何時間も同じ姿勢は流石に疲れるんだけど」
それから更に3時間が経過したところで日付が変わり、漸く『神々の儀』が終了した。
「やっと終ったーーー!」
「お疲れ様でした。では最後に我々の自己紹介で締めくくりたいと思います」
そういうや否や天界門でも顔を合わせた2人が一歩前に出て、胸に手を当てながら名乗る。
「私は熾天使メタトロン。其方にいるのは私の弟でサンダルフォンと申します」
「私と兄メタトロンは天界にて、天使達を指揮しております。神王様とは実際に顔を合わす機会が少ないと思いますが、宜しくお願い致します」
あまり顔の似ていない兄弟熾天使は最後に揃って頭を下げ、執務室を退出した。
「次は私達ですね。ガブリエルは既に名乗りを終えていると言っていたので残りの3人を」
そういうと1人の天使が俺の眼の前で膝を折って跪き、残りのガブリエルを含む3人がその後で跪く。
「先ず最初に私はミカエルと申します。後のガブリエルを除く2人は左からラファエル、ウリエルです」
するとミカエルに紹介された3人の天使が立ち上がり、此方に頭を下げる。
「「「「我等4人、神王様とともに!!」」」」
この4人は仕事においてもプライベートに於いても俺をサポートしてくれる存在なのだそうだ。
現にガブリエルは俺の食事の世話などをしてくれているし。
後から聞いた話によると都合が悪く此処には来れなかったが、他にも七大天使と呼ばれる、サリエル、ラグエル、レミエル、ザドキエル、ヨフィエル、ハニエル、カマエルの7人がいるらしいのだが、誰が俺と一緒に仕事をするか、誰が俺の世話役になるかという事で一悶着あったらしい。