第165話 時空神クロノス
2012年、本年もよろしくお願いいたします。
活動報告で『パソコンが壊れた』と書きましたが、修理の見積もりを聞かされるとノートパソコンを購入した方が得だと聞かされ、急遽購入しました。
パソコンが修復されて帰ってくるまで読者様を待たせてしまうかもと考えていたので、結果的にはよかったと思います。
俺は国境の街クレイアスから歩いて3日ほどの場所にある、何人をも寄せ付けぬ、白き塔の中で雷の精霊と出会い、更には闇の精霊王に逢う事も出来た。
その後、2大精霊王に逢った事で天界へと誘われる事となり、俺の身に光の滝が降り注がれたのであった…………約1名の巻き添えとなった少女と共に。
やがて光の滝が収まった頃には先程まで立っていた塔の姿は何処にも存在してはおらず、俺の目の前にはパルテノン神殿を思わせるような、白い宮殿が聳え立っていた。
そして俺の両脇には何時の間にやら、肩を露出した白い衣装を身に纏った、銀色の髪色をしている2人の女性が跪いていた。
俺の後ろには事態についていけないのか、地面に尻餅をついたまま、首をキョロキョロと動かしているイシュナムが驚愕の表情で固まっている。
「えっと、貴女達は? どこかで逢ったような気もしますが」
「くすっ、この姿では初めましてですね。私は光の精霊王ミラでございます」
「私は闇の精霊王です」
「本当にミラなのか!? その姿は一体…………」
「その御話も含めて、今からとある御方に会っていただきますので此方へどうぞ」
光の精霊王、闇の精霊王と名乗った女性は服の袖で笑みが浮かんだ口元を隠すと不意に立ち上がり、俺を白い宮殿の中に誘うように足を運ばせる。
「ちょ、ちょっと待って! 此処は何処なの? 貴方たちは一体何者なの!?」
此処に来て漸く、我に返ったイシュナムは浴びせかけるようにして疑問を投げかけてくる。
「私達はさっきまで白き塔に居た筈よね。それから見たこともない、光の中に入ったと思ったら何時の間にかこんな場所に。もう訳がわかんないよぉ!」
「『こんな場所』とは酷い言い草だね。此処は本来、君のような存在は決して立ち入れない場所なんだよ?」
そんな声が聞えた方向に振り向くと、其処にはミラたちと同じ様な衣服を着込んだ少年が宮殿の厳かな柱に身体を預けて立っていた。
「光と闇の精霊王もご苦労だったね。ミコトも元気そうで何よりだ」
「「勿体無き御言葉でございます」」
光の精霊王は右膝を立てて少年に跪き、闇の精霊も左膝を立てて跪いた。
俺もそうしようとした所で目の前の少年に手で制される。
「ミコトはそんな事をしなくても良いんだよ! 何せ、君の地位は僕よりも、もっと上になるんだからね」
少年は俺と光と闇の精霊、あとは仕方ないと言わんばかりにイシュナムも宮殿の中に招き入れた。
宮殿の内部は外見以上に豪華な造りとなっており、中で複数の女性がミラたちと同じ様な衣装を着て此方に跪いていた。
そして俺を豪華な対面式の椅子に座らせると、自分自身も備え付けられている椅子にそっと腰を下ろした。
「それじゃあ、少し遅くなったけど自己紹介をしようか。光の精霊王、闇の精霊王は逸早く名乗ったみたいだけれどね」
「ちょっと待ってください。俺の知る精霊は実体が無い存在の筈だったんですが?」
「さっきも言ったけど、君の立場は僕よりも上なんだよ? そんな君が僕に対して敬語を使ってどうするの? この宮殿の中なら良いけど、此れから先もそんな口調だと皆に舐められるよ」
「すいません」
「ほら、また。まぁいいや、ゆっくり慣れていけば…………っと、質問では精霊が何故実体化しているかという事だったよね。光の精霊王、君から言うとミラだっけ? から前に簡単な説明があったと思うけど、此処は人間界、精霊界の上にある天界と呼ばれる場所なんだ。神気…………ああ君達の言い方でいうと、魔力みたいな物が濃い世界なんだよね。だから上級精霊以上が天界に来ると実体化できるって訳、分かった?」
