第167話 世話役天使
うまく書きたいことを表現できませんでした。
次回更新はこのようなことが無いように頑張りたいと思います。
あれから、どれほどの時間が経過したのだろう…………。
俺が眼を覚ますと、部屋の隅で此方に背を向けて何かを作っている女性がいた。
余程何かに集中しているのか、俺が目を醒ました事には全く気がついていないようだ。
よく病院の看護婦のことを『白衣の天使』と比喩することはあるが、俺が見ている女性は正真正銘、真っ白な衣を纏い、真っ白な翼をもつ天使だった。
「…………此処は一体」
俺ぐらいの体格をした者が5人は寝転がっても、まだ余裕がありそうな巨大ベッドに寝かされていた俺は、見覚えの無い部屋に違和感を感じ取っていた。
(マスター、御身体は大丈夫ですか?)
(すまない、心配をかけた。それにしても俺はどうして此処にいるんだ?)
(マスターを部屋に運んだ天使様の話によれば、この部屋はマスターの私室になるんだそうです)
私室って流石に俺1人では広すぎるだろ?
ベッドの上から軽く見まわしただけでも、私室とやらは体育館ほどの広さがある。
(此処に何人が入れるんだよ。良く見れば、台所やトイレ、風呂場まで完備されてるようだし)
ベッドの正面の壁には壁掛け時計が掛けられて、長針は8時を指している。
部屋をよく見回してみてると、窓にはカーテンが掛けられており、今が朝なのか夜なのか分からなかった。
(部屋の隅で何かをしている、あの女性天使は?)
(あの方はマスターの健康管理や体調維持を任された天使様らしいのですが、あの様子だと此方に気づいてらっしゃいませんね)
(取り敢えず、身体を起こそう。何時間寝たか分からないけど。頭がスッキリしてるし、何の疲れも感じないな)
(マスターが倒れられてから、丸1日が経過しています。その間、色々な天使様がマスターの顔色を見ては心配そうにしてました)
ルゥから丸1日眠っていた事を聞かされた俺は何時までもこうしてはいられないと思い、布団を剥いだまでは良いのだが、何故か服は着ておらず、トランクス一丁で横たわっていた。
「なっ!? 俺の服は?」
自分が服を着ていないことに驚き、咄嗟に大声を出してしまったため、部屋の片隅で何かをしている女性天使が急いで此方に駆け寄ってくる。
「あ、お目覚めになられたのですね。今、お食事のご用意を致しますので、暫くお待ち下さい」
女性天使は俺に対して深深と頭を下げると、自分の持ち場に戻ろうとするので、咄嗟に俺の服が何処に行ったの聞いてみると。
「神王様の御洋服は汚れが大変目立ったために、失礼とは思いながらも処分させていただきました。承諾を得ずに処分してしまった事をどうかお許し下さい」
「いや、それは別に構わないんだけど、何か代わりの服はあるかな? 何時までも下着一枚だと、恥ずかしくて君の前にも出られないしね」
俺がそういうと女性天使は何かを想像してしまったのか、顔を耳まで真っ赤に染め上げて俯いてしまった。
「か、代わりの御洋服は其方のクローゼットの中に色々と御用意させてあります。お気に召す物があれば宜しいのですが」
女性天使は此方を極力見ないようにしてベッドの後方を指差した。
指さす方向に目を向けると、其処には壁一面にクローゼットが備え付けられており、一体何着の服を用意したのか想像出来なかった。
俺はシーツを身体に巻きつけて簡易的な衣服にすると、目の前に陳列されているクローゼットへと足を運んだ。
「さて、俺に似合う服があれば良いんだけど…………って、何じゃこりゃ?」
クローゼットを開くと、異世界に渡る前まで一般的に着ていた、ポロシャツやGパン、スラックス、スウェット等と、何故かドレスやスカート、ワンピースという女性の衣服までもが下がっていた。
「俺は見てのとおり男だぞ? どうして女性物の服が此処に置いてあるんだ?」
「実は先代の神王様が後継者…………つまり貴方様の事なのですが、その性別をお言いになる前に亡くなられたので、天空門を開けて到着なされるまで性別は不明だったんです。なので取り敢えず、男性の方が来られても女性の方が来られても良い様にしたのですが」
