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異世界を渡りし者  作者: 山田 隆行
雷の精霊編
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第164話 天へと誘う白き塔

この話で『雷の精霊編』は終了となります。


次回の更新からは愈々『天界編』が始まります。


シュナの昔話を聞いた場所から1日半歩き、漸く白き塔へと辿りつく事が出来た。


其処は鬱蒼と茂った森の中央付近から天高く聳え立つ、白く輝く塔だった。

しかもシュナから聞くところによると、何故か魔物はこの場所に近づく事は無く、森の生態系は数十年前から何ら代わり無いということらしい。


「到着したわね。此処に来るのも此れで10度目。今日こそは成果があることを期待して行きましょうか!」


シュナは此処に来て、急に元気が出たかのように鬱蒼とした森の中を進んでゆく。


(マスター、この森ですが何らかの結界が張り巡らされているようです)

(結界? 迷いの結界のようなものか?)

(いえ、魔物だけを寄せ付けないもののようです。現にマスターの後を付いてきていた、魔物が急に方向転換して逃げて行きましたからね)

(魔物が居たのか。気がつかなかったな)


ルゥと会話しながら、慣れた足取りで森を進む、シュナの後を追って森を進むと、ドーナツ状に開けた場所に頂上が見えないほどに天高く聳える白き塔が目の前に現れた。


「これが何者も侵入する事を許さぬ白き塔か」


塔の周りにはシュナの話しにあった外側から塔を昇ろうとした者達の墓なのか、所々に墓標のように剣や杖などが地面に突き刺さっている。


「ミコト、こっちこっち!」


シュナに呼ばれて塔の側面へと足を運ぶと、其処には懐かしい文字が塔に彫られていた。


「此れがこの前言っていた判読できない文字なんだけど、何か分かる?」


俺はそう聞かれるより前に、自ずと塔に手を触れていた。


其処にかかれていたのは異世界に渡る前に当たり前のように使用していた日本語だった。


「『塔に選ばれし者・・・・・・』」

「えっ!? 読めるの?」

「あ、ああ、良く見知った言葉だ」


其処にはこう書かれていた。


『神聖なる塔に選ばれし者が扉に手を触れしとき、おのずと道は開かれるであろう。 

ただし、異なりし方法で塔を昇りし時、何人をも区別する事なく、天罰は与えられるであろう』


日本語での記述、異世界を渡ってきた俺でしか読めない言葉で書かれている文。

とすれば、白き塔は俺のために建てられたと考えるべきか。


「ねぇ、ちょっと! なんでそんなに、すらすらと読めるの!? 私の数十年を返せ!」


1人で癇癪を起こしているシュナを横目に塔の正面へ行くと、扉には手形に凹んだ跡と先ほどと同じ日本語で『此処に手を置いてください』と書かれていた。


俺は横で服の裾を掴みながら興奮しまくっているシュナに『落ち着け』と声を掛けながら、扉に刻まれている手形にそっと手を当てると扉全体が、いや塔全体が眩い光を放ち始めた。


「えっ!? なに、何が起こっているの?」


やがて光は俺とシュナを優しく包み込むと、次の瞬間には俺とシュナの姿は、塔の前から掻き消えていた。


「ううぅ~まだ眼がパチパチするぅ。此処は何処?」


俺が気がつくと、其処には慌てふためいているシュナの姿と、良く分からない記号のような物が描かれている円柱状の壁、それにその場所から少し上に上がったところにある、何が何だか分からない円状の床。


先ほどまで居た場所から考えるに此処は塔の中なんだろうが、後を振り返っても足元を見ても、人が出入りできそうな扉は見当たらなかった。


注意して周りを見てみると、薄っすらとだが壁に亀裂が入っている。

恐る恐る亀裂を覗き込むと外が見え、俺達がいる場所が分かった。


其処は地上、何百mとも知れない雲海で一気にこの場所まで塔を昇ってきたことになる。


先ほどまで大騒ぎをしていたシュナはというと落ち着きを取り戻し、壁一面に描かれている記号に興奮しきっている。


(マスター、直ぐ上の階から精霊の気配がします。最後の上級精霊が此処にいるのでは?)

(シュナは良く分からない記号に興奮してるみたいだし、気にせずに上の階に行ってみようか)


俺は壁の前で一々叫び声をあげて興奮しているシュナを尻目に上の階へと行くと、其処には緑色の人型をした靄が立っていた。


(主様、漸くお会いする事が出来ました。私はこの世界を担当する雷の精霊でございます)

(これで最後の精霊か。此れまで長い道のりだったな)

(それでは精霊玉をお渡しいたします。腕輪を此方へ)


俺は雷の精霊の言葉に従い、精霊の腕輪を向けると緑色の靄の中から小さな玉が浮かび上がり、腕輪の空いている場所へとセットされた。


(それじゃあ、雷の精霊にも名前をつけないとな。何が良いかな)


俺は雷の精霊を前にして『雷だからサンダーに因んだ物にしようか、はたまた雷をライと読んでライナとでも名付けようか』と考えていたのだが。


(いえ主様、お気持ちは嬉しいのですが、その必要はございません)

(えっ? どうして)

(此処から先は天界の領域、此処で光の精霊王、闇の精霊王以外とはお別れでございます)


雷の精霊がそういうや否や、光の精霊玉以外の火、風、水、氷、土、雷の精霊玉から精霊の分霊ともいえる靄が出現し、その靄が空中で一箇所に集まると、次の瞬間には眼が眩むほどの光が目の前に広がった。


(主様、闇の精霊王が姿を現します)


ミラの言葉を聞いて光に眼を移すと、何時しか黒い靄でかたどられた1人の女性が姿を現していた。


(主様、お初にお目にかかります。光の精霊王と合い並ぶ、闇の精霊王でございます)

(あ、ああ、宜しく)

(主様のことは火の精霊や風の精霊を通して見ておりました。よくぞ、この『神塔』においでくださいました)

(闇の精霊王よ、話は其れくらいで宜しいでしょう)


ミラは光の精霊玉から人型の姿を現すと、未だ人型を取っている闇の精霊に重なるように移動する。


(初めてお会いした御方に挨拶をと思っていたのですが)

(そんな事よりも、一刻も早く天界へお送りしなければ)

(ところで、もう一方ひとかた此処にいらっしゃるようですが、彼女も天界にお連れするのですか?)


もう一方というのは、壁の前で興奮しているシュナのことだな?


(彼女には悪いけど、流石に連れて行くわけにはいかないだろう)

(分かりました。では主様を天界に送り届けた後、神塔自体と神塔に関する全ての記憶を消しましょう)


闇の精霊王はこう答えると、光の精霊王ミラと抱き合うような形を取り、水の精霊の時のような言葉にならない神聖な歌を謳い出し、その次の瞬間には塔の更に上の方から光の滝が俺の身体に降り注いだ。


その時の俺はあまりの綺麗な歌声に耳を奪われていたため、背後に忍び寄る気配に全く気づかなかった。


「わっ!? この光は何? とっても綺麗だね」

「ってシュナ、どうして!? 早く光から出ないと巻き込まれるぞ!」

「え? なに、聞えない。何て言ったの?」


漸くシュナが俺と同じ光の滝を浴びていた事に気がついた時には何もかもが手遅れだったようで、その次の瞬間には塔もろとも俺とシュナに関する記憶はその世界から消え失せていた。


「何てことだ。あの時、シュナの白き塔への同行を無理にでも拒否してさえいれば、このような事態にはならなかったのに」


俺が後悔していた頃、当の本人はというと・・・・・・。


「この光の滝、綺麗」


天界へと誘う光の滝の姿へと心を奪われていた。



なんとなく展開が読めていた方も居るとは思いますが、ミコトに巻き込まれる形でイシュナムも天界へと昇る事になってしまいました。

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