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異世界を渡りし者  作者: 山田 隆行
雷の精霊編
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第162話 予期せぬ同行者

盛大に騎士達に見送られながら城を後にした俺は、食料を買うべく商店街へと向かって歩いていった。


数分後に商店街へと到着すると、其処には色とりどりの野菜や果物、何に使うか分からない謎の黒い粉に、強烈な刺激臭を発生する謎の液体など……見ているだけでも楽しげなものだった。

俺は店先に山のように積まれている果物を店主に断って味見的に齧ると、口一杯に広がる甘酸っぱい果汁に舌の上でとろける食感に舌鼓を打ち、積まれている全ての果物を購入した。


その他に、味は微妙だが食べ応えのある大きさの果物や興味本位で衝動買いした野菜、所々に奇妙な斑点が浮き出ている正体不明の紫色の肉を数十kgと、占めて金貨5枚(500万円相当)で購入した。


「さて残りは金貨15枚だけど、流石に使い切れないな。倉庫の中にしまっておくか」


俺は買い食いをしながら街を歩こうと、銀貨数枚をポケットに入れて屋台の出店を食べ歩いた。

ふと両手に食べ物を持って歩いていると、前方からリミリアが此方に手を振って歩いて来る。


「ミコトさん、良かった。まだ出発してなかったんですね」

「リミリアさん? 如何したんですか?」

「ミコトさんにはこの国の恥ずかしいところばかりを見られましたが、皆感謝しています。有難うございました」

「いや改めて言われると流石に照れるんだけど・・・・・・」

「それと私達が救出した孤児達は宰相が住んでいた屋敷を利用して、非番の騎士隊がわるわる面倒を見ることになりました」

「それは良かった。じゃあ此れで安心だね」

「はい。今の子供たちがあるのもミコトさんの御蔭です」


そう言って俺は『これから子供達の服を貰いに行くんです』といって広場で別れたリミリアの背を見ながら街の外へ足を進める。


「さて、此れでこの街、この世界ともお別れか。話によれば、国境の街クレイアスから3日の距離にある白き塔だったな。これも最後だし、一気に飛んでいくか」


そう考え、大空に飛び立とうとしたところで後方から声を掛けられた。


「ミコトさ~ん! まってくださ~い」


そう言って冒険者風の服装をして、長い緑髪を風になびかせながら走ってくるのは、宮廷魔術師である1830歳のイシュナムの姿だった。

いつの間にやらミコト殿からミコトさん(・・)に呼び方が変わっているが。


「はぁはぁ・・・・・・やっと追いついた」

「イシュナムさん、一体如何したんですか?」

「私もミコトさんと一緒に白き塔に行こうと思いまして。私も興味があったんですよね」

「宮廷魔術師のお仕事は良いんですか?」

「それなら王妃様に了解を得て、お休みを頂きましたので大丈夫です。王妃様も『若いうちに好きなことをやっておきなさい』と仰っていたので御厚意に甘える事にしたんです」


若いうちにって見た目は少女だけど、1830歳の御婆ちゃんだろ?