まぁ、言っている意味は何となく理解できるけど、男性物の服に混じってドレスやらワンピース、終いには女性の下着類まで並べるのはどうかと思うぞ。
なるべく女性物を見ないようにしてTシャツとポロシャツ、スラックスを手にとって身に着けていく。
「もうこっちを見ても良いぞ」
「はい。うわぁ~~良くお似合いです」
「クローゼットの中の女性物だけど、俺は着ないから処分してくれないか? 欲しい物があったら皆で分けても良いから」
女性天使は未だに開けっ放しのクローゼットの中に置かれている、純白ドレスに眼を釘付けにしている。
「えっ? 宜しいのですか?」
「ああ、俺には女装する趣味はないからね。ただ喧嘩しないようにしてくれたら其れで良いかな」
「分かりました。有難うございます! 皆も喜びます」
女性天使は両手を合わせて、喜び勇んでいるようだ。
ちょうどその時、俺の腹が空腹に耐えかねたのか、盛大な音を部屋の中に響き渡らせた。
「くすっ、今食事のご用意を致しますね。テーブルについて、もう少しお待ち下さい」
そう言われ、1人掛けには大きすぎるテーブルに肘掛ながら暫く待つと、美味しそうな香りを漂わせるスープを始め、様々な料理がテーブルの上に並べられてゆく。
「張り切って、多く作りすぎてしまいました。此方に遠慮せずに、お口に合わなければ残されても構いませんから、ごゆっくりお召し上がり下さい」
「君は食べないのかい?」
「私如きが神王様とお食事を共にするなど、そのような大それた事をできません」
俺は1人で食事するのも寂しいので何とか彼女にも一緒に食事をさせようとするが、やんわりと断られてしまった。
それからは、あまりにも美味な料理に舌鼓を打ちながら、出された料理全てを平らげるのであった。
女性天使も作りすぎてしまったと思っていた料理が、どんどん無くなっていくのを見て驚いている。
「ふぅ、ご馳走様。 美味しかったよ」
「お粗末さまでした」
女性天使は舐めるようにして綺麗になくなった皿(実際は行儀悪く舐めていたのもあったが)を次々とキッチンへと運び、洗ってゆく。
「それでは私は此れで失礼致します。あっ申し遅れました」
女性天使は洗い物を終えた後、部屋を出て行こうとして何かを思いついたように振り返ると、静かに歩みより、手をふくよかな胸の前に置いて頭を下げると自己紹介をしてきた。
「私は今日から貴方様のお世話をさせていただきます、ガブリエルと申します。以後、宜しくお願い致します」
「ちょっと待って、ガブリエルってラファエル、ウリエルと並ぶ、セラフ3大天使の1人だろ!?」
という事は天空の門で俺を出迎えた天使はラファエルとウリエルって事になるのだろうか?
「お詳しいんですね。その通りでございます」
まぁ、某悪魔召喚ゲームが大好きだったからな。
あんまり、自慢できる事でもないけど…………。
「それでは、また明日の朝7時にお迎えに上がります。午前10時からは貴方様が光臨なされた事を祝う『神々の儀』がございますので、皆への紹介はその時に」
ガブリエルは其れだけを言い切ると、今度こそ踵を返して部屋を後にした。
(まさか彼女が熾天使ガブリエルなんてな。そんな偉い立場の天使が俺の世話だなんて良いんだろうか?)
(マスターは最高神みたいですので宜しいのでは? 私も次からはマスターの事を神王様と呼ばなければならないでしょうか?)
(それだけは止めてくれ。これまでと同じ『マスター』で良いから)
(はい! 分かりましたマスター)
俺はせめて此れまでの旅を共にしてきたルゥにだけは、今までどおりの呼び方でいて欲しいと願いながらベッドに横になった。
「あれ? そういえば、イシュナムはどうしたんだろう? まぁ、後からクロノスの宮殿に顔を見に行けばいいか」
明日がどうなるのか心配をしながら、少し前まで身体を横たえていたベッドで寝息を立てるのだった。