「じゃ、前にミラが俺の魔力を吸収して実体化したと言う現象と同じ事が起こったという訳か」
「御名答! いや~~物分りが良くて助かるよ」
「ちょっと! 天界だとか、精霊王だとか、神気だとか、一体全体如何いうことなのか、いい加減説明してよ!」
此処で静かに事の成り行きを見守っていたイシュナムがとうとう我慢の限界を迎えたのか、声を大にして立ち上がり俺に詰め寄ろうとしてきたが、難なくミラと闇の精霊王に取り押さえられた。
「何すんのよ! 離してよ」
「貴女はまだ、ご自分の立場という物を理解しておられないようですね」
「今この場に居られるのは世界の創造主と言われる御方なのですよ!?」
「創造主? ミコトも? あの憎たらしい子供も?」
「言うに事欠いて何たる暴言。かくなる上は…………」
「其処までだよ、闇の精霊」
「ですが!」
「自分のことを何も説明していなかった僕の方にも非があるしね。じゃあ改めて名乗ろうか、僕の名はクロノス。皆は時空神クロノスと呼ぶ」
「時空神クロノス…………」
その名が示すとおり、時間・時空を操る神か。
見た目は少年でも、実は可也の年齢ということも?
「見かけは君の言うように子供の姿だけど、年齢は数えるのも嫌になるほどの高齢さ」
少年はそういうと、実際に俺達の前で顔を皺くちゃの老人に変えたり、幼い子供の顔に変化させたりと目の前で起こっているにも拘らず、信じられない現象が巻き起こっていた。
「ほらね。これで信じてくれた?」
クロノスと名乗った少年…………いや、時空神クロノスは此方の考えている事が筒抜けかのように俺に対して小さくウィンクすると、自分の胸に手を当てて説明をした。
「あなたが神様? じゃあミコトも?」
「彼は事実上、天界でもっとも上位の立場にある神王と呼ばれる方だね。別の言い方にすると、天界に於いて一番地位の高い存在という事になるかな」
「俺が最高位の神になる!? 何かの冗談ですよね?」
「冗談なんかじゃないよ。聞いていなかったのかい?」
俺はそっとミラのほうを見ると、小さな声で『初めてお会いした時に御説明した筈ですが』と返って来た。
「それじゃあ、自己紹介も此処までにして仕事をするとしようか。あっ其処の君、アレを持ってきてくれない?」
「はっ、分かりました」
少年は近くに立っていたメイド姿の女性に白い箱に入った何かを持って来させると、箱の中から腕輪のような物を取り出して俺に手渡してきた。
「これは僕が次世代の神を認めた時に手渡す、聖なる腕輪と思ってくれればいいよ。使い道は直ぐに分かるから心配しないで」
「認めたって言うけど、初対面ですよね?」
「君から見れば初対面だけど、実は暇つぶしがてら君の行動を逐一、水晶球で見て居たんだよ。下界でどんな行動をして、どのような経験を積んでいたのかってね」
クロノスはそういうと、自ら手渡した腕輪を俺の手首にそっと装着させ、ここから先にある天空門と呼ばれる場所に行くことを促した。
最初に俺が豪華な椅子から立ち上がり言われるままに宮殿の奥へと足を進め、その次に光と闇の精霊王が後をついていくかのように奥の扉へと消えていく。
イシュナムも俺達の後を追って来たが、何故か俺が普通に潜り抜けられた門に行く手を遮られ、床に尻餅をつく結果となってしまった。
「何で? 目に見えない壁があるみたい…………」
「其処は僕に選ばれた人物、つまりは聖なる腕輪を持つ者にしか潜り抜けることはできないのさ。一度天空門の内部に入ってしまえば腕輪の意味はなくなるんだけどね」
「でも!」
「ミコトに付き従っている彼女等は精霊だからね、本来は実体を持たないんだよ」
「それじゃあ、私はこれから如何したら良いの?」
「う~~~ん、どうしようか?」
その後、宮殿の中で見知らぬ少女と共に、腕を組んで何かを考えこむ時空神クロノスの姿が見受けられたという。