「今、何か失礼な事を考えませんでしたか?」

「いや気のせいだよ」

「ところで馬も馬車も見当たりませんが、どうやって白き塔に向かうつもりだったんですか?」

「ん? 気儘に歩いていこうかなっと」


まさか、飛んで行こうと思っていたなんて口に出来ない。


「歩いてですか? う~ん、ちょっと待っていてください」


そう言ってイシュナムは俺の前に荷物を置くと、街の中へと戻っていく。

それから数分後、戻ってきたイシュナムは小型の馬車の御者席に兵士とともに鎮座していた。


「お待たせしました! 交渉の結果、クレイアスまで載せていってもらう事が出来ました」

「国の危機を救っていただいたミコト様と、宮廷魔術師様の仕事に御一緒できて光栄です。短い間ですが宜しくお願い致します」

「仕事?」


『仕事』という単語を聞いてイシュナムに視線を向けると、スッと目を逸らされた。


「さぁお乗り下さい。最速でクレイアスに向かいます」


そうしてイシュナムと共に馬車の後部座席へと乗り込むと、御者席の兵士が窓越しに一礼し、馬車を走らせ始めた。 


「仕事ってどういうことです? もしかして騙したのですか?」

「騙したって人聞きが悪い事を言わないでよ。ちょっと白き塔を調べに行くから、馬車を出してって言いに行ったら『宮廷魔術師の重要な仕事』って勘違いされただけよ」

「敢えて間違いを訂正しないっていうのは、結果的に騙したという事にならないか?」

「うっ、それは・・・・・・・・・ごめんなさい」

「まぁ、やってしまった事はしょうがないとして、このまま御厚意に甘えるとするか」


口元に笑みを浮かべながらイシュナムを見ていると、此方の意図に気がついたのか顔を真っ赤にして怒り出した。


「ひっど~い。自分もその気だったのに、私だけ怒られるなんて不公平よ!」

「ゴメンゴメン」

「許さないんだから!」


困ったな。老女の、もとい少女は腕を組み此方を睨みつけている。

というか何時の間にやら猫を被っていたかのような口調ではなく、砕けた言葉になっていた。


まぁ自分的には敬語で話されるよりも此方の方が好きだが。


「どうすれば許してくれる?」

「そうねぇ、私の事をこれからシュナって呼び捨てにしてくれたら許してあげる。私もミコトの事を呼び捨てにするから」

「それは流石に失礼じゃない? 齢1830の方に対して呼び捨ては」


御者席の兵士に彼女が1830歳であることがバレると面倒なので、年齢のところだけは小声で喋った。


まぁ偶然耳にしたとしても見た目とのアンバランスさで本気にはしないだろうが。


「ううぅ、年齢のことは言わないでください」


後に聞いた話では『シュナ』というのは子供の頃に親しかった友人から付けられた愛称なのだそうだ。


「分かった。それじゃあ、シュナだっけ?」

「うん! これからも宜しくね、ミコト」


その後、言葉のあやではなく本当に凄い速度で走ってきた馬車は、僅か1日半でクレイアスに到着した。


「それでは自分は此処で待っておりますので、お戻りになられる際は声を掛けてください」

「うん、アリガト。でも時間が掛かると思うから城に帰ってて良いよ。帰りは何らかの方法を見つけて帰るから」

「わ、わかりました。道中お気をつけて」


兵士はシュナに向けて頭を深く下げると馬車に飛び乗って、来た道を戻っていった。

「ふぅ、やれやれ・・・・・・」

「お疲れ様、シュナ」

「自分が嘘を付いた所為とはいえ、どこか罪の意識を感じるね」

「嘘は悪い事だけど、相手も喜んでいたみたいだし。気にしないほうが良いよ」

「そうだね。じゃこれから如何する? 塔まで歩けば3日の距離だけど、ゆっくり行く?」

「其れなんだけど、この街にちょっとした縁があるから、上手くいけば馬車に乗って塔に行けるかも」

「本当?」

「この街でギルド長をしているイナミスという女性に「誰か俺を呼んだかい?」面識が・・・・・・って何で?」


聞き覚えのある声に反応して振り向くと、其処には片目を眼帯で覆った隻眼の女性がショートパンツ姿に肩から提げたタオルで辛うじて胸が隠せているという、過激な格好をした女性が片手にビンを持って歩いていた。


「久しぶり。相変わらず過激な服装だね」


隣に立っているシュナも女性同士とはいえ、イナミスの格好に驚愕している。


「もうイナミスさん! 何回言えば分かるんですか。はしたない格好で出歩かないで下さいよ」

「ユナリー、怒ってばかりいると直ぐに老けるよ」

「誰の所為だと思っているんですか!?」

「ほらほら、知り合いも来た事だし。ちゃんとしな! ちゃんと」


その言葉そっくりそのまま貴女に適用されるのではないかと。

シュナも茹蛸にでもなったかのように顔を真っ赤にして固まってるし。


それから数分後、上着を羽織ったイナミスが改めて挨拶をしてきた。


「魔術師殿、元気だったかい? ケインの時は世話になったね」

「ミコト様、お久しぶりです」

「今日はどうしたんだい? 顔を見せに来たわけじゃないんだろう?」

「実は白の塔まで行きたいんだけど、近くまで行く用事があったら馬車に乗せてってくれないかな」


以前約束していた、困ったことがあれば力になるという言葉を信じて頼んだのだが。


「ケインの命の恩人の頼みに報いたいのも山々なんだけどね。運悪く全て出払って居るんだよ、悪いね」

「それなら仕方がないか、ゆっくり歩いていく事にするよ」

「急ぎの用があるのかい? 10日ほど待っていてくれれば、馬車も戻ってくると思うんだけどね」


歩いて3日の距離を10日待って馬車で行くのは流石に変だし、隣で塔の探索を楽しみにしているシュナも『早く行こう』と頻りに手を引っ張っている。


「いや、歩いて塔に行く事にするよ」

「困ったときは力になると言っておきながら、実際には力になれず悪いね」

「いえ、それじゃ失礼します」


シュナの何かを言いたそうな目に睨まれながら、俺たちは遠くに幽かに見える塔を目印に荒野を歩き始めた。


「ミコト、鼻の下伸びてたよ。まんざらでもないみたいだね、このスケベ」

「俺も男だし、しょうがないじゃないか」


何故か機嫌が悪くなったシュナを魔物から護りながら、塔に向けて歩き出し始めた。